〜EU加盟をめぐるポーランドの状況〜

 

 EU(欧州連合)の東方拡大は欧州にとって歴史的な好機であり、現在1998年から第5次加盟拡大プロセスとして13カ国が申請中であるが、既に現在の加盟15ヵ国からなるEUと交渉が始まっている。EUの東方拡大は比類なき大事業と言われているが、経済的水準 が低く農業国の多い中・東欧地域が対象となっている。加盟申請国に対してはEUの共通農業政策(CAP)の適用が大きな課題となっているが、そのためには膨大な予算を捻出 しなければならず、加盟協議は難航している。
 EUは2004年には第1陣として中・東欧諸国等10カ国(ポーランドおよびハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニア、キプロス、マルタ)の新規加盟を予定しており、それ以降ブルガリアとルーマニアが続くこととなってい る。
  今回は、加盟候補国の中で最大の国土と人口を持つ農業大国であるポーランドに対するEUの共通農業政策(CAP)の適用をめぐる動きについて報告する。

 

<ポーランド農民の不安>

 

 現役を引退した66歳の農夫チェスロー・ウローベルは、ポーランド北西部に位置するペ ジノ村にある門の柵に寄り掛かりながら、「1970年代の共産党主導者ジエレックのもとで は、物事は一番うまくいっていた。しかし、その後間抜けな電気技師ワレサがやって来てすべてをぶち壊した。今度はEU本部がやって来るというが、一体我々をどのようにして救ってくれるのであろうか。」とつぶやいた。
 これはポーランドの田舎で繰り返しよく聞かれる不満の言葉である。20年以上にもわたってポーランド農民の生活状況は悪くなるばかりで、ポーランドがEU に加盟してもさらに悪化すると思う農民がほとんどである。農村自衛集団長のアンドルゼイ・レッパーが率い るヨーロッパの懐疑的な民衆代表者たちは、EU加盟の約束をした政府に絶望しており、自分たちの生活を犠牲にしながら投資をしようとしている。
 EUがポーランドの加盟協議に関する決定を遅らせているという知らせが6月初めに届 き、農民たちの不安はさらに助長された。当初予定の2004年にポーランドがEU に加盟するためには、2002年中に加盟交渉を妥結する必要がある。交渉が妥結すればポーランドを含む加盟候補国10カ国では2003年に最終的にEUへの加盟の是非を問う国民投票が実施されることになる。
 しかしながら、今のところ今年の11月までには始まる気配はなさそうで、12月に残されている数週間で決着が図られなければ加盟時期が遅れることにもなりかねない。

 

<貧困な農村の実態>

 

 EUのアジェンダ2000(改革期間は2006年までの7年間で、2002年中に中間見直し予定)で示されている共通農業政策(CAP)は、ポーランド農業が必要としている生産性向上による所得増加や経済的に疲弊している農村地帯での雇用創出などにはほとんど役立たない。ポーランド農業の現状は、小規模農家、中規模経営、千ヘクタール以上の大規模経営がパッチワークのように混在している。例外はあるものの、低い生産性の中で農家は持続 的投資を行わなければならず、規模拡大や合理化、効率化が求められている。その上、現在の国内就農者260万人のうち100万人に対する新たな雇用機会の創出が必要である。
 ヨーロッパで最も広大な耕地面積を持つポーランドではあるが、農村地帯は経済的に疲 弊し高い失業率と低い生活水準の中、貧困にあえいでいる農民が多い。もちろん穀物、牛乳、豚肉、果物については大きな潜在生産力を持っているが、共通農業政策(CAP)の経済的目標が変化を促進するというよりは、生産割当てに応じて補助金の支払いを行うこ とで競争を制限し、農民の社会的地位を維持することにあるということが、ポーランド政府としても納得がいかない点である。ポーランドの一戸あたりの平均耕地面積は約8ヘク タールであるが、農地価格は極めて安くEU平均の7分の1に過ぎない。その上、土壌の質が悪い170万ヘクタールもの土地が農地として利用されていない。
 一方、ポーランドの農業団体を支配している企業的農家は、EU体制に合わせる最良の方法は、EU水準の農業補助金を導入し生産限度額を決め、農民自身による自発的な耕作 機会が与えられることであると主張している。農業生産性の向上が期待されないわけでは ないが、政府による支援の余地がほとんど残されていない中、農業経営を軌道に乗せるのは容易なことではない。
 欧州委員会の幹部は、ポーランド政府が生産拡大余地を十分に見積もってはいるものの、多くの小規模農家に対してあまりにも注意を払っていないとの見解を述べている。ポーラ ンド2百万農家の半数は、市場へ農産物をほとんど出荷していない。そして、裕福な農民は周辺に住む貧しい農民のための雇用機会を創り出すわけでもない。結局、ポーランドの全農民にCAPの恩恵が行き渡るような政治的意志は現在のポーランド政府にはまったく見当たらないといった状況にある。

 

<ポーランドに配分される膨大なEU予算>

 

 欧州委員会は今年に入りポーランドとの交渉において、同国の農業部門に対するEUの財政支出につき見解を示した。それによると、欧州委員会はポーランドに対してEU加盟当初の2004 〜2006年の3年間で総額約200億ユーロー(約2兆4千億円)に及ぶ支援を行 う構想を持っている。実にEU加盟候補国10カ国に支払われる資金の50%程度にものぼる。これにより最近の生産水準に基づき牛肉、牛乳、穀物の3つの主要管理部門で生産割当が導入されEUのCAPに組み込まれることになる。ポーランドに対する直接支払い(農業 支持の主要手段)は、加盟初年度がEU水準の25%、2005年に30%、2006年に35 %、その後も徐々に支給額を引上げて2013年に100%まで引上げられることにしている。
 また、EUによる補償支払いの対象外となっている半自給的な小規模家族経営農家は、農村開発計画の枠組みの中で新たなビジネス創出などのために年間750ユーロー(9万円)支給される。EUの至る所で見られるように、道路を含む大規模な農村開発計画の一環で もある。
 EUのフィシュラー委員(農業担当大臣)は、CAPの中間見直し検討の際、EUの東方拡大に関連して、農村開発対策資金を捻出するため農業補償支払いの段階的削減に言及した。農村開発部門に資金をきちんと振り向ける措置は「緑の政策」として有効ではあるが、その分の直接支払いの減少分を自国の財政負担で賄うのは容易ではなく対応が難しい。ポーランド農業省の幹部は、EUが大規模融資を行って小規模農家を支援するという農村開発計画を喜んで受け入れた。
 しかしながら、彼らは生産割当と直接支払いという鍵となる提案を批判した。EUは生産割当ての基準期間を1995〜1999年に設定することを提案しているが、ポーランドの農業生産はこの期間において最低の水準に落ち込んでいる。共産主義の崩壊、洪水、日照り、 それに輸出の減退によって農村経済は打ちのめされており、EU の生産割当の提案には強く反発している。ちなみに牛乳生産においては、欧州委員会は現在の125億リットルの生産高との比較において、年間89億リットルまでの生産制限を提案している。
 EU提案に対して、ポーランドは生産制限数値の引上げを要求しているが、その数値には自家消費分がおよそ30億リットル含まれるとして、委員会の幹部はその提案は誤っていると主張している。

 

<解決が難しい農業補助金問題>

 

 ポーランドのヤロスロー・カリノウスキー農業大臣は、農業補助金の10年間にわたる段階的支払いというEUの提案が農業部門の改革意欲を高め、他産業労働者との所得のアンバランスを回避するという主張に対して強く反発しており、補助金の早期一括全額支払いをあくまでも要求している。これは生産割当を伴うCAPを適用する場合、現在のEU加 盟国の農家との公平性を保つ意味もあり、資金不足のポーランドにとっては補助金の早期 受け取りが重要なポイントとなるからである。
 EU は今年12月になるまではこうした対立点を解決するための時間をポーランドに与えることはないだろうし、この秋までは交渉の手の内をけっして見せたりはしないだろう。EUのフィッシュラー委員(農業担当大臣)が今年5月に示したCAPによるEU農家に対する補償支払いを削減し、この削減分を農村開発費に当てるという構想がEU現加盟国の中で議論されている最中でもある。そしてポーランドがEUの現行CAPと同水準の補助金の一括支給を求めているのに対して、EU現加盟国は新規加盟国にも加盟初年度からEU予算の分担金を支払うべきだとの考えもあり各国の調整はついていない。
 いずれにしても、EU現加盟国および加盟候補国の予算支出に直接関係する農業補助金問題は容易に片付きそうもない。昨年の秋に誕生したポーランドの農民党と連立を組んだ新左派政権にとっては、EUとの加盟交渉が遅延すれば連立政権崩壊の危機となる可能性も否定できない。


 
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