地域農業47色
第12回 先進技術で中山間地対策すすめる/生産基盤守る独自の「みどり戦略」ビジョンを策定
JAグループ岩手の取り組み
① 先進技術で中山間地対策すすめる
■取り組み概要
中山間地域での農業の維持・継続へ今春、「先進園芸実証農場」を開設し、最新の栽培システムを活用したピーマン栽培に乗り出しました。JA全農いわてが中心となり反収向上・省力化の栽培モデル構築を目指して実証試験を開始しました。
■JA岩手県中央会の伊藤清孝会長より
高齢化や担い手不足による生産者の減少や拡大する耕作放棄地、変化する気象状況などの懸念から検討し3月に始めたばかりです。本州で最も広い面積の岩手県では中山間地域が多く、耕地面積の約8割を占めます。生産者の高齢化に伴う離農により特に中山間地の農地が荒れてしまう傾向にあります。3年ほど前、岩手県の農業の将来について検証した際に驚くべき推計が出ました。6万6600人いる基幹的農業従事者が2030年には2万3400人と半数を割り込む見込みです。対策を打たなければ岩手の農業への影響が大きいとの危機感から対策の一つとして考えました。
栽培品目は、岩手の園芸作物の中で生産量がトップクラスで、JA全農いわての取扱金額として最も多いピーマンを選びました。軽量で作業負担も少ない上、単価が安定していることにも着目、狭い面積でも栽培できるパイプハウスを導入して取り組む方法です。
ハウスは国が策定した「みどりの食料システム戦略」を考慮した施設を採用しました。土を使わない養液隔離床栽培で、排液リサイクルシステムによる化学肥料の低減や加温設備の有効性、複合環境制御の活用などにより、ハウス栽培で10a当たり10tといわれる収量を倍の20tに増やす目標も掲げます。省力化の観点から自動収穫ロボットを活用してみる計画もあります。
初出荷は5月の大型連休明けにしました。今後、データを積み重ね、場合によっては設備メーカーの意見も聞き中山間地域で普及できるモデルを構築する計画です。収量や所得を増やせるモデルになれば地域農業の起爆剤になる可能性もあり、非常に楽しみな取り組みです。

② 生産基盤守る独自の「みどり戦略」ビジョンを策定
■取り組み概要
JAいわてグループは、環境負荷軽減に取り組む持続可能な農業の実現へ、独自の「純情産地いわて『みどり戦略ビジョン』」を策定し2023年度から施策を定め、目標達成に向けて取り組んでいます。
■伊藤会長より
国の「みどりの食料システム戦略」を県域で具体的に進めるためにいち早くビジョンを策定しました。農作物の変化を見れば、地球温暖化が確実に進んでいることが分かります。対策を取らなければ環境が崩れてしまう危機感から現場の課題を洗い出し、22の項目を立てて従来の取り組みが戦略とどうつながっていくのか、今後どうすればいいのかという問題意識を共有し行動に移しました。
環境にやさしい取り組み項目の一つに盛り込んだ「土壌診断による適正管理」は、実際にやってみて納得しました。勘の世界ではなく、確たるデータを基にして施肥をすれば省力化や経費節減になることを実感したからです。現場の現状を踏まえて取り組むべき項目を設定したことから、組合員農家も抵抗なく進められたようで初年度の目標はおおむね達成しました。
2年目となる今年度は重点的に取り組む項目があります。具体的には水稲栽培での「秋耕」の実施、特別栽培や省農薬・省化学肥料による生産、農業用プラスチックの排出抑制などです。特別栽培米においては、販売先から一定のニーズがあることを踏まえ、主食用米で6630haの作付面積を維持していくこととしています。
統一規格のパレットを使った効率的な輸送体系の確立による省力化、法人向けに田んぼなどの圃場を管理するZ-GISの普及を引き続き進めます。併せて、JAいわてグループの行動や実践などの情報をホームページなどで広く発信していきます。

全国のJAグループに伝えたいことについて伊藤会長に伺いました
農協組織に入り40年ほどになりますが、農業を取り巻く環境は本当に変わりました。米を増産し国が買ってくれた時代には、農協が組合員農家のためにカントリーエレベーターやライスセンターなどの施設を盛んに整備しました。ところが人口減少により生産者や消費者も減り、食べる量が減ったことから米を麦や大豆に作付け転換を進める一方で、整備してきた米の施設は老朽化が進み、稼働率が下がっています。国会では農政の憲法である「食料・農業・農村基本法」が改正され、いよいよ具体的な基本計画の策定に入ります。思いつきや付け足しではない、時代に合った計画にしてほしいと切に願っています。農産物の価格転嫁はもちろん、農業予算も確保していかないと地域農業を守り抜くのは厳しい状態です。法律を実行する計画をJAグループとして、組合員農家と一体となり策定していくことになりますが、新たな農業施策にも取り組まなければならないとも考えます。
所得を確保して安定した生活ができる農業を実現できれば、魅力を感じて参入する新規就農者をはじめ、若者の担い手育成にもつながるのではないでしょうか。夢だけでは生きていけません。農業で稼げる仕組みづくりを、JAグループだけでなく国にもしっかりつくってもらえるよう働き掛けていかなければなりません。
また、カーボンニュートラルに向けた取り組みも、全国で本気になって進めていかなければなりません。岩手県では昨年、米やリンゴでは高温障害を受け、野菜も夏の長雨の影響で秋野菜の苗を植えられない状況でした。四季がなくなり夏と冬の二季になった感覚で地球温暖化の進行を実感しています。
国が策定した「みどりの食料システム戦略」を何度も読みましたが、実効性を確保するのは並大抵でないと思います。しかし足踏みをしていても仕方ありません。即効性だけを求めるのではなく、現場を見て必要な取り組みを見極め、積み重ねていくことが大事です。最初から完成形ができる訳ではないので、組合員農家1人1人が意識して行動した結果をみて、取り組み項目を増やしたり削ったりして軌道修正すればいいのです。各地で大なり小なり取り組みを進めているかと思いますが、場合によっては体系立てた施策の展開も必要ではないでしょうか。
地域農業の維持・継続も、環境負荷を低減した持続可能な農業生産の環境確保も待ったなしです。
