地域農業47色
第20回 農家所得確保へ園芸振興に力/多様な機能を持つ産直施設に期待
福井県JAグループの取り組み
① 農家所得確保へ園芸振興に力
■取り組み概要
福井県JAグループは、園芸の産地化に力を入れています。県や市町などと連携し、2021年度から県内各地で「園芸タウン」の整備を進めています。取り組み開始から3年が経過し、園芸産出額の増加など成果が出てきました。
■JA福井県中央会の宮田幸一会長より
JA経営のバロメーターは農産物の販売高がどれだけ伸びていくかということだと考えています。稲作地帯の福井県として、米は守っていかなければならない品目であることに変わりはありません。最近は品薄感を背景に高値で取り引きされている傾向にありますが、長い目でみれば人口減少は進み、米の販売高が減るとみています。農家所得を確保するためには園芸の推進が欠かせないと考え、雪深い福井でも一定の生産量を確保し出荷できる仕組みづくりに乗り出しました。
園芸振興の意識は元々、各地にありました。地元の旧・JA若狭管内は消費地のひとつである関西圏に近い立地を生かし、大型のハウスを整備しトマトやネギなどの生産振興を進めてきました。10JAが2020年に合併してJA福井県が誕生した際にも園芸振興の重要性を確認、共通認識を持っていた福井県が2021年度に始めた事業を活用し「園芸タウン」の推進を本格化させました。
歩き出したばかりですが、嶺北から嶺南までの3地域4カ所に「園芸タウン」を整備しました。地域性を踏まえて品目を選び、いずれも1億円規模の産地形成を目指しています。
「園芸タウン」を生かした産地づくりには新規就農者も加わり技術力を高めています。育成した産地を維持していくためには経営感覚のある若い世代の人材を育てていかなければなりませんが、これがなかなか難しい。次世代を担う人材育成を狙う県の「ふくい園芸カレッジ」で学んだ若手をはじめ、やる気のある人が関わり、雇用が生まれ、地域が元気になることに期待しています。
産地づくりに向けて農業機械などのリースやレンタルといった事業を生かしたサポートをしており、販売高は順調に伸びています。将来的には「園芸タウン」10カ所を整備し販売金額10億円の産地づくりを目指します。そのためにはJAの根幹となる営業力を強めて、どこまで販路拡大できるかが鍵を握ります。
② 多様な機能を持つ産直施設に期待
■取り組み概要
福井県JAグループは産直施設を核にした販売拡大と情報発信にも乗り出しています。4月にオープンしたJA福井県経済連の農産物直売所「TRETAS(トレタス)」は広域集荷便を毎日運行し品ぞろえを充実、ライブ配信できるキッチンスタジオなども生かし情報発信も進め、食と農のにぎわいを創出しています。
■宮田幸一会長より
福井市内で大型商業施設などが集まるにぎやかな地域に開設しました。販売機会の拡大はもちろんですが、次代を担う後継者の掘り起こしと育成、農業に対する消費者の理解醸成などさまざまな機能があります。
農産物直売所の売り場では、嶺北地域から嶺南地域までの農畜産物をそろえているのが強みです。「若狭牛」をはじめとする福井県を代表するブランド食材もあります。周囲の大型店との差別化を意識しています。併せて、規格外の農産物を加工した販売にも取り組み、付加価値を高めることで、農家所得のさらなる向上を目指しています。
品ぞろえを充実させるために広域集荷は欠かせません。トレタスから離れた地域の場合、JA福井県の農産物直売所に集荷拠点を置きました。農家にとっては地元の農産物直売所に加え、トレタスに出荷できるため販売する機会が広がりました。売れ行きはスマートフォンなどを使って確認できる仕組みも導入したことから、追加出荷して対応する農家もいます。デジタルを生かした取り組みのひとつです。
売り場では、後継者育成の観点から、農業高校の生徒が栽培した農産物を販売できるコーナーを設けました。農業への理解は、栽培して収穫・加工して終わるのはなく、販売まで経験してこそ深まるからです。学びを生かして農業の道を進んでほしいとの願いもあり企画しました。新たな農業者の育成につながればと期待しています。
メディアとの連携による情報発信に乗り出したのも特徴のひとつです。地元のテレビ局との共同運営で、ライブ配信などができるキッチンスタジオやホールなどを構え、来店客ら消費者理解を進める企画を進めるなど挑戦は続きます。
農家にとっては売り先が広がることで、所得が増え、生産意欲も増す。こうした状況に魅力を感じて農業を始める人が出てくる、という相乗効果を期待しています。
全国のJAグループに伝えたいことについて、宮田会長に伺いました
食料・農業・農村基本法の改正で、食料安全保障や食料自給率の向上、価格形成の在り方など持続可能な農業を推進するための柱が示されましたが、生産現場では働く人が少なく、農業者が減っているという現実に直面しています。これまでは農業に携わる人たちが一定程度いたため食料の増産にも対応できました。しかし今は作り手がいないのです。こうした環境で、自給率や生産額を上げていくのは正直、至難の業です。
国が推進する担い手への農地集積を、福井県としてもかなり進めてきました。農地中間管理事業が始まって10年になりますが、農地所有適格法人(農業生産法人)に所属する担い手は年を重ねる一方、引き継ぐ若手が入ってこないのが実態です。相続で受け継いだ田んぼを継続する後継者がいない、将来を依然として見通せない中、耕作者が農地所有者と結ぶ契約期間が従来の10年間から3年間などに短縮されるなど、さまざまな問題が浮き彫りになってきています。このままでは生産力が弱まってしまいます。労働力を確保するには、多種多様な方に応援してもらわなければ地域農業を維持できない時代になってきました。
地方では、15軒ある農家が5年後には半分になると予測される集落もあります。今後、だれが集落に住んで、農業や自然を守っていくのかと考えると不安です。全国統一の取り組みを進めるのは、場合によっては難しい部分があります。地域の実情や実態に合わせて県域のあるべき姿を見据え、お互いに助け合って集落を守り、農業の生産額を増やせる地域社会づくりを目指す手立てを考える時機を迎えました。
一方で、消費者の食や農への関心は高まっていると実感しています。身近な事例をあげれば、トレタスの近くに開設した体験農園では募集開始とともに用意した区画が予想以上に埋まってしまう人気ぶりでした。こうした消費者層に対し農産物直売所を基軸にした啓もう活動を展開し、農業や農村への理解を各地で広げていくべきではないでしょうか。