地域農業47色
第23回 官民連携で労働力確保を支援/農家を笑顔に
JAグループ千葉の取り組み
① 官民連携で労働力確保を支援
■取り組み概要
JAグループ千葉は、高齢化など農家の減少に伴う労働力不足などの課題解決に向けた支援に力を入れています。官民連携で2018年4月に立ち上げた千葉県農業者総合支援センターは担い手をはじめ農業に関心を高める新規就農者らの相談先として定着、多角的に労働力確保に取り組んでいます。
■JA千葉中央会の松元善一会長より
センターは、課題解決策などを検討する「企画班」と、農業者を訪問して要望などの情報を聞いたり支援策を提案したりする「実践班」が軸になった専門組織で、JAグループ千葉と千葉県、県園芸協会、県農業会議で組織する千葉県農業者総合支援協議会が運営母体となっています。JAグループ千葉と県の職員を合わせて約30人がメンバーとなり、ワンフロア・ワンストップで農業に関する問題に何でも相談を受けられるのが特徴です。
設置して7年になりますが、取り組みに対する認知度が高まり、農業者や就農希望者らからの相談件数が年々増えています。特に、新型コロナウイルスがいったん収まった時期から新規就農者を中心にした相談が増えました。移住といったライフスタイルにも注目が集まり、若手だけでなく会社を辞めて挑戦するシニア層など、年齢に関係なく農業に興味・関心のある人が多くなっていると受け止めています。
とくに新規就農に関してはさまざまな問題があります。農業をするには農地や家が必要だし、農機をそろえれば費用がかかります。地元のJAで他県から来た就農希望者を受け入れた際に感じたのは、農業に従事する場合、農機具や収穫した農産物等を保管できる一軒家を拠点にしたほうがいいということでした。そして地域農業を担う農業者の人材を育てていくためには行政とJAをはじめ農家も一体になって協力しなければなりません。入り口となる相談業務は大事です。
農業所得の向上へ、例えば、農閑期に栽培可能な新たな品目の導入を提案するなどの経営改善の支援もしています。農作業をこなす労働力の確保へ、県内にある14JAで無料職業紹介所を開設し、11JAが無料職業紹介所の求人情報を一括掲載するウェブサイトのほか、スマートフォンを利用して農家と求職者を結びつける「1日農業バイトアプリ」を使ったサービスを11JAで活用・展開しています。農繁期に労働力を確保する、そして農業に関心のある人にまずは農業をしてもらうという仕掛けです。登録する農家数や求人件数、応募数のいずれも増えており、新たな農業者の発掘にもつながることを期待しています。

② 農家を笑顔に
■取り組み概要
JAグループ千葉は、豊かな自然と農業の果たす役割や食を考えてもらう食農教育にも力を入れています。特に学校給食での地産地消の取り組みは、各JAが地域で栽培・収穫された農畜産物の提供を継続し、農業者の思いを伝えています。
■松元善一会長より
生きるために最も大切な食を生み出す農業を幼少期から教えていかなければならない、との思いで長年、力を入れています。小学校での体験農業がそのひとつです。例えば、枝豆づくりの体験では、植え付けから収穫・試食だけでなく、自宅に持ち帰ってもらい、家庭で味わってもらうこともあります。「食」と「農」の大切さを広く伝えたいからです。
各JAでは収穫した特産品を地元の学校給食に提供する取り組みも進めています。新米をはじめビワ、梨など地域の旬の特産物や栽培する農家を知ってもらうとともに、採れたての農産物のおいしさを届けたいとの狙いがあります。地道な取り組みにより興味・関心を高める子どもたちは増えています。学校給食を通じてより一層、千葉県産の農畜産物への理解を深めてもらうとともに、食文化の継承につなげていく取り組みを強めていきたいです。
食農教育を深めていくには、経験や体験が鍵を握ります。市民農園でも花壇でも規模は関係なく土に触れる習慣をもってもらい、育てる育てる喜びを実感してほしいのです。農園の区画を貸し出すJAもありますが、全員参加型の農業が望ましいです。農業への理解者が広がれば農家の笑顔も増える。農家の笑顔が大好きです。笑顔あふれる農家が増えるように、期待に応えられるように食農教育を通じて農業ファンを増やしたいのです。
JAグループ千葉は、千葉県や千葉県教育委員会と、令和6年12月25日に「ちばの子供たちへの食育推進に関する協定書」を締結予定です。連携・協働事項を「農業体験活動の推進」「学校給食における地場産物の活用促進」「その他農業の理解につながる食育の推進」としており、これを機に、これまでの食農教育の取り組みを拡大・発展させ、将来を担う子どもたちへの食・農への理解醸成を加速させていきたいと考えています。

JAグループに伝えたいこと
農家のために一生懸命に努めて、所得を増やしたいという思いを常に持っています。農家に笑いが生まれるように、育てた農畜産物を少しでも高く販売する手伝いをしていくのがわれわれの役目だと考えます。新渡戸稲造の「つとめても、なおつとめても、つとめ足りぬはつとめなり」の言葉どおり、一生懸命大事に、見返りを求めることなく、農家のための取り組みを重ねればJAグループへの理解が広がるはずです。
農畜産物が少しでも高く販売できる環境にするために期待しているのは「改正食料・農業・農村基本法」に盛り込まれた「適正な価格形成」の実現です。生産にかかった分のコストを十分に乗せられずに販売する状況にあり、品目や農家の規模によっては時給がほとんどない状況にあります。農水省の統計を基に分析した情報によると、2022年の農業所得を時給に換算すると米(水田作)が10円という衝撃なデータがありました。家族農業の「個人経営体」では作れば作るほど赤字になる厳しい状況です。一方で、スーパーなどで一時、精米を買えなくなり、価格が高くなったとの声があります。しかし高いといっても茶わん1杯に換算したら40円程度。40円で食べられるものは他にあるのでしょうか。
農家の事業継承は本当に難しい。地域農業を維持するにはコストに見合った価格、再生産可能な価格を実現させ、サラリーマン(給与所得者)並み、もしくはそれ以上の所得を得られる環境づくりが求められます。こうした現実をもっと多くの人に知ってもらうために継続的に訴え続けなければなりません。
全国各地で悩まされている自然災害への対応も考えなければなりません。地元では2019年の台風15号で特産のビワに大きな被害が出ました。倒木のため収入源が断たれた農家もいたため、対応を検討し、収穫までの期間が短いレモンの導入を進め「南房総レモン」として出荷・販売を始めました。自然災害に強い品目の導入による農家所得の確保・向上に結び付ける努力も求められています。
