地域農業47色
第34回 現場の声積み上げ政策実現/幸せ実現を目指した運動も始動
JAグループ愛知の取り組み
① 現場の声積み上げ政策実現
■取り組み概要
JAグループ愛知は、政策実現力の向上を目指した取り組みを重点的に進めています。地域農業が抱える課題が変化する中で、農家組合員などの現場の声を集めて発信し、生産力強化に向けた施策の充実といった成果を上げています。
■JA愛知中央会の長谷川浩敏会長より
長年取り組みを続けているのには理由があります。地域農業を次世代に引き継ぐためには、現場の課題を解決することが不可欠だからです。最近では、生産資材価格の高止まりが続いているにもかかわらず、生産コストが農産物の販売価格に十分反映されないため、農家経営が厳しい状況にあります。現場の声を聞き、地域農業の維持・継続に何が必要かをまとめ、訴え続けることが重要だと考えています。
現場の切実な声を反映した成果の一例が、愛知県独自の「あいち型産地パワーアップ事業」です。この事業は、国の補助事業の要件を満たさない産地を支援するもので、生産力向上を目指す意欲のある農家や団体が活用できます。共同利用する施設などを整備したり高性能な農業機械を導入したりする場合、費用の一部を支援してくれます。この事業が創設されるまでは県単独の補助事業の予算は100万円程度でしたが、2018年度補正予算で新たな事業として、1億円の予算でスタートしました。直近では、2024年度補正予算と2025年度当初予算あわせて4億円まで拡充されました。これは、JAグループ愛知として農家組合員らの声を聞き、具体的な内容を県に対して積み上げた成果だと自負しています。充実した事業を農家組合員に一層周知し、生産力を強化する環境を整えなければなりません。
一方で、農家や農地の減少、後継者の育成といった課題も存在します。後継者を育てるには、再生産可能な価格の実現と所得を確保できる環境を整え、“稼げる農業”につなげる必要があります。加えて、農産物の安定供給には、食農教育を軸にした消費者理解の促進が重要です。JAグループ愛知は、県教育委員会との連携協定の一環として「あいち食農教育表彰制度」を設け、農業理解につながる活動をたたえるとともに優良事例の情報共有と発信に引き続き力を入れていきます。

② 幸せ実現を目指した「JA版ウェルビーイング運動」も始動
■取り組み概要
持続可能な地域農業や社会の実現に向け、JAグループ愛知は「JA版ウェルビーイング運動」の実践にも乗り出しました。組合員活動と総合事業の好循環により、組織基盤のすそ野を広げていく狙いもあります。
■JA愛知中央会の長谷川浩敏会長より
運動は、農家組合員や地域の皆さん、そしてJAグループの職員の幸せの実現を目指し、なくてはならない組織であり続けたいとの思いがあり始めました。昨年の県JA大会では運動の必要性を確認し、県と昨秋結んだ包括連携協定では、農業分野にとどまらず地域の暮らしや活性化に関わる幅広い項目を盛り込んであらためて連携・協力していくことにしました。
幸せの実現に向けた取り組みのひとつが「拠り所」の設置です。JAの支店の空きスペースなどを地域の拠点として生かして交流を深めてもらう場にしたいと思っています。
既に取り組んでいる例として、地元のJAでは、みそ造りを学ぶ講座や、(レクリエーションや簡単なゲームなど)デイサービスのような時間を楽しめるボランティア企画などもあります。「拠り所」を有効活用し地域のニーズや実態に合わせた企画を通じて交流を図ってもらう機会につなげたいです。こうした地域を結ぶ活動にはJAの女性部の力が大きいと期待しています。
また農家組合員や地域の皆さんが抱える困りごとにしっかりと対応していくことがJAとして重要な役割だと考えます。関心が高い分野のひとつに相続があります。特に生前相続に関する相談は多く、かなり早い段階から対応しているJAもありますが、税理士ら専門家の協力を得た相談窓口の開設などを含めて体制の充実を図っていきます。
「JA版ウェルビーイング運動」は、農家組合員や地域の皆さんのための取り組みを円滑に展開していくため、JAグループで働く職員のエンゲージメント向上も目指しています。
「JA版ウェルビーイング運動」は始めたばかりの運動ですが、取り組みへの理解推進へ5月下旬に特設ホームページを開設し、ロゴマークも作りました。県内のJAでも広く使ってもらい、見た人が関心を持ってもらえるよう、まずはウェルビーイングの考えを発信する「ウェルビーイング広報」に力を入れています。

図②:第17回愛知県JA大会(令和6年度開催)資料より一部抜粋

図③:「JA版ウェルビーイング運動」のロゴマーク
全国のみなさんに伝えたいこと
愛知県は、農業と製造業をはじめとする工業がバランスよく発展している地域です。
この特徴を活かし、さまざまな角度から仕事を通じて学ぶことができます。ただ全国的な傾向と同様に少子高齢化や人口減少が進み、農業現場だけでなくJA組織としても人材確保に苦労しています。民間企業が初任給を引き上げて人材を確保する動きがある中、JAグループへの関心をどう高めていくか、地域になくてはならないJAとして経営基盤を確立するためにどうするかを考え、昨年から協同組合や事業内容を広く知ってもらう「オープンカンパニー」を始めました。説明会はJA単位でも開催していますが、人材確保のための採用の間口を広げる目的で、JA愛知中央会が中心になりJAグループ愛知を知ってもらおうと取り組んでいます。
また、職員が長く働きやすい職場の環境づくりにも力をいれています。職員を採用して終わりではなく、継続して働きがいや満足感を得られる職場であることが重要です。そのため、県内全JAで実施した役職員の働きがいや組織への貢献意欲を把握する「エンゲージメント調査」の結果を踏まえ対応策を進めています。この取り組みは「JA版ウェルビーイング運動」の一環として位置づけており、職員の幸せを実現できる職場を目指しています。
併せて、職員の帰属意識を高め、JAに対する理解と意識を深めるための職員教育も欠かせません。地域に密着したJAだからこそ、さまざまな活動に積極的に参加できる体制を整える必要があります。またJA職員にとって、農家組合員とのつながりを大切にすることは時代が変わっても変わることのない使命です。
今年は国連が定める「国際協同組合年」です。国会でも衆参両院で協同組合の振興を図る決議が可決されました。この機会に、協同組合の理念を改めて確認し、考えるきっかけとしていただければ幸いです。
