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地域農業47色

47都道府県JAグループの農業情勢とそれを支える取り組み等について、トップのインタビューも盛り込んで紹介いたします。

第35回 戦略的な生産振興を推進/総合事業と協同活動を生かした組織・地域の活性化
JAグループ三重の取り組み

① 戦略的な生産振興を推進

■取り組み概要

 JAグループ三重では、水田農業を将来にわたって続けていくために、米・麦・大豆の需要に応じた生産振興に注力しています。さらに、かんきつ類などに続く地域の特産品として、ブドウやイチジクといった果樹の栽培にも力を入れ、生産の幅を広げています。

■JA三重中央会の谷口俊二会長より

 米・麦・大豆では、場を複数の区画に分けて転作する「ブロックローテーション」を行ない、需要に応じた生産を進めています。とくに主食用米は、品質向上や収量確保に向けた取り組みを強化しています。

 早場米地帯である三重県では、7月末ごろから収穫が始まりますが、近年は刈り取り前に高温が続き、収穫時期に集中豪雨に見舞われるなど、異常気象の影響を受けています。また高温障害の影響もあり1等米比率が低い傾向にあります。

 気候変動に対応するため、特に品質向上は喫緊の課題です。現場ではまず、土づくりや水管理など基本的な技術を徹底し、高温耐性品種の作付け拡大や新品種の導入、計画的な種子生産などを意識しながら、地道な努力を重ねています。

 麦や大豆についても、実需者の求める品種や数量を県域で協議し、計画的に栽培しています。県内の製粉会社や加工組合などと連携した作付け推進により、小麦の作付面積は全国4位を誇ります。ただ、米と同様に異常気象の影響を受けており、高温障害や病害に対応するための後継品種の導入に向けて行政と連携し、単位収量と品質の向上に努めています。

 こうした中で新たに着手したのが、「フルーツ生産振興への挑戦」です。2022年時点で三重県における果樹の農業産出額は約62億円と10年前に比べて約14%も減少しています。JAのファーマーズマーケットで販売されている果樹の多くも県外産というのが現状です。

 こうした状況をふまえ、県産果樹の生産・供給を進めることは、農業の活性化や農業者の所得向上にとどまらず、健康づくりへの貢献にもつながると考え、今年度から本格的に取り組みを始めました。現在は、地元JAが育苗ハウスなどを活用したブドウ栽培の実証を開始しており、生食や加工用ブドウの産地化をめざす動きや、イチジクの栽培に挑戦するJAも現れています。

ブドウの苗木の定植の様子

② 総合事業と協同活動を生かした組織と地域の活性化

■取り組み概要

 JAグループ三重は、JAの強みである総合事業と協同活動を生かし、地域の活性化を推進しています。特に「健康増進」と「食農教育」を核に、幅広い世代へのアプローチを進めています。

■JA三重中央会の谷口俊二会長より

 次世代とのつながりを深め、組織と地域を相互に活性化することを目的に、JAでは空き店舗などを活用した「ふらっとほーむ」を展開しています。地域の皆さんが、好きな時間に気軽に立ち寄り、交流や楽しみの場として利用できる居場所づくりを進めており、現在では県下で26カ所に広がっています。特に、元気な高齢者の皆さんに多く利用されています。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、一時は対面活動の中止が余儀なくされ、運営の継続が懸念された時期もありましたが、活動再開後には「ふらっとほーむ」への期待の大きさが改めて感じられました。地域によっては子どもたちも訪れ、世代間交流にもつながるなど、新たな展開が見られています。今後もこうした場の提供を通じて、地域課題の解決やコミュニティの維持・活性化を図り、食と農を基軸とする地域に根ざした協同組合としての役割を果たしていきます。

 また、JAの総合力を活かした健康づくりにも力を入れています。「JA健康寿命100歳プロジェクト」を中心とした活動を展開しており、健康に暮らすためには、食事・運動・健診の三要素が欠かせません。これらすべてに関われることは、総合事業を展開するJAならではの強みです。健康を暮らしの中心に据えることで、「食」や「農」について自分ごととして捉える機会が生まれ、JAグループが取り組む健康増進活動の意義は、より大きくなっていると感じています。

 さらに、こうした自分ごととしての意識を育む手段として、食農教育も欠かせません。出前授業にとどまらず、JAのファーマーズマーケットを通じて、地産地消や国消国産の重要性を発信し、地域の皆様の消費行動に結びつけていく必要があります。今後も、世代ごとの課題や目的を明確に設定し、情報を共有しながら段階的に取り組みを広げていきます。

JA健康寿命100歳プロジェクトの様子

全国のみなさんに伝えたいこと

 農政の基本方針や政策の方向性を示す令和6年の「食料・農業・農村基本法」改正では、農産物の適正な価格形成の必要性などが盛り込まれました。現在、生産現場では、肥料や燃油など、農業に必要な資材価格が高止まりしているのが現状です。

 将来にわたって日本の農業を持続可能なものとしていくためには、農産物の適正な価格形成が必要不可欠です。ここで申し上げる価格とは、決して「利益を追求するための価格」ではなく、農業の継続に必要な生産コストを確実にまかなえる水準であるべきだと考えています。こうした考え方については、JAや生産者のみならず、消費者の皆さまにも理解を深めていただくことが重要だと感じています。

 「国内で食料が足りなければ輸入すればいい」との考えもあるかもしれませんが、もし世界的に食料難となった場合、輸入に頼っていると供給が途絶えるリスクがあります。食料が必要になっても、短期間で増産はできません。だからこそ「国消国産」、すなわち、私たちの国で消費する食料はできるだけこの国で生産するという考え方を、社会で共有して進めていく必要があると考えます。基本法の改正は、食や農への理解を広げるチャンスでもあります。地道ではありますが、各地での食農教育の継続が重要です。

 最近、米に関するニュースを目にする機会が増えているかと思います。こうした機会を通じて、少しでも多くの方に、あらためて日本の農業について思いを寄せていただけたら、大変ありがたく思います。広い農地での大規模な営農を担っている方々も着実に増えてきています。一方で、各地の農地を日々支える家族経営など、中小規模の生産者の方々も大勢います。全国には、整備が進んだ大区画の農地もあれば、そうではない厳しい条件の中で営農を続けている地域もあります。そうした多様な現場がある中で、もし中小規模の生産者が衰退してしまえば、耕作放棄地の増加などにより、地域の風景や暮らしのあり方にも、影響が出てくることが心配されます。それぞれの地域が置かれている状況や環境の違いにも目を向けながら、日本の農業がこれからも持続可能なかたちで続いていくよう、皆さまと一緒により良い方向を考えて、実践していけたらと考えています。

JA、生産者、地域と農業の未来をともに考え行動していきたいと話す谷口俊二会長
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