地域農業47色
第38回 安定供給継続へ産地総点検/「とさのさと」を軸に地域活性も
JAグループ高知の取り組み
① 安定供給継続へ産地総点検
■取り組み概要
JAグループ高知では、国産農畜産物の安定供給と農業者の所得増大の実現に向けて、「産地総点検運動」に全力で取り組んでいます。営農部門と販売部門の連携も強化し、信頼される産地の維持・発展を目指しています。
■JA高知中央会の久岡隆会長より
「産地総点検運動」を進める背景には、JAが集荷し、共同で選別・出荷する系統共販を一層強めていきたいとの思いがあります。高知県の園芸農業は、100年の歴史を持つ系統共販の仕組みとともに発展してきました。生産者が個別に農産物を市場出荷するのではなく、県域でとりまとめて確実に届ける積み重ねにより発展し、選ばれる産地になりました。
しかし、近年は農業や生産者を取り巻く環境の変化で、より強固で安定的な出荷・供給体制が必要になっています。市場の求める「まとまった出荷」に対応できる強みを再構築すべく、部会活動や販売体制の強化、流通・出荷規格の見直しなど、6つの柱を掲げて2024年9月に産地総点検運動を開始。12月には県JA大会でも正式に決議されました。
「ナス」「キュウリ」「ピーマン」「シシトウ」「ニラ」「ショウガ」「ミョウガ」の主要7品目については、県域で進捗を管理し、行政とも連携して進めています。2025年7月には現場ヒアリングを実施し、9月末の実績報告を踏まえて今後の方向性を検討する予定です。
営農部門においては、意欲ある生産者に寄り添った営農指導員の役割がますます重要になっています。生産者にとって、よき相談相手や橋渡し役となる人材の養成に向け、特に若手の営農指導員を対象にした人材育成プログラムを策定し、県域全体での支援体制を構築していきます。また、南海トラフ地震などの災害に備える必要もあります。今年度新設した「JAグループ高知 企画戦略室」が中心となり、生産者に影響を与える営農・販売事業のBCP(事業継続計画)対応について整理を進めています。

② 「とさのさと」を軸に地域活性も
■取り組み概要
JA高知県をはじめとするJAグループ高知が運営する、ファーマーズマーケットやセレクトショップ、量販店が一体となった複合施設「とさのさと」には、地域活性化やコミュニティ維持への期待が寄せられています。この施設を拠点に、「にぎわいづくり」をはじめ、国消国産の推進、農商工や協同組合間との連携が進められています。
■JA高知中央会の久岡隆会長より
「とさのさと」は2019年のオープンから6年が経過し、高知の食の魅力を体感できるにぎわいの場として定着しています。高知市民を中心に広く県民に親しまれ、観光客を含めて連日多くの来店客でにぎわっています。
この施設は、地域農業を支え、組合員と地域住民を結びつける新たな地産地消の拠点として、加工品を含めた県産品を一堂に集めて販売しています。100年の歴史を持つ系統出荷の土台があったからこそ、こうした取り組みもスムーズに実現できました。
今後は、県内各地にあるJA直販所(農産物直売所)との連携強化を図るため、2025年9月末までに県域の協議会を立ち上げる予定です。各地の店舗でも県産加工品の取り扱いを広げる仕組みを整備し、JA直販所の目指すべき姿や役割について議論を深め、具体的な施策を検討していきます。
また、セレクトショップの「アグリコレット」は地元の逸品を販売するだけでなく、農商工や協同組合間の連携で生まれた企画や情報発信の拠点としても機能しています。例えば、県農商工連携協議会が打ち出す「とさのさとプロジェクト」では、種類豊富なぽん酢や出汁を紹介し、来店者に新たな食の楽しみ方を提案しています。これはJAグループだけでは出てこなかった発想です。農商工連携では大学の集中講義の開催支援、協同組合間連携では「協同組合フェスタ」の開催など、連携を強めながらさまざまなプロジェクトを実施しています。
JAグループ高知としては2024年9月から、県産農畜産物を消費者に選んで食べてもらう「おいしい選択プロジェクト」に乗り出しました。若手・中堅職員が中心になり、食農教育の強化をはじめ「とさのさと」を拠点とした活動を進めようと、知恵を出し合っています。来年度以降は、「JAグループ高知 企画戦略室」が中心となり、活動の実践と深化を進めていく予定です。ただ売上を追うのではなく、地域との関係をどう築き、持続的に発展させていくかが重要だと考えています。

全国のみなさんに伝えたいこと
現在、連続テレビ小説の舞台となっている高知県には、番組を通じて関心を寄せてくださっている方も多いのではないでしょうか。テレビで見聞きするだけでなく、ぜひ実際に高知を訪れていただき、独自の文化や特産物の魅力を体感していただければと思います。
同じ農畜水産物でも地域によって楽しみ方は異なります。その魅力は現地で体験することで、より深い理解と愛着が生まれるはずです。スーパーなどで「高知県産」と表示された農畜水産物を手に取る機会がありましたら、ぜひその背景にある生産地の想いや努力にも思いを巡らせていただけると幸いです。
特に今年は米の生産・販売動向への注目が集まっています。報道や情報の切り口もさまざまありますが、米は日本人にとって大切な主食として位置づけられていることをあらためて実感しました。大事な食料を生産者が作り続けるためには営農を継続できる適正価格の実現が欠かせません。決して高く売れればいいという訳でなく、持続可能な“値ごろ感”が重要だと考えています。
もちろん、日本の食を支えているのは米だけではありません。米以外の作物についても、いかに国内で安定的に生産し供給していくかが重要です。ぜひ消費者の皆さまにもその点をご理解いただきたいと思っています。
また、今年も記録的な猛暑が続いており、気候変動が農業現場に及ぼす影響は非常に深刻です。高知県内でも果樹や露地野菜など高温による生育障害が発生しています。高温に耐える品種の開発には県が取り組んでくれていますが、異常気象への対応はJAや生産者で解決できる問題ではありません。ゲリラ的な集中豪雨がいつ、どこで発生するのかも分からない中で、農村部、都市部を問わず共通の課題となっています。地球温暖化の問題には、国を挙げて真剣に向き合い、対策を講じていく必要があると強く感じています。
