年明け以降、アメリカの農業団体の年次総会や農務省のイベントなどに参加し、トム・ビルサック農務長官¹のスピーチを何度か聞く機会を得た。
本号では、印象に残ったビルサック長官の言葉をいくつか紹介し、バイデン政権の農業・農政に対する姿勢を垣間見たい。日本の農業関係者も共感する部分があるだろう。
中小規模に焦点を
「近年、アメリカは過去最高の農業所得を記録しました。しかし、それでも、50%の農家は赤字で、40%の農家は収入の部分を農外から得ています。残りの10%(の非常に大規模な農家)が大金を得ています」
「アメリカの農業は大規模化し、生産性を向上させる一方で、中小規模の農家は廃業してきました。私の前任のパーデュー農務長官²は正直で、『大きくなるか、退場するか』と言っていましたが、私はこの言葉を受け入れることはできません」
「大規模化は効率的であっても、レジリエンス(しなやか)ではありません。私たちは違う構造を作ろうとしています」(以上3点とも3月6日農業団体の年次総会にて)
「(現在議論中の)農業法を協力して作り上げることで、中小規模の農業者に真の機会を創造することができると期待しています。中小規模の農業者が生き残り、繁栄することは、農村地域に住む人々が増えることを意味します。人が増えれば、学校を維持し、病院やヘルスケアの機会を拡大でき、小さなコミュニティーに不可欠な中小企業にも、新たな機会や顧客を生み出すことができます」(3月28日下院農業委員会の公聴会にて)
1 農業が盛んなアイオワ州の知事を2期務めた後、オバマ政権で8年間農務長官を務めた。退任後はアメリカ乳製品輸出協会の会長に就任したが、バイデン政権で再び農務長官に指名された。生後間もなくして孤児院に入り、養子として育った経験も持つ。
2 トランプ政権時代の農務長官。
多様な収入機会の創造
「今後重要なのは、作物や家畜の販売収入、政府からの支援に加えて、より多くの多様な収入機会をつくることです。気候変動の課題への適合はチャンスでもあり、持続可能な農業を実践し、その価値が市場で評価されることによって新たな収入源となります。有機農業への移行や生態系サービス市場³の活用、地域における食肉・食品の加工能力の向上、廃棄物の活用・持続可能な航空燃料開発を含むバイオエコノミーへの投資、地域フードシステムの構築など、農務省は新たな収入の機会づくりに力を入れています」(2月23日農務省のイベントにて)
3 持続可能な農法の実践を通じて得られる水質浄化、炭素隔離、洪水緩和、野生生物の保護など、人間の福祉に直接または間接的に貢献するサービスの売買を行う市場。
食料安全保障の基盤
「毎朝、私たちは世界最強の経済の中で目覚めるのです。なぜ最強なのか、それは非常に多様性に富んでいるためです。なぜ多様なのか、それは私たちが食料の安全保障を確立した国だからです。他国に依存しなくても、自分たちで食料を供給することができるのです。これは、経済的、国家安全保障的にも、非常に大きな利点です。皆さんが経済の基盤を作り上げることで、他の多くのアメリカ人がさまざまな仕事の機会を追求できるのです。私たちはそのことに感謝しなければなりません」(1月9日農業団体の年次総会にて)
ビルサック農務長官のツイッターより