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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカの黄金時代 Day1

[March/vol.165]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 -アメリカの黄金時代がいま始まる。-
 2025年1月20日、アメリカの第47代大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、就任演説の冒頭で国民にこう語りかけるとともに、「トランプ政権下の日々において、私は非常にシンプルに、アメリカを第一に据える」として、アメリカ第一主義を改めて鮮明にした。

 トランプ大統領は通商政策についても触れ、「私はただちに、アメリカの労働者と家族を守るための貿易システムの改革に着手する。他国を豊かにするために自国民に課税するのではなく、自国民を豊かにするために外国に関税を課す」と述べた。

 就任式後、トランプ氏はこれまで主張してきた政策を早速実行に移すべく、就任初日に多くの大統領令等に署名した¹。国境の壁建設や不法移民の強制送還の強化、パリ協定からの離脱、電気自動車義務化の撤廃、アメリカのエネルギー生産の拡大、世界保健機関からの脱退、政府職員の在宅勤務の終了、2021年1月の議会乱入事件に関与した人々への恩赦など、内容は多岐にわたるが、ここでは大統領覚書の一つである「アメリカ第一の通商政策」の内容について、少し長くなるが詳しく見ていきたい。同覚書において、トランプ氏は関係省庁に以下の旨の指示を出した。

1 アメリカ議会専門紙The Hillによれば、トランプ氏は就任初日に法的拘束力を持つ26本の大統領令(Executive Order)および12本の大統領覚書(Memorandum)、法的拘束力を持たない4本の布告(Proclamation)に署名した。大統領令と大統領覚書は類似しているが、覚書は大統領の法的権限を引用する必要がなく、連邦官報への掲載も義務付けられていない。

【アメリカ第一の通商政策の概要(主なもの)】

<不公平かつ不均衡な貿易への対処>

・ 商務長官は、巨額で慢性的な貿易赤字の原因、それに起因する経済および国家安全保障への影響とリスクを調査し、赤字を是正するための世界規模の追加関税やその他の政策などの適切な措置を勧告する。

・ 財務長官は、関税等を徴収するための外国歳入庁の設立可能性を調査し、勧告する。

・ 通商代表は、他国による不公平な貿易慣行を調査、特定し、是正するための適切な措置を勧告する。

・ 通商代表は、2026年7月のアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しに備え、協議プロセスを開始する。

・ 財務長官は、主要な貿易相手国の為替に関する政策および慣行を検証、評価し、不当な競争優位性をもたらす為替操作等に対抗するための適切な措置を勧告し、為替操作国として認定すべき国を特定する。

・ 通商代表は、現行のアメリカの通商協定および分野別通商協定を検証し、自由貿易協定の相手国との間で相互的かつ互恵的な関係を達成または維持するために必要または適切な修正を勧告する。

・ 通商代表は、アメリカの労働者、農業者等が輸出市場アクセスを獲得できるよう、2国間または特定の分野ごとに協定を交渉できる国々を特定し、潜在的な協定に関する勧告を行う。

<中国との経済および貿易関係>

・ 通商代表は、中国がアメリカとの第1段階の経済・貿易協定を順守しているかを検証し、必要に応じて関税またはその他の措置の適用を含む適切な措置を勧告する。

・ 通商代表は、2024年5月に公表された1974年通商法301条に基づく対中追加関税の見直しに関する報告書を評価し、必要に応じて追加関税の変更の可能性を検討する。

・ 通商代表は、不合理または差別的であり、アメリカの通商に負担をかけたり制限を加えたりする可能性のある中国によるその他の行為、政策、慣行を調査し、適切な対応措置を勧告する。

・ 商務長官および通商代表は、中国との恒久的正常貿易関係(PNTR²)に関する立法案を評価し、修正するべきか勧告する。

<追加の経済安全保障事項>

・ 商務長官は、国家安全保障を脅かす輸入品を調整するための調査³を開始する必要があるかどうか評価するため、アメリカの産業および製造基盤に関して経済や安全保障の観点から見直す。

・ 経済政策担当大統領補佐官は、鉄鋼およびアルミニウムに関する輸入調整措置について、国家安全保障に対する脅威への対応における有効性を検証・評価し、検証結果に基づく勧告を行う。

・ 商務長官および国土安全保障長官は、カナダ、メキシコ、中国等からの不法移民およびフェンタニル⁴の流入を評価し、その緊急事態を解決するための適切な貿易および国家安全保障措置を勧告する。

2 特定国への最恵国待遇(ある国に与えられる最も有利な待遇を他の国にも適用するWTOの基本原則)を恒久的に認めるもの。

3 1962年通商拡大法232条に基づく調査。

4 鎮痛剤として使用される強力な合成オピオイド(薬物)で、依存性の高さや過剰摂取による死亡者数の増加がアメリカで大きな社会問題となっている。

 結果として、多くの関係者が懸念していた就任初日の新たな関税賦課は回避されたものの、トランプ氏がかねてより主張している、アメリカへの全ての輸入品に対する10~20%の一律関税、カナダやメキシコへの25%の関税、中国への10%の追加関税などを念頭に、これらの作業が各省庁で行われていく見通しである。大半の調査・勧告等の報告期限は2025年4月1日と定められているが、現在(本号を執筆している1月下旬現在)、トランプ氏は、カナダやメキシコ、中国への関税賦課については2月1日にも実施したい考えを示しており⁵、短い猶予期間の中で、各国がどのような対応を行うのか注目である。

5 トランプ大統領は2月1日、カナダ・メキシコからの輸入品に25%の関税(カナダのエネルギー産品については10%)、中国からの輸入品に追加の10%の関税を賦課する大統領令に署名。ただし、カナダ・メキシコ両国が国境警備強化に応じたことから、両国への関税賦課は30日間留保された。中国向けの10%の追加関税は2月4日から実施されている。

就任式当日のワシントンDC

 厳しい寒さの影響で、トランプ大統領の就任式は40年ぶりに屋内(連邦議会議事堂)での開催となった。就任式を生で見たいと期待していた人々には残念な結果となったが、全米から多くのトランプ支持者がワシントンDCに集まり、ライブビューイング会場には長蛇の列ができていた。ワシントンDCは民主党支持者が圧倒的に多い地域⁶であるが、この日ばかりは街がトランプグッズを身に着けた支持者であふれ、至る所でトランプグッズの露店が出るなど、トランプ氏の就任をお祭りムードで歓迎した。

6 2024年11月の大統領選挙では、ワシントンDCの有権者の90%以上が民主党のカマラ・ハリス氏に投票した。

就任式当日のワシントンDCの模様
(筆者撮影)
トランプグッズの露店
(筆者撮影)
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