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若者がみつめる農・食

農・食の未来を拓く高校生・大学生の研究

第6回(2022年度)全国高校生 農業アクション大賞 大賞受賞
置農食愛プロジェクトが取り組むこども農園と子ども食堂の活動

~山形県立置賜農業高校 置農食愛プロジェクト~
JA全中

「全国高校生 農業アクション大賞」について
 
 JA全中は毎日新聞社と連携し、農業高校(農業系学科があるなどの関連高校を含む)の生徒たちがグループとなって取り組む「農」や「食」に関するプロジェクトや課題研究を「全国高校生 農業アクション大賞」として支援・顕彰しています。
 農家の人たちなど地域と連携して実践する3か年の計画を募集し、毎年度15グループを認定。優れた実績を残したグループには、3年目に「大賞」や「準大賞」、「奨励賞」を贈ります。

 「置農食愛プロジェクト」は、伝統野菜の赤い大豆である「紅大豆」の継承と、紅大豆を利用した食文化の伝承を目指した、山形県立置賜農業高校の「豆ガールズプロジェクト」が、子ども食堂を設立するためにスタートさせたプロジェクトです。
 取り組みのきっかけは、コロナ禍やウクライナ戦争がもたらした食品の高騰。日本のひとり親世帯の貧困率は約44%、OECD加盟36か国中32位の厳しさで、このような家庭では欠食や食材の不足が見られるようになりました。農業県の山形でも「困ったー。何とかなんべがー」という声が上がり、子ども食堂による食事や食材の提供が必要という地域課題が生まれました。
 生徒らはすぐに立ち上がり、子ども食堂を開設しました。ですがそこで、子どもたちの思わぬ反応に直面します。「これっぽっちしかないの」「俺嫌いだ。食わんにぇ」……。食材を届けてくれる皆さんの善意には限界がありますが、逆にこのままでは、受け身でわがままな子を増やすきっかけになってしまうのではないか――。この問題意識から、生徒たちの新たな取り組みが始まりました。
 「子どもたちと一緒に食材の野菜を育てるところから始めよう」。農業高校ならではの発想で「こども農園」を開設しました。農業資源を活用した「食育」の普及が目標です。校内の500㎡の畑で、伝統野菜の「紅大豆」やトマト、イモなどを栽培しました。
 夏休みには自由体験として、夏野菜をいつでも収穫できるように開放しました。こども農園には8回で234人(2023年)の親子が参加。収穫した紅大豆や野菜を使ったお弁当や、パンや焼き菓子も作りました。地元の米沢栄養大学(山形県米沢市)と連携し、アドバイスをもらいました。児童らとのつながりで、食材を自分たちで手に入れる「自助」、助け合う「共助」の心を学ぶ場所が生まれました。
 「食育」の一環として、自分たちの手作りの紙芝居や人形劇などを考え、公演しました。生徒らによるクラシックコンサートも実現。活動には卒業生や米沢商業高の生徒らも加わりました。置農食愛プロジェクトメンバーの安部善貴さん(3年生)は演劇部員でもあり、「実力」を大いに発揮しました。
 活動は評判を呼びます。イオン東北や全農山形、地元JAによるフードドライブ(食品提供)や、県と県社会福祉協議会など20を超える団体の支援の輪が広がり、「フードバンク」として結実。サクランボやラ・フランスなど、子どもが大好きな食材が集まりました。子ども食堂の開催は計54回、2,800食以上の成果を上げ、食材の提供は3,000㎏を超えました。これらの取り組みはパナソニック教育財団の「子どもたちの“こころを育む活動”」の優秀賞につながり、紅大豆を使ったスイーツがテレビで全国に紹介されました。
 3年生のメンバー5人は3月で卒業し、進学や就職などそれぞれの道に進みますが、皆、山形に残り、OB・OGとして後輩の活動を支えるそうです。卒業式直前の2月27日には、全国高校生 農業アクション大賞審査委員長の尾木直樹さん(尾木ママ)が同校を訪問、生徒たちと楽しい交流をしました。
 プロジェクトリーダーの平光紗緒理さん(3年生)は「自分一人だったら踏み出せなかったことも、みんなと一緒だったからできました。子どもたちとたくさんのことを学びました」と話しています。

農業資源を活用した「食育」の普及のため、校内に開設した「こども農園」

山形県立置賜農業高校を訪問した尾木直樹さんと生徒たち。劇に使う人形を実際に動かして交流した

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