文字サイズ

地域農業47色

47都道府県JAグループの農業情勢とそれを支える取り組み等について、トップのインタビューも盛り込んで紹介いたします。

第36回 新規就農者の育成を強化/農産物直売所からにぎわいも
JAグループ愛媛の取り組み

① 新規就農者の育成を強化

■取り組み概要

 JAグループ愛媛では、農業者の高齢化に伴う担い手不足に対応するため、新規就農者の育成と支援に力を入れています。県内各JAは、それぞれの地域農業の特色や実情を踏まえ、研修施設などを活用しながら、仲間づくりにも取り組んでいます。

■JA愛媛中央会の山内謙治会長より

 愛媛県も、全国同様に人口減少や農家の高齢化という大きな課題に直面しています。2020年の時点で、基幹的農業従事者のうち60歳以上の割合は全国平均を上回る一方、20年後に中心世代となる49歳以下の占める割合は全国平均を下回っています。
 県内の11JAでは、地域農業を次世代につなぐために、新たな人材の育成と支援に取り組んでいます。たとえばJAが運営している圃場を活用し、1~2年間にわたって栽培技術を学ぶ研修の場を提供し、新たに就農を希望する人を受け入れています。
 JAえひめ中央では2014年から研修生の受け入れを始め、昨年までに132名の研修生を受け入れ、かんきつ、野菜などJA内の主要作物の栽培に関する研修を行っています。さらに今年、水田農業の大規模経営と高収益品目を前提とした農業経営体の育成を目的とした研修施設として、新たにハウス8棟、農地総面積360aにわたる、全国トップクラスの規模の農業生産団地の整備を行いました。
 JAえひめ南は2024年4月に「みかん学校」を開設し、かんきつ栽培の維持・強化に向けて担い手育成を本格化させました。初年度は5名が入校し、4名が1年間の研修を終えて就農しました。2年目となる今年度は、4名(うち1名は2年目の研修生)が入校しています。県や生産者組織とも連携するなど、地域ぐるみで支援を行っています。
 研修中だけでなく、行政と連携して園地を巡回するなど、就農後の営農定着に向けたサポートも行っています。また、研修修了生や新規就農者が、意見交換や相談を行う場として青壮年部の支部を結成して、活動しているJAもあります。支援の方法はJAによって異なりますが、共通しているのは「担い手不足を少しでも解消したい」という強い思いがあります。
 急激な増加とは言えませんが、各JAの取り組みにより、県外からの移住者の参加や、米作中心だった農家が果樹や施設園芸に挑戦する動きも生まれています。将来を見据えた農家への意向調査も進めており、次の世代へのバトンタッチに向けた模索が続いています。

JAえひめ中央新規就農研修センターでの研修風景

② 農産物直売所から地域のにぎわいへ

■取り組み概要

 大型の農産物直売所が多い愛媛県では、地域ごとの特性を活かした商品ラインナップでにぎわいを創出しています。農産物直売所は販売拠点としてだけでなく、出荷する農家にとって健康維持や生きがいづくりの場にもなっています。

■JA愛媛中央会の山内謙治会長より

 地元で採れた新鮮な農畜産物を安心して手ごろな価格で購入したいという消費者ニーズは根強く、農産物直売所の人気は衰えていません。農家にとっては、自分が育てた農産物にリピーターやファンがつくことは大きな励みとなり、生産意欲を高める原動力にもなっています。
 県内には23の農産物直売所があり、なかでもJAえひめ中央の「太陽市」、JAおちいまばりの「さいさいきて屋」、JA周桑の「周ちゃん広場」の3つは、2023年度の2023年度JA直売所販売高ランキング(JA全中調べ)のベスト10に入りました。地域ごとの特色を活かした品ぞろえで、県内のJA同士が切磋琢磨する環境が生まれています。
 私の地元にある直売所「周ちゃん広場」も、地域人口をはるかに上回る来店者でにぎわっており、名物商品や、農産物を活かした6次化商品の展開も注目されています。新鮮さを武器にした品ぞろえは、一般消費者だけでなく飲食店などの業務用需要にも応えています。
 一方で、店舗の品ぞろえを充実させてくれている出荷者の高齢化も進んでおり、今後は栽培した農産物をどのように店舗へ搬入するか、JAとして何か手助けできることはないかを考えています。
 私も農家として、長年農業に携わっていますが、健康でいられるのは農作業を続けているからだと思っています。また「農産物直売への出荷」を目標に農作物を育てることは、生きがいづくりにもつながると考えています。結果として農産物直売所は、農地を生かし続け、さらには健康や生きがいづくりを実現できる場としての可能性も感じています。

2023年度JA直売所販売高ランキング(JA全中の調査より作成)

順位

店舗名(県・JA名)

金額
(億円)

1

伊都菜彩(福岡・JA糸島)

42.9

2

げんきの郷「はなまる市」(愛知・JAあいち知多)

29.3

3

めっけもん広場(和歌山・JA紀の里)

25.8

4

太陽市(愛媛・JAえひめ中央)

25.6

5

とさのさと(高知・JA高知県)

21.4

6

さいさいきて屋(愛媛・JAおちいまばり)

21.0

7

よってけポポラ(山形・JAさくらんぼひがしね)

20.8

8

みはらしの丘あいさい広場(徳島・JA東とくしま)

20.3

9

周ちゃん広場(愛媛・JA周桑)

19.7

10

唐津うまかもん市場(佐賀・JAからつ)

18.3

全国のみなさんに伝えたいこと

 社会の変化により地域の絆が薄れるなかで、JAグループとして絆づくりにどう関わるかが大きな課題です。そのひとつの場として、農産物直売所は生産者と消費者の距離を縮め、相互理解を深める役割を担っています。
 米価高騰による「令和の米騒動」を機に、農業やJAへの関心が一気に高まりました。しかし農畜産物の適正な価格形成に対する理解は、まだ十分とは言えないと考えています。県内の東予地域では水田農業が盛んですが、例えばある農家では24,000円/60kgで出荷されましたが、これは30~40年前と同じ水準です。これまでの米価が安く、生産資材価格が高騰する中で特に小規模農家にとっては、生産するほど赤字になる状態が続いていた実情を知っていただきたいと思います。
 米だけでなく農業を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。しかし、農家の使命は国民の命を守る「食料の安定供給」にあります。食料自給を支える仕組みの構築が急務です。そのためにも、現状や課題を正しく伝え、農業への理解と応援を広げていくことが、JAグループの重要な役割だと考えています。

農産物直売所の魅力について話す山内謙治会長
記事一覧ページへ戻る