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地域農業47色

47都道府県JAグループの農業情勢とそれを支える取り組み等について、トップのインタビューも盛り込んで紹介いたします。

第37回 基金を活かした農業振興/官民連携による労働力支援
JA長野県グループの取り組み

① 基金を活かした農業振興

■取り組み概要

 農業所得の増大や新規就農者の育成に向け、JA長野県グループでは独自の基金を造成し、農家の取り組みを支援しています。全国に先駆けて2009年に創設された「JA長野県農業開発基金」は産地の維持・継続に大きく貢献してきました。さらに「JA長野県新規就農総合支援基金」を活用した、新規就農者の育成メニューも用意し、人材育成にも積極的に取り組んでいます。

■JA長野中央会の神農佳人会長より

 このJA長野県農業開発基金は、JAグループの総力をあげた農業所得の増大に向けて、JA長野県グループの中長期的施策に要する基金造成とその活用を目的に設けました。現在では、農業を取り巻く環境の変化に伴い、ベテラン農家に対しても新技術や機械の導入、施設更新などへの支援が必要になっています。産地ごとに重点品目が異なるため、各JAが農家や生産部会からの要望を受けて検討・企画し、その都度、基金の再造成を行ってきました。
 その中には当初、対象外だった品目に対しても、高品質かつ安定した生産に必要な高額設備への投資を新たに支援したケースも見られます。近年では、異常気象対策として、リンゴや花き等の日焼けを防ぐ遮光ネットや、ひょう害対策資材の購入にも助成しています。
 私のJA(グリーン長野)では、特に果樹全般に活用できる電動剪定せんていばさみの導入支援は非常に好評でした。私自身も地元で長年ブドウや桃などの栽培をしていますが、冬場の剪定作業は本当に過酷です。電動化により力を入れずに連続して楽に作業ができることから、仲間の農家からも好評でした。安全性も高く、身体への負担も軽減されることから、女性農業者の利用も増えています。基金は単なる助成にとどまらず、農家組合員の皆さんがより意欲的に営農に取り組むきっかけにもなっています。
 農家の高齢化や担い手不足が指摘されるなか、元気な若手農家が営農に励む姿を見ると、非常にうれしく感じます。特に印象的だったのは、高齢農家の離農で約10年前に廃園となっていたブドウ畑が、若手農家の手によって再生された事例です。荒れた畑に生い茂っていた草を刈り、「シャインマスカット」を植えるために仲間の農家やJAと相談しながら再生に取り組む姿には感動を覚えました。
 また、JA長野県新規就農総合支援基金を活用して、県内JAの子会社が新規就農者の育成に取り組み、中には10年以上にわたって継続している事例もあります。研修生が独立し、生活できるレベルに達するのは並大抵ではありませんが、JAの子会社がきめ細やかに指導を行い、着実に人材を育て続けています。
 少子高齢社会が進む中で、農業人口の減少は避けられません。しかし、現状の農家数を維持できなくても、担い手がより多く請け負う場が増えれば耕作面積を維持でき、場合によっては初期投資を抑えた効率的な営農もできると考えています。

JA長野県農業開発基金が活用されたトルコキキョウの日焼けを防ぐ遮光ネット

② 官民連携による労働力支援

■取り組み概要

 JA長野県グループでは、行政や農業関係機関と連携し、担い手農家にとって大きな課題である労働力確保にも積極的に取り組んでいます。スマートフォンなどのアプリを活用した労働力のマッチングツールに加え、企業の従業員による副業・ボランティアを通じた農作業支援の実証実験にも乗り出しました。

■JA長野中央会の神農佳人会長より

 農作業は、品目によって異なるものの、一定の時期に作業が集中する傾向があります。農家の高齢化や担い手不足が進む中、人手不足の解消を目指して、JA長野県グループは県などと連携し、「JA長野県労働力支援センター」を立ち上げてサポート体制を整えました。
 特に果樹では、5~7月のブドウやリンゴの摘果、野菜の収穫作業などに求人が集中するため、同センターが推奨する1日農業バイトアプリの利用者は右肩上がりです。農家の皆さんが求人情報を発信し、昨年はのべ約2万人が農作業に参加しました。中には年間50回以上も参加してくれた方もおり、大変ありがたく思っています。
 何度も農作業に参加してくれる人がいる一方で、初心者が日替わりで農作業するケースも増えています。「作業内容を連日説明する手間を解消したい」「事前に作業内容を知りたい」とのニーズに応えるため、県の協力を得てJAの営農技術員が作業内容の説明をする動画を作りました。内容はブドウのジベレリン処理、レタスの定植、ブロッコリーの収穫・箱詰め、ネギの選別・荷造り、柿の収穫など、多岐にわたります。
 また、副業・ボランティアに着目し、JR東日本長野支社やKDDI、中部電力と連携した農業研修を実施。長野県の農業をあらためて知る機会となっており、副業促進にもつながることが期待されています。
 一方で、一大産地となっている高原野菜の栽培では「特定技能」を持つ外国人労働者の力が不可欠です。本県では「JA長野開発機構」が派遣・登録支援機関としてJAと連携し、受け入れ事業を継続しています。

JAながの管内の農家でブドウの袋掛け作業をするJR東日本社員

全国のみなさんに伝えたいこと

 近年、「農業にはまだまだ大きな可能性がある」と、あらためて実感しています。国民の食を支える農業の魅力や重要性を理解してくださる方々が増えているからです。
 7月上旬、東京・有楽町で県内の市町村とJAが合同開催した就農相談会には、130人ほどの皆さんが集まってくれました。農業への関心に加え、長野県の豊かな自然環境にも関心を寄せてくれたのではないかとみています。
 「令和の米騒動」で食料自給率の高い米でさえ流通に影響が出ました。この事態は「もし国内の食料が不足したらどうなるのか」という問題を考えるきっかけになったはずです。農家は国民の食を支えるために田畑を耕し、家畜を育て、地域の農業を守り続けています。安定した食料供給を担う農家の存在を、もっと大切にしていただきたいと願っています。
 同時に農家自身も「国民の食を守るために責任がある」という気持ちで営農に取り組む必要があります。ただし、農家が社会貢献のためだけに農産物を生産しているわけではありません。農家生活を成り立たたせるための農業でなければ、次の世代に農業を継承することは困難です。この点について、消費者の皆さんにもご理解いただきたいと考えています。
 一方で、消費者も生活のために「少しでも安く食料を購入したい」と思いがあることも理解しています。このギャップをどう埋めるかが、大きな課題です。例えば、農家には一定の補償を与え、消費者には適正価格で安定した食料を供給する、新しい国の仕組みづくりが求められているのではないでしょうか。農家も安心して営農に取り組める価格形成の仕組み構築が、持続可能な農業の実現につながると信じています。

安定した食料供給を担う農家の存在を、もっと知って理解して欲しいと話す神農佳人会長
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