地域農業47色
第40回 担い手を多面的に支援/低コスト生産・省力化の普及も
富山県JAグループの取り組み
① 担い手を多面的に支援
■取り組み概要
富山県JAグループは、地域農業の維持・継続に向けて担い手対策に力を入れています。集落営農の組織化・法人化の推進や複合経営への誘導支援に加え、JA全農とやまが運営する栽培実証圃(ほ)「アグリメッセ」での検証・普及、「野菜センター」での選別調整作業など多面的に支えています。
■JA富山中央会の延野源正会長より
水田農業が盛んな本県では、全国に先駆けて集落営農の育成に取り組んできましたが、今では高齢化と担い手不足が同時進行しています。農業経営体も2010年から2020年の10年間で46%減少、県の試算によると、2020年から2030年までの10年間ではさらに42%の減少が見込まれています。地域農業の維持・継続に向けて、誰がその担い手となるのか。課題解決の一つとして、集落営農の法人化を推進し、経営基盤の集積・強化を図ることが重要だと考えています。農地の規模拡大も不可欠です。富山県の田んぼの平均面積や農地の集積率は全国でも上位ですが、まだ目標には届いていません。今後も大規模化を進めていかなければなりません。
富山市・滑川市・上市町にまたがる水田地帯では、2021年度から国営農地再編整備事業が始まりました。区画整理された大圃場で、水田と園芸を組み合わせた経営をどう進めるかが問われています。自治体や土地改良区と連携し、省力化・スマート化による作業効率の向上など高い生産基盤づくりの実現を目指していきます。
一方で、収益性の向上を目指し、「アグリメッセ」では水田地帯での園芸作物の栽培実証を進めています。トマト、青ネギ、サトイモ、ブロッコリー、キャベツなど多品目で取り組み、タマネギの直播栽培では、育苗の低コスト化・軽労化の検証を通じて現場へ普及させ、園芸振興と食料自給率の向上を目指しています。「野菜センター」では園芸作物の選別・調製作業を担い、生産者の皆さんが栽培に集中できるようサポートしています。また、担い手育成としては、県が開設した「とやま農業未来カレッジ」に協力、近隣にある富山県JAグループの農業総合研究所の一部を活用したり、圃場で栽培研修を行ったりする仕組みを構築し、応援しています。
年間を通じた雇用確保も課題です。全国的に生産者人口が減少する中、働き手の確保は喫緊の課題です。そうした中、たとえば、農林中央金庫が展開するマッチングアプリを活用し、富山のような雪国などの農閑期に入った生産者が他の地域の農繁期に出向いて支援するなど、県域にとどまらず全国各地の農業を生産者同士で支える仕組みづくりも必要ではないでしょうか。
② 低コスト生産・省力化の普及
■取り組み概要
気候変動への対応で作付けが拡大している高温耐性品種の米は、育苗や育種、収穫時の作業効率化・省力化にも寄与しています。生産資材価格の高騰が続く中、生産者の経営基盤を強化に向けて、低コスト生産に資する低価格トラクターの共同購入や農機レンタルの普及、肥料・農薬の「担い手直送」なども進めています。
■JA富山中央会の延野源正会長より
気候変動に強い産地づくりに向けて、高温耐性品種米の「富富富(ふふふ)」「てんたかく」「てんこもり」への切り替えを生産者に呼びかけています。10月1日に行われた新米の出荷セレモニーでは、JA全農とやまによると、1等米比率が「富富富」で98%と報告がありました。「富富富」は高温に強く、生産者が安心して栽培できる品種であることを改めて実感しました。
高温耐性品種の作付面積は増加傾向にあります。2024年産は2023年産比で1,200ヘクタール拡大し、2025年産はさらに550ヘクタール広がりました。特に「富富富」は大きく面積を伸ばしており、草丈が短く倒伏しにくいのが特徴で、コンバインによる収穫のロスも少なく、収穫の効率が向上します。また、来年産では種を直接まく湛水直播にも対応する予定で、育苗・移植の手間が省けるため、労力とコストの大幅削減が期待できます。
その上で、需給バランスが崩れるなど万が一の事態も想定し、加工用や米粉用など主食以外の用途にも柔軟に対応できるよう、経営判断の幅を広げています。
コスト低減に向けては低価格トラクターの共同購入や農機のレンタルも進めています。共同購入は生産者の必要な機能に絞ったトラクターをJA全農が一括発注・仕入れし、生産者に低価格で届ける仕組みです。レンタルについては園芸用農機が対象ですが、麦や大豆等の栽培に必要な機械の貸し出しも行っています。
もうひとつの取り組みとして、肥料・農薬の「担い手直送」があります。完全予約による受注生産のため、通常よりも価格を抑えられるメリットがあり、県内ではこれから普及していきます。ただし、資材価格の高止まりが続く状況を踏まえれば、着実に進めていく必要があります。
一方、将来の地域農業を見据えたドローンの活用などスマート農業の推進が求められる時代になりました。すでに現場で導入している生産者もおり、今後どう支援を広げていくかを考えていく必要があります。
全国のみなさんに伝えたいこと
2024年産の米価が大変な話題になりました。われわれ生産現場では燃料や肥料など、生産資材の価格が高止まりする中、営農継続が可能な価格を検討し、2025年産米の概算金を設定しました。今後も消費者の皆さんへ、ご理解していただける価格で求められる農畜産物を提供できるかという点を意識して取り組んでいきます。
国は米の増産方針を打ち出しましたが、水田農業が盛んな富山としては、あくまでも米の需給バランスを考慮したうえでの「需要に応じた増産」だと受け止めています。需給バランスを見極めるには、全国で実際にどれだけ生産されているのかを、正確に把握することが欠かせません。あわせて、地域農業の将来像を描く「地域計画」のブラッシュアップも極めて重要です。たとえば、効率的な栽培に向けて圃場ごとに栽培する品目づくりに挑戦できるかどうか、あるいは温暖化の進行を踏まえて新たな品目づくりに挑戦できるかどうか——こうしたことを考える時代になりました。地域計画の見直しは、新たな産地づくりを実現できるかどうかを占う試金石のひとつになるはずです。
高温耐性品種米「富富富」は、学校給食への提供に加え、新たに“寿司”としても広く楽しんでもらおうという取り組みが始まっています。米どころ・富山にぜひ足を運んでいただき、富山米を召し上がってください。