地域農業47色
第41回 次世代農業につなぐ総点検/広域物流拠点整備へ調査研究も
JAグループ徳島の取り組み
① 次世代農業につなぐ総点検
■取り組み概要
JAグループ徳島では、次世代につなぐ取り組みを強化しています。現場を点検し、産地の「見える化」を図ることで課題を洗い出すとともに、その結果を踏まえて地域農業の維持・継続に向けたアプローチを進めています。
■JA徳島中央会の松田清見会長より
昨年6月に会長に就任した際、「今、何をすべきか」を真剣に考えました。農家人口の減少や高齢化、後継者不足が進む中、根本的な解決策が見つからず、JAと農家のつながりが希薄になっているという危機感がありました。
JAの営農指導員として農業の現場に出向いていた当時を振り返り、農家組合員の皆さんと直接話し、目を見て対話することの大切さをあらためて感じました。JA職員が農家を訪問し、対話を重ねることで信頼関係が築かれ、つながりが深まる―――その思いから「次世代総点検運動」を本格的に始動させました。
中山間地が多い徳島では、1人あたりの耕作面積は約1ヘクタールで、全国平均よりも少ないです。JA合併によりJAの経営規模は拡大していますが職員数は減少しており、地域単位では以前よりもきめ細やかな対応が難しくなりつつあります。
また、若い世代を中心に、法人経営への移行が進んでいますので、次世代の組合員を計画的かつ着実に育成していくためにも、JAへの期待やニーズに耳を傾ける必要があります。このような状況を受け、限られた職員だけでなく、JAグループ徳島全体での取り組みが必要だと判断しました。営農・担い手サポートセンターを含む事業間連携を強化し、グループ一体となって産地の活性化に取り組んでいます。
これは産地における農業生産の維持に加え、JA事業全体の維持・拡大にもつながります。
例えば、県を代表する特産品であるスダチも、農家の高齢化が進めば山間部の傾斜地での栽培継続が困難になる懸念があります。維持・継続には、新たな産地形成や、生果はもちろんのこと、加工品づくりなど販売の多様化も必要です。これも総点検運動を通じて見えてきた課題の一つです。今年度はモデルJAを選定し、手探りながらも取り組みをはじめています。農家組合員との対話を通じて、徳島の農業の現状や課題を整理し、解決の糸口を見出していきます。
② 広域物流拠点整備へ調査研究も
■取り組み概要
2024年の物流問題(いわゆる「2024年問題」)などにより、青果物輸送を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした中、JAグループ徳島は、広域物流拠点整備に向けた調査・研究会を立ち上げ、大消費地である関西圏に近い地の利を生かした体制づくりを検討しています。
■JA徳島中央会の松田清見会長より
徳島は関西圏の消費地に近いという立地を活かし、各JAが個別に農畜産物を出荷しています。しかし、農家の高齢化や後継者不足により生産量が減少することで、かつては満載にできたトラックに空きが生じる事態も想定されます。効率的に輸送するのが厳しくなる分、経費がかかり、農家の負担が増える可能性もあります。この課題の解決に向け、県域での共同出荷体制を構築できないかと、JAグループ徳島は昨年、県と連携して調査・研究会を立ち上げました。集出荷施設の一元化や既存施設の実態調査を進めており、課題の整理と対応策の検討を行っています。ただ出荷体制の一元化は簡単ではありません。たとえば、全国有数の生産量を誇る洋ニンジンは大規模農家がそれぞれ自前の選別機を持ち、自宅で選別・選果し箱詰めを行う「完結型」の出荷スタイルが一般的です。
一方、競合する他産地ではすでに輸送手段の効率化・多様化に向けて大型物流拠点の整備が進んでおり、小売店での売り場の確保が競争の焦点になりつつあります。対応が遅れれば徳島の農畜産物のシェアが縮小し、最終的には農家の所得減少にもつながりかねません。私自身も市場を訪ねた際「徳島からある程度まとまった数量を出荷する必要がある」と強調されました。そうでなければ、売り場を他の産地に奪われるという警鐘です。
働き方改革によるトラックドライバーの時間外労働規制など、物流を取り巻く環境は変化しています。こうした状況を踏まえ、調査・研究結果をもとに将来を見据えた集出荷体制の基本計画を策定していきます。
全国のみなさんに伝えたいこと
私の座右の銘は「誠を尽くせ」です。何事にも誠実に向き合い、飾らず、嘘をつかず、自ら考えて誠意をもって行動すれば、課題を解決する知恵が自然と生まれてくると信じています。世代を超えて発想を出し合い、未来へとつなぐ変革の機運が高まることを願っています。
消費者の皆さんに対しても同じで「誠」を届けたいです。農家組合員は農畜産物のトレーサビリティ(生産履歴)や使用した農薬の管理・点検にも取り組んでいますし、どこで育てたのか分かるようにして「安全・安心」を保証した農畜産物を提供することで皆さんに「誠」を届けています。
子育て世代の皆さんには、特に地元をはじめ国内で生産された農畜産物を食卓で味わっていただきたいと思います。生産者と消費者の間に一層の信頼関係を築くことができれば、地産地消の推進はもちろん、私たちの国で消費する食べものは、できるだけこの国で生産する「国消国産」にもつながるはずです。
そして農家が育てた農畜産物の販売価格は決して高くないことには、きちんとした理由があることもご理解していただきたいと思います。生産段階から売り場に並ぶまでにかかる手間と経費がどのぐらいなのか。そうした農家の苦労に思いを寄せていただけましたら幸いです。
主食用米の価格上昇を受けて、「農家は大切だ」「食料安全保障は重要」といった声を多数いただくようになりました。万が一、災害などの有事が発生した際、輸入による食料調達が困難になった場合、私たちはどう対応すべきなのか。備蓄の在り方も含め、あらためて食と農の重要性について、ともに考える必要があるのではないでしょうか。
食と農の重要性をともに考えたいと話す松田清見会長