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地域農業47色

47都道府県JAグループの農業情勢とそれを支える取り組み等について、トップのインタビューも盛り込んで紹介いたします。

第43回 地域農業振興へ方向性模索/確かな経営基盤で組合員支援を
JAグループ長崎の取り組み

① 地域農業振興へ方向性模索

■取り組み概要

 JAグループ長崎では、地域農業の振興に向けて多彩な切り口で支援を進めています。生産基盤の維持に向け、実需者との加工・業務向け契約や相対取引を拡大し、農業者の手取り確保に取り組んでいます。また、一定のシェアを占める輸入野菜の国産化を目指し、実需者ニーズや産地の状況を踏まえた方向性を探っています。

■JA長崎県中央会の苑田康治会長より

 長崎県の農業産出額は2023年で1,590億円。このうち野菜が約3割を占めています。豊凶に左右されず一定の価格で取引を行い、安定化を図りたいとの思いから、実需者との加工・業務向け契約や相対取引について徐々に取り組みを始めました。一定の需要量と価格が担保されれば、農家組合員も安心して農業経営をつづけていくことができると考えています。
 輸入品から国産品への切り替えが期待できる品目として、タマネギ、ニンジン、ネギ、カボチャ、ブロッコリー、ホウレンソウ、エダマメがあります。多少時間はかかるかもしれませんが、まずは試験的に進めていこうと実需者ニーズを探っているところです。
 長崎県は平たん地が少なく、広い圃(ほ)場を確保しにくいという厳しい営農環境にあります。基盤整備を進め産地化を図っている地域もありますが、離島や中山間地域など条件不利地も多く存在します。こうした地域では、単位収量を上げる農家の努力があったからこそ、継続的な市場出荷を実現してきました。
 一方で、収穫物のうち一定量発生する規格外の野菜を十分に活用しきれず、廃棄せざるを得ない実態もあります。異常気象による生育への影響も大きく、地域によっては前年に比べて収穫量が2~3割減となる場合もあり、営農継続に必要な所得を確保できないケースもあります。
 規格外といっても味が劣るわけではなく、出荷基準を満たさないために処分せざるを得ないのはもったいないことです。これは長崎県だけでなく全国的な課題であり、全国で発生する規格外の農産物を有効に活用できれば、低迷する食料自給率の向上にもわずかながら寄与するのではないでしょうか。こうした状況を踏まえ、卸売市場への青果の出荷量を維持しつつ、加工・業務用の拡大を図りたいという思いを抱いています。

全国第三位の生産量を誇る馬鈴薯収穫の様子

② 確かな経営基盤で組合員支援を

■取り組み概要

 地域農業の未来を切り開くため、持続可能なJAの経営基盤の確立にも取り組んでいます。家族農業を含む多様な経営体に対応するため、信頼される業務運営の徹底と人づくりに力を入れています。

■JA長崎県中央会の苑田康治会長より

 離島や半島部が多い長崎県では、家族経営を主体とする農家組合員が多く、JAが地域を支える重要な存在となっています。特に高齢層にとってJAは身近な存在であり、その経営が傾くようなことがあってはなりません。確かな経営基盤の確立に向けては、例えば施設の見直しなどの手法もありますが、出資していただく農家組合員の皆さんの声に耳を傾けず進めることはできません。
 収益性と健全性の確保に向け、JA経営のPDCAサイクルの確立・強化を目的とした中期経営計画を策定し、今年度から実践に移しました。県域の連合会とも連携し、JAを巡回訪問するなどして、達成に向けた課題解決を進めています。
 信頼されるJA経営を継続するうえで、最も重要なのは人づくりです。進学や就職を機に地元を離れる若者も多く、採用活動に苦慮しています。中には、60歳以上の臨時職員の力を借りざるを得ないケースもありますが、10年後を見据えた際、現状を維持できるのかどうかが課題です。ここ数年は就職サイトを活用した採用活動にも乗り出しました。特に県内出身者からの応募を増やすためには、子どもの頃から地域の農業に親しみ、関心を持ってもらう機会を一層設けることが大事だと考えています。
 一方で、事業運営を担う職員の育成にも力を入れています。幹部職員向けには、今年度からプロ講師による養成講座を実施しています。また、人材定着を図るため、管理職の育成力向上を目的とした新たな研修も企画しました。
 さらに女性管理職を対象とした研修会を12月に開催し、悩みや課題を共有しながら対応策を検討していきます。
 事業運営の基盤となる人材育成を強化するため、その時々に求められる人材像に応じて研修内容や進め方を見直しつつ、今後も取り組みを進めてまいります。

女性職員を対象とした研修での他企業女性管理職を招聘したロールモデルセッションの様子

全国のみなさんに伝えたいこと

 離島を抱え、平たん地が少ない長崎県ですが、経営や技術の改革・発展に意欲的に取り組み、地域社会の発展に貢献する農家が多くいます。「日本農業賞」や、農業振興に顕著な業績を上げた最優秀者に授与される「天皇杯」の受賞者も輩出しています。しかしながら、消費者の皆さんの応援がなければ地域農業は成り立ちません。
 消費者理解を一層進めようと、JAグループ長崎は国際協同組合年に合わせて10月、生協・漁協などの皆さんと合同研修会を開き、共に考え話し合う機会を設けました。また、「この国で消費する食べものは、できるだけこの国で生産する」という「国消国産」の考え方を広く知ってもらうため、10、11月の2カ月間、公用車約1600台にマグネットシートを貼ってアピールしました。さらに、県内の農産物直売所では、手のひらをセンサーにかざすことで推定野菜摂取量を見える化できる「ベジチェック」も実施し、来店者の皆さんに野菜摂取への関心を促す取り組みも行いました。こうした啓発活動や実践的な取り組みは、地元産・国産農畜産物を選ぶ意義や支え合いの重要性を確認する機会になったと感じています。
 「おいしい農畜産物を届けたい」という農家の努力を消費者の皆さんにもっと知っていただきたいと思っています。買い物の際、輸入品のほうが手頃な場合もありますが、国産農畜産物には「食の安全・安心」や「地域農業を守るといった面で大きな役割があります。こうした点も参考にしながら、国産を選ぶという選択肢を身近に感じていただければ幸いです。それが農家の支えになり、地域農業が持続し、結果として私たちの食を安定的に守ることにもつながっていきます。

JAグループ長崎は消費者の理解と協力が不可欠と考え、「国消国産」の啓発を通じて、国産農産物の価値を広く訴えていると話す苑田康治会長
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