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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカのミルク事情に迫る

[February/vol.176]
田代誠吾(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 日本で「ミルク」と聞けば、多くの人が牛乳を思い浮かべる。もちろんアメリカにおいても牛乳を思い浮かべる人は多いが、他のミルクを思い浮かべる人もいる。というのも、アメリカのスーパーマーケットのミルクの棚には日本以上に植物性ミルクの種類が豊富である。日本でもなじみがある豆乳(ソイミルク)のほか、アーモンドミルク、オーツミルクは誰もが知っているし、最近ではカシューナッツミルクやピーミルク(エンドウ豆のミルク)まである。
 日本でもアーモンドミルクやオーツミルクはコーヒーショップのカスタマイズで人気を得つつあるが、アメリカでは外食やカフェ文化を通じて日常化し、現在は生活に根差している点で大きく異なる。
 さて、本号では、そんなアメリカのミルク事情に迫ってみたい。

アメリカにおける植物性ミルクの歴史

 アメリカで植物性ミルクが登場したのは、なにも最近のことではない。豆乳は20世紀初頭から健康食品として存在していたとされており、1960~70年代のベジタリアン運動や自然食品ブームの中で一定の支持を得ていた。ただし、当時の豆乳は「味や香りにクセがある健康飲料」という位置づけで、主流にはなりきれなかった。
 転機となったのは2000年代後半の時期、アーモンドミルクやオーツミルクといった新しい植物性ミルクが相次いで登場した。これらは単なる栄養補助食品ではなく、「味」「使い勝手」「イメージ」を重視して設計された点が特徴的であった。特に無糖タイプでもクセが少なく、シリアルやコーヒーに合うことが、従来の豆乳との決定的な違いで、「乳製品の代替」ではなく「牛乳とは別の選択肢」として再定義された。
 実際に現在の家庭では、それぞれが併用される存在になっており、例えば、子どもには牛乳、大人はコーヒー用にオーツミルク、シリアルにはアーモンドミルクといった使い分けをすることもある。

アメリカのミルク市場の動向

 ミルク市場において、依然として牛乳がトップの座を守り続けているものの、USDA(アメリカ農務省)のEconomic Research Service(経済調査局)によると、アメリカ人の1日当たりの牛乳の飲用量(fluid milk consumption)は、過去70年以上にわたって継続的に減少している。実際に、1970年代には1人当たり1日1カップほど飲んでいたものが、この半世紀ほどで約半分、今では0.5カップほどとなっている。
 その反面、植物性ミルクは成長してきたが、その伸びは牛乳の消費の減少よりもはるかに小さいため、植物性ミルクによる代替的な動きは牛乳の全体的な売り上げ動向のごく一部しか説明できない。
 なお、牛乳と植物性ミルクの市場比較において、単に金額だけ比較すると単価差や定義差を無視したものになってしまい、ミスリードを生むことになる(そもそもデータも牛乳はUSDA、植物性ミルクは民間調査に頼らざるを得ない)ため、本号では割愛するが、植物性ミルクは牛乳市場の完全代替ではなく、価格プレミアムを伴う補完市場として成長してきた。

生乳生産量の動向

 牛乳の消費量の減少と植物性ミルクの発展をお話ししたが、実は、アメリカの生乳生産量は1970年代以降増加を続け、ここ数年は過去最高水準の約2,260億ポンド(約1億t)で推移しており、これは当時のほぼ2倍である。ちなみに日本は近年730万tほどであるから、その差は約14倍、1人当たりとしても約5倍であることは驚くべき事実である。
 牛乳の消費は減少傾向である一方、チーズやヨーグルトなどは大きく消費が伸びており、特にヨーグルトは、1970年代と比較したとき600%以上の増加となっていることは注目に値する。

学校給食におけるミルク事情

 最後に、学校給食における牛乳のお話を紹介したい。2010年に「Healthy, Hunger Free Kids Act」が成立し、この法律は、学校給食における栄養基準を強化し、牛乳については主に肥満対策・心血管リスクを理由として低脂肪(1%)・無脂肪を中心とする基準が義務づけられた。従来の全乳提供は制限され、脂肪分の多い牛乳(全乳・2%)は原則学校給食から排除された。
 しかし、最近の研究で、子どもの成長や満腹感の観点では全乳の利点もあると見直され、脂肪分があることで、脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の吸収が良くなるなどの再評価がなされた。そうしたことをふまえ、昨年末に「Whole Milk for Healthy Kids Act」が上院・下院ともに可決され、今後は全乳と2%乳の提供が認められる見込みである。
 なお、日本の給食ではなかなかイメージが湧かないが、アメリカの給食では、牛乳も自分が好きなものを選ぶことができる。つまり、今回の法律によって、好きな子どもは全乳等を選べるという意味で、低脂肪・無脂肪が禁止されるわけでももちろんないし、実はチョコレートやストロベリーなどの味付き(Added Sugar)牛乳も選べるし、医師や保護者の申請により植物性ミルクも選べるというあたりは、さすがは自由の国、といったところだろう。

スーパーマーケットのミルク売り場。左側(赤囲み)は牛乳、右側(緑囲み)は植物性ミルク
筆者撮影
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