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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカのプロテインブームと酪農の現在地

[July/vol.181]
田代誠吾(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 アメリカでは近年「protein」がブームである。日本語の感覚では「プロテイン」というと粉末やシェイクを思い浮かべがちだが、アメリカで語られる「protein」は、より広い。それは、「筋トレ用の粉」ではなく、栄養素としての「タンパク質」を指し、食生活全体を高タンパク化する動きが加速している。
 実際に、アメリカのスーパーを歩くと、「protein」はサプリ売り場だけの言葉ではなく、ヨーグルト、シリアル、スナック、飲料、冷凍食品まで、パッケージの前面に「何gのタンパク質か」を掲げる商品が増えている。また、スーパーにとどまらず街を歩けば、そこかしこのカフェチェーンでタンパク質を前面に押し出したドリンクが売られている。
 さて、本号では、アメリカにおけるプロテインブームと酪農の現在地を紹介したい。

ブームの主役は「粉」ではなく、日常食品

 このブームを理解する上で重要なのは、主役が必ずしもプロテインパウダーではないという点である。もちろん、ホエイプロテインやプロテインシェイクは今も大きな市場だ。しかし、現在のアメリカで起きているのは、より日常的な食品の「高タンパク化」である。
 例えば、ギリシャヨーグルト、カッテージチーズ、卵、鶏肉、牛肉といった従来型のタンパク源に加え、シリアル、パンケーキミックス、アイスクリーム、コーヒー飲料、スナック菓子までが「protein」を前面に出しており、その背景には、消費者が「1食でタンパク質を何g摂れるか」を見るようになっていることがある。
 この変化は、消費者意識の調査にも表れている。食品・栄養分野の非営利団体International Food Information Council(IFIC)が2025年に実施した調査によると、アメリカの消費者の70%が「タンパク質を摂ろうとしている」と回答している。同じ調査では、この割合は2022年に59%、2023年に67%、2024年に71%であり、ここ数年でタンパク質志向が高い水準に定着していることが分かる。また、IFICは、2025年に「good source of protein」、つまり「良質なタンパク源であること」が、アメリカ人が食品を健康的と判断する際の最上位の基準になったとしている。
 興味深いのは、このブームがスーパーの棚だけでなく、街のカフェチェーンにも広がっていることだ。例えばスターバックスは2025年に、「protein」を前面に出した飲料を公式に展開し、一部商品ではタンパク質が何g入っているかを訴求している。つまり、「protein」はもはやジム帰りの人だけのものではなく、朝のコーヒー、昼のスナック、子どもの朝食、高齢者の栄養補給まで、日常のあらゆる食シーンに入り込んでいる。

アメリカ人は、本当にタンパク質が足りないのか

 では、アメリカ人はタンパク質不足なのだろうか。ここは少し慎重に見る必要がある。
 USDA(アメリカ農務省)のWhat We Eat in America/NHANES 2021年8月〜2023年8月データによると、アメリカの20歳以上のタンパク質摂取量は、食品・飲料由来で平均77.1g/日である。一方、日本の厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」では、20歳以上のタンパク質摂取量は平均71.3g/日である。調査方法や食事調査の設計が異なるため、単純な厳密比較はできないが、この数字を見る限り、少なくとも実摂取量ベースでは、アメリカと日本の差が極端に大きいわけではない。
 それでも、アメリカでここまで「protein」が売り言葉になるのはなぜか。答えは、単なる「不足の解消」ではない。こうしたブームは、栄養不足を埋める動きというより、タンパク質を「健康」「筋肉」「満腹感」「体重管理」「老化対策」と結びつけて再評価する動きである。言い換えれば、タンパク質そのものが、食品を選ぶための新しい物差しになっている。
 またこの背景には、肥満症・糖尿病治療薬として使われるGLP-1受容体作動薬の普及も指摘されているが、本稿では主にタンパク源の変化に焦点を当てたい。

カッテージチーズの復活

 このブームを象徴する食品が、カッテージチーズである。日本ではあまり存在感がないが、アメリカでは昔からある乳製品で、白い粒状のカードが特徴で、味は比較的淡泊。脂肪分が低めの商品も多く、タンパク質を多く含む。かつては、どちらかといえば「昔ながらのダイエット食」「年配層の食品」という印象もあった。しかし、今このカッテージチーズが若い世代の間でも再評価されている。
 なぜ、カッテージチーズなのか。理由は分かりやすい。高タンパクかつ低糖質であり、甘味系・塩味系のいずれのメニューにも活用しやすい。果物やはちみつと合わせれば朝食になるし、卵やアボカド、ホットソースと合わせれば軽食になる。
 酪農生産者・酪農協を代表する業界団体のNational Milk Producers Federation(NMPF)によると、アメリカのカッテージチーズ販売量は2022年に5億3,460万パイント¹で底を打った後、2023年に9.4%増、2024年に12.5%増となり、2025年にはさらに14.3%増えて7億4,660万パイントに達した。1人当たり消費量も、2022年の1.91ポンド²から2024年には2.37ポンドに回復している。とはいえ、今から50年前の1976年の1人当たり消費量が、2024年の約2倍である4.64ポンドなので、まだまだ伸びしろがあるとも言える。

1 約0.47L(カッテージチーズは液体ではないので当該容量の容器を指す)
2 約0.45㎏

プロテイン需要が変える酪農の評価軸

 このプロテインブームは、酪農にとっても重要な意味を持つ。
 牛乳は、ただ飲まれるだけではない。チーズ、ヨーグルト、バター、ホエイ、プロテイン飲料、栄養補助食品など、多様な形に加工される。消費者が求めているのは、必ずしもコップ一杯の牛乳ではない。むしろ、牛乳に含まれるタンパク質や脂肪などの成分が、さまざまな食品や飲料の原料として利用されている。
 アメリカの協同組織金融機関であるCoBankは、消費者の高タンパク食品・飲料への需要拡大は、アメリカ酪農にとって追い風になると分析している。その背景には、アメリカでは飲用牛乳の消費量は長期的に減少傾向にある一方、チーズや高タンパク乳製品の需要は拡大していることがある。酪農にとって重要なのは、牛乳をそのまま販売することではなく、乳タンパクや乳脂肪といった成分価値をいかに高めるかへと移りつつある。こうした中で、プロテインブームは乳業界に新たな需要をもたらす可能性がある。
 ここで酪農の評価軸も変わってくる。かつては「どれだけ乳量を出すか」が中心だった。しかし、加工乳製品や乳原料の需要が高まるほど、「その牛乳にどれだけタンパク質と乳脂肪が含まれているか」が重要になる。CoBankは2025年の分析で、アメリカの牛乳供給の80%超が、乳脂肪や乳タンパクに依存する加工乳製品向けであるとし、2024年の平均乳タンパク含有率は3.29%、平均乳脂肪率は4.23%だったとしている。
 つまり、プロテインブームは、単に「タンパク質をもっと食べよう」という話ではない。食品を選ぶ基準が変わり、乳製品の価値の見え方が変わり、酪農の競争力の源泉が変わりつつあるという話である。酪農家にとっては、単なるマーケティング上の流行ではない。乳価や加工需要だけでなく、乳成分を重視した育種や飼料設計、さらには乳業メーカーの工場投資にも関わる構造変化である。
 今日、アメリカのスーパーやカフェにあふれる「protein」の文字は、その変化を最も分かりやすく示すサインなのかもしれない。

(「protein」を前面に出した飲料 出典:アメリカのスターバックス社ホームページより)
https://about.starbucks.com/stories/2026/plus-up-your-daily-starbucks-routine-with-these-top-protein-picks/
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