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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

USMCA共同レビューからみる日本への示唆

[August/vol.182]
田代誠吾(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 アメリカ・メキシコ・カナダといえば、北中米ワールドカップの開催地域であるが、通商関係においてはアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で結びついており、ワールドカップの熱戦が続く2026年7月1日に初の共同レビューを実施した。USMCAは、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる協定として2020年7月1日に発効し、アメリカ・メキシコ・カナダの3か国間の貿易・投資関係を定める枠組みとして機能してきた。
 USMCAには、条文上、発効から16年後に失効すると定められているが、発効から6年後に3か国が協定の運用状況を共同で見直し、協定を延長するか、または追加的な見直しを行うかを判断する仕組みが設けられている。3か国が延長に合意すれば、協定期間はさらに16年間延長されることになる。
 2026年7月1日、3か国はオンラインでUSMCAの運用状況について協議し、本件について、アメリカ通商代表部(USTR)は声明を発表し、アメリカは現行の形で協定を更新することには同意せず、今後も協議を継続する方針を示した。
 さて、本号では、農業分野を中心としたUSMCA見直し協議におけるポイントを紹介したい。

「失効」ではなく「不確実性の高まり」

 USTRは、その理由として、協定に不十分な点が残っていることに加え、メキシコおよびカナダに対するアメリカの貿易赤字への対応が必要であると主張している。今回の共同レビューで延長の合意に至らなかったことは、USMCAが直ちに失効することを意味するものではない。一方で、協定が長期的に安定した枠組みとして自動的に延長される状況ではなくなったことも事実である。今後の年次レビューでも3か国が延長を確認できない場合、USMCAは現行の条文上、2036年7月1日に失効することになる。その意味で、北米3か国間の通商関係は、不確実性の高い局面に入ったといえる。

アメリカ農業にとっての北米市場の重要性

 USMCAは、自動車や原産地規則が注目されがちであるが、アメリカ農業にとっても極めて重要な通商基盤である。アメリカ農務省(USDA)は、USMCAについて、アメリカ産農産物・食品の優先的な市場アクセスを確保し、公正かつ科学に基づく貿易ルールへのコミットメントを強化するものと説明している。カナダおよびメキシコはアメリカ産農産物の主要輸出市場であり、穀物、畜産物、乳製品、青果物、加工食品など、幅広い品目で北米域内のサプライチェーンが形成されている。
 実際に、USDAのデータによれば2025年のアメリカ産農産物輸出額は、メキシコ向けが約306億ドル、カナダ向けが約282億ドルであり、両国を合わせると、アメリカ産農産物輸出の約3分の1を占める計算となる。つまり、USMCAはアメリカ農業にとって、単なる通商協定ではなく、主要な販売先を支える基盤となっている。
 そのため、不確実性の高まりは、農業分野にとっても非常に重要な問題である。農産物貿易では、関税水準だけでなく、長期契約、物流網、加工・流通投資、規制対応などが企業や農業者の判断に影響する。協定の枠組みが維持される限り、現在の貿易条件は基本的に継続するが、毎年のレビューや追加交渉が続く場合、農家、輸出業者、食品企業、加工業者にとって、将来の予見可能性が低下する。
 アメリカの農業界は基本的に、USMCAを安定的に維持することを求めているが、USTRは、USMCAの共同レビューに向けて寄せられた意見の中で、農業分野について、カナダの乳製品市場アクセス、メキシコ産の季節性青果物、科学に基づく衛生植物検疫措置などが論点として挙がったと説明している。

カナダの乳製品市場アクセス

 カナダとの農業分野の最大論点は、乳製品市場である。カナダは酪農などで供給管理制度を採用しており、輸入枠を超える乳製品には高い関税が課される。USTRの外国貿易障壁報告書(NTE報告書)では、例としてチーズに245%、バターに298%の関税がかかるとされている。
 USMCAでは、カナダがアメリカ産乳製品向けに新たな輸入枠を設けたが、アメリカ側は、その配分方法や運用により、実際の市場アクセスが十分に確保されていないと不満を持っている。見直し協議では、カナダが形式的に約束を守っているかではなく、アメリカ産乳製品が実際にどれだけ市場に入れるのかが焦点となっている。

メキシコとの争点はトウモロコシと科学的規制

 メキシコとの最大の農業論点は、遺伝子組み換えトウモロコシである。メキシコは2023年、遺伝子組み換えトウモロコシのトルティーヤや生地への使用禁止などを含む措置を打ち出した。アメリカは、これを科学的根拠に基づかない規制だとしてUSMCAの紛争処理手続きに持ち込んだ。
 USTRによれば、2024年12月のパネル報告では、アメリカの7つの法的主張すべてが認められた。また、2024年1月から10月までのアメリカ産トウモロコシのメキシコ向け輸出額は48億ドルで、メキシコはアメリカ産トウモロコシの最大の輸出市場だった。
 このことも含め、見直し協議では、トウモロコシだけでなく、バイオ技術、食品安全、検疫措置などについて、各国の規制が科学的根拠に基づいているかが重要なテーマになる。

今後の注目点と日本への示唆

 今後の協議では、アメリカが協定の延長を交渉材料として、これらの個別課題の改善を迫る可能性がある。農業分野から見れば、USMCAの見直しは、北米市場の安定を維持しながら、相手国の市場開放や規制運用をどこまで是正できるかを問うものといえる。
 日本にとっても、今回のUSMCA見直しは、アメリカが既存の通商協定をどのように評価し、農産物貿易上の不満をどのように交渉課題化していくのかを見る上で重要な事例である。今後の日米間の農産物貿易や検疫協議を考える上でも、アメリカが市場アクセス、科学的根拠に基づく規制、サプライチェーンの安定性を一体的に重視している点を踏まえ、北米での協議の行方を注視する必要がある。

米国税関・国境警備局が運営する USMCA Portal(USMCAポータ ル)
https://trade.cbp.gov/USMCA/s/
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