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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカの卵はなぜ期限が長いのか

[September/vol.183]
田代誠吾(JA全中 農政・広報部〈在ワシントン〉)

 アメリカのスーパーマーケットで卵を購入した際、パックに表示された期限を見て驚いた。購入日から1か月以上先の日付が記載されていたためである。日本で卵を買う際には、賞味期限まで2週間程度という印象があり、「アメリカの卵は本当にそれほど長く食べられるのか」と少し不安になった。
 また、日本では卵かけご飯やすき焼きなど、生卵を食べる習慣が定着しているが、アメリカの卵は、冷蔵保存に加えて、卵黄が固まるまで加熱するよう推奨されている。同じ卵でありながら、期限表示や推奨される食べ方は大きく異なっている。
 さて、本号では、アメリカの卵の期限が長く見える理由と、その背景にある日米の安全管理や食文化の違いについて紹介したい。

卵パックに表示される日付

 アメリカの卵パックには、「Sell By」「Use By」「Best Before」など、複数の表現が使用されている。表示制度の詳細は別の機会に譲るとして、USDA(アメリカ農務省)の格付け卵では、「Sell By」は小売店が商品を陳列・販売する期間を管理するための日付であり、「Use By」や「Best Before」は、適切に冷蔵した場合に卵の品質が保たれる期間の目安である。いずれも通常、安全性の限界日や、その日までに必ず食べなければならない期限を示すものではない。
 また、格付けマークが付いた卵パックには、卵を洗浄、格付けしてパックに詰めた日を示す「包装日」が、001から365までの3桁の数字で表示されている。001は1月1日、365は12月31日を意味する。例えば、包装日が「201」であれば、その年の7月20日に包装された卵である。
 そして、「Sell By」や販売期限を示す日付は包装日から30日以内、「Use By」「Best Before」など品質の目安を示す日付は包装日を含め45日以内とされている。このため、購入時点から1か月以上先の期限が表示されていることも珍しくない。
 ただし、こうした日付表示は全米で完全に統一されているわけではない。卵の日付表示を義務付けるかどうかや、使用できる表現については州法による違いもある。アメリカらしく、パックをよく読み、表示の意味を消費者自身が理解することが求められる制度といえる。

長い期限を支える冷蔵と加熱

 では、なぜアメリカの卵には、包装日から最長45日という長い期限を表示できるのだろうか。その背景には、卵を低温で流通・保存し、食べる際には十分に加熱することを前提とした安全管理がある。
 アメリカで販売されるUSDA格付け卵は、処理施設で洗浄・衛生処理された後、原則として低温のまま流通する。USDAは、家庭でも40℉(約4.4℃)以下で保存し、購入後3~5週間以内に使用することを目安としている。
 また、一般のスーパーに並ぶ殻付き卵の大半は、サルモネラ菌を死滅させる処理をしていないため、「冷蔵保存し、卵黄が固まるまで加熱し、卵を含む食品も十分に加熱する」との取扱表示が義務付けられている。
 つまり、アメリカの卵の期限が長いのは、単に日本の卵より傷みにくいから、新鮮だからではなく、途切れのない低温管理と、十分な加熱を基本とする食べ方を組み合わせているためである。自由や自己責任を重視する国と評されることの多いアメリカであるが、卵については消費者の判断だけに委ねず、保存温度や調理方法まで具体的に示している点が興味深い。

日本の賞味期限は「生食できる期限」

 一方、日本の市販卵は、通常はGPセンターと呼ばれる施設で、消毒液を含む温水などを用いて卵殻表面を洗浄・殺菌のうえ、検卵、選別、包装されており、期限表示の考え方はアメリカと異なる。
 日本の生食用卵に表示される賞味期限は、適切に保存した場合に、卵を生で安心して食べられる期限である。農林水産省の解説では、一般的に産卵日から21日以内に設定されており、賞味期限を過ぎた卵については、生食を避け、十分に加熱して早めに食べることが推奨されている。
 また、日本のスーパーでは、卵が常温の売り場に並んでいることも少なくない。しかし、これは家庭でも常温で保存してよいという意味でなく、流通の途中で一時的に冷蔵した卵を高温多湿の環境に戻すと、卵殻の表面に結露が生じ、品質に悪影響を与える恐れがあるためである。

卵の期限から見える食文化と日本の強み

 このように、卵の期限は単純に長短だけで比較できるものではない。アメリカと日本では、期限表示が示す意味に加え、想定される保存方法や食べ方そのものが異なるためである。アメリカの卵に長い日付が表示されていても、日本の卵より新鮮で安全であることを意味するわけではない。
 一方、日本で卵を生食できることは、世界的に見れば特徴的な食文化であり、日本産卵の強みともいえる。今後の日本産卵の輸出拡大に向けては、加熱調理を基本とする海外市場では、単に「生で食べられる」と宣伝するだけでは、その価値が十分に伝わらない可能性があり、生産から流通までの衛生管理や品質管理を分かりやすく示すとともに、現地の食習慣に合った利用方法を提案することが重要であろう。
 アメリカの卵の期限が長いという素朴な疑問からは、期限表示の違いだけでなく、日本で生卵を安心して食べられることが、多くの関係者によって支えられた一つの価値であることも見えてくるのである。

7月20日に包装、9月2日までを期限としている表示 出典:筆者作成
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