民主党・共和党両党の候補者選びは波乱なく進み、バイデン大統領とトランプ前大統領が早々と指名を確実にした中で、本年11月の大統領選挙は両者による再戦が濃厚となった。両者は夏の党大会で各党の大統領候補者として正式に指名される見込みであるが、大統領選挙が再戦となるのはアイゼンハワー大統領(当時)が再選を果たした1956年の選挙以来68年ぶり、新旧大統領再対決となるのはクリーブランド前大統領(当時)がホワイトハウスを奪還した1892年の選挙以来で実に132年ぶりの出来事となる。
アメリカ大統領選挙は総得票数の多い候補者が勝者となるわけではなく、過半数の「選挙人」を獲得した候補者が当選する。計538人の選挙人は人口に応じて各州に割り当てられており¹、当選するためには過半数の270人以上を獲得する必要がある。投票は州ごとに行われ、有権者は自分が支持する候補者の選挙人に投票するが、ほとんどの州では最も多くの票を獲得した候補者がその州の選挙人を全て獲得する勝者総取り方式を採用している²。また、アメリカでは伝統的に民主党支持が強い州、共和党支持が強い州とはっきり分かれているところが多く、従って例えばカリフォルニア州は54人の選挙人が割り当てられている一番の大票田であるが、同州は典型的なブルーステート(青い州³)であるため、共和党の候補者が同州の選挙人を獲得する見込みはほぼ皆無である。
こうした仕組みの中で重要となるのが、選挙のたびに勝利政党が変わりやすい「激戦州(スイングステート)」の動向である。本年の大統領選挙の激戦州としては、アリゾナ州、ネバダ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ジョージア州、ノースカロライナ州などが挙げられているが、過去2回(2020年、2016年)の大統領選挙の結果を見ても、これらの州では得票率の差が0.5%以下の接戦となることもあるほどで、激戦州をより多く制した候補者が大統領の座に就いている。この限られた州が大統領選挙の命運を握っていると言っても過言ではなく、候補者も、自らの資金と時間の多くをこれらの州での勝利のために費やす傾向にある。
アメリカでは大統領選挙関連の世論調査を行う組織や団体が数多く存在し、主要メディアや大学、専門の調査会社などがそれぞれ独自に、または連携して調査を実施しているが、世論調査でも激戦州の動向に当然注目が集まる。例えば、本号執筆時点(3月下旬)で入手できたブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルタントが行った最新の世論調査では、激戦州で過去5か月リードを保ってきたトランプ前大統領をバイデン大統領が追い上げる展開となっていることが示されている。いずれにせよ大統領選挙の結果を占うのは時期尚早であるが、今後関連する報道等を見る上で、激戦州の動向にぜひ注目いただきたい。
1 具体的には、人口に応じて議席数が定められている各州の連邦議会下院の議席数(全米定数435人)に、各州平等で2議席の上院の議席数(全米定数100人)を足した数がその州の選挙人の数になる。これにワシントンDCの3人を加え、選挙人の合計が538人となる。
2 メーン州とネブラスカ州が例外で、これらの州では選挙区ごとに選挙人票を割り当てている。
3 両党のシンボルカラーにちなみ、民主党支持が強い州はブルーステート(青い州)、共和党支持が強い州はレッドステート(赤い州)と呼ばれる。

