11月5日はいよいよアメリカ大統領選挙の投開票日である。本号執筆時点(9月下旬)で、大統領選挙のカギを握る激戦州¹の世論調査は極めて接戦となっており、最後まで目が離せない状況である。
大統領選挙と比べると日本での報道は少ないが、11月5日には連邦議会選挙²も同時に実施される。国会での成立法案の多くを内閣提出法案が占める日本とは異なり、アメリカでは大統領(行政府)に法案を提出する権限がなく、法案の提出は立法府である連邦議会の役割である。立法を伴う政策の推進において大統領は議会との協力が不可欠であり、自らと同じ政党が議会で多数派を占めていればそれは前進しやすく、その逆の場合は困難を伴うことが多い。このため、アメリカの政治の先行きを占うには大統領選挙に加えて議会選挙の情勢も把握しておく必要がある。
最近の世論調査³を見てみると、定数が100議席(各州から2名ずつ選出)で2年ごとに約3分の1が改選される上院では共和党が有利に戦いを進めており、非改選組と合わせて共和党が50~51議席を獲得する見込みとなっている。接戦となっている州はいずれも民主党が現在議席を有している選挙区であり、共和党がどの程度議席を上積みできるか⁴、あるいは民主党が押し返して50対50のタイに持ち込めるかがポイントとなる。仮に勢力が50対50で均衡した場合、上院の採決が可否同数の場合は上院議長である副大統領が決定投票を行うため、大統領選挙を制した政党が実質的に上院で多数派となる。
定数が435議席(人口に応じて各州に割り当て)で2年ごとに全員が改選される下院では、互角の戦いが繰り広げられている。両党がそれぞれ207の選挙区で優勢な状況で、接戦となっている残り21議席を争う展開となっている。いずれの党が勝利したとしても、どれだけ安定した多数派を形成できるかが円滑な議会運営を行う上でポイントとなる。
1 選挙のたびに勝利政党が変わりやすい州で、スイングステートとも呼ばれる。詳しくは本年5月号の本記事(アメリカ大統領選挙 命運握る激戦州)を参照。
2 アメリカ連邦議会は上院と下院の二院制で、上院は日本の参議院に、下院は衆議院に相当。なお、衆議院の優越がある日本とは異なり、アメリカの上院と下院はほぼ対等な力関係にある。
3 各種世論調査等をまとめている270toWinの9月27日時点の集計を参考にした。
4 ただし、上院特有のフィリバスター・ルール(議事妨害)を抑え込むために必要な60議席には届かず、一般的な法案を可決するためには、引き続き超党派の協力が必要な状態が続くと考えられている。
共和党のトランプ党化
今回の選挙とあわせて注目すべきは、共和党の質的変化である。例えば通商政策においても伝統的に自由貿易推進派だった共和党内で自由貿易懐疑論者が増加したように、2016年のトランプ大統領の出現、そしてトランプ氏を支持する議員の増加は、共和党のイデオロギーに大きな変化をもたらしている。いわゆる共和党の“トランプ党化”である。
連邦議会では議会指導部が絶大な権限を持つが、下院共和党トップのマイク・ジョンソン下院議長(ルイジアナ州)は忠実なトランプ支持者であり、下院共和党は既にトランプ党化したといわれている。上院共和党トップのミッチ・マコネル院内総務(ケンタッキー州)は院内総務歴史上最長を誇る重鎮議員であり、トランプ氏に批判的な立場を取ってきたが、本年11月に院内総務の職を辞任すると発表している。本年の大統領選挙においてトランプ大統領候補およびトランプ氏の信奉者であるJ・D・ヴァンス副大統領候補が勝利すれば、トランプ党化の流れは当然加速するだろう。アメリカ政治の専門家は、「アメリカ民主主義政治を支えてきた二大政党制はまだ終わっていないとしても、“古き良き”共和党は存亡の危機に見舞われている」と指摘する。