アメリカにおける7月の記念日といえば、独立記念日(7月4日)が世界的にも有名であるが、その陰に隠れて、7月第2週金曜日(もともとは7月13日)は「National French Fry Day(フライドポテトの日)」として国民に愛されている。
フライドポテトの起源は、フランスともベルギーとも言われているが、フライドポテトを真に普及させたのはアメリカであり、世界中のファストフードチェーンの定番となっており、McDonald’sではアメリカ産馬鈴薯のうち約7%を自社製品に使用しているとする報道もある。
そんなアメリカの国民食とも言えるフライドポテトの記念日に向けて、ファストフードチェーンや外食産業では、割引や無料配布キャンペーンを行うなど食文化の一大イベントとなっている。
本号では、フライドポテトの原材料である馬鈴薯生産と消費、日本との関係について紹介したい。
1. アメリカにおける馬鈴薯生産と消費
アメリカにおける2023年の生産量は約2,000万t(世界第4位)であり、世界有数の馬鈴薯生産国である。主な生産地はアイダホ州、ワシントン州などで、大規模かつ契約栽培が主で、企業経営型の農業が中心となっている。多くの種類を生産しているが、中でもラセット系の品種を多く生産し、加工用(冷凍ポテト・ポテトチップ等)の生産が約6割を占め、生食用はやや減少傾向である。
アメリカの1人当たり年間消費量は約50kgで推移している。中でもフライドポテトによる消費が多く、1人当たりの年間消費量は約14kgとも言われている。馬鈴薯全体の1人当たり年間消費量は、約20kgの日本と比較すると多いが、ベラルーシ約170kg、ラトビア約130kgなど欧州と比較すると必ずしも多いわけではない。
2. 日本における馬鈴薯生産と消費
日本における2023年の生産量は約238万tで、国内需要(約348万t)との差は輸入冷凍加工品等で賄われている。主産地は北海道(約8割)であるほか、鹿児島県や長崎県でも盛んに生産されている。国産馬鈴薯の用途別構成は、生食用24%、加工食品用25%、でん粉原料用32%、その他用18%であり、加工食品用が増加傾向、生食用およびでん粉原料用が減少傾向である。
消費においては、近年、ポテトチップ用等の需要が増加している中で、加工食品の原料原産地表示の義務付けにより加工メーカーの国産原料志向が一層高まっていることから、加工用馬鈴薯の生産を増やしているものの、十分に対応できず、加工メーカーは不足分を輸入に頼っている。
3. 馬鈴薯におけるアメリカと日本の関係
世界有数の馬鈴薯生産国であるアメリカは、カナダやメキシコのほか日本を含むアジア諸国にも馬鈴薯の輸出を行っている。フライドポテトなどに使う冷凍馬鈴薯の日本の年間輸入量約36万tのうち8割弱がアメリカ産であり、現在ポテトチップ用に限って認められている生馬鈴薯は全量(2023年は約3.2万t)がアメリカからである。
日本における生馬鈴薯の輸入は現在、植物防疫法令で次のとおり定められている。
① アメリカ以外の地域については輸入が禁止されているか又は隔離検疫を受ける必要
② アメリカ産については、ポテトチップ用に限り、輸入後に植物防疫所長が指定する加熱加工処理施設で加工される等の2国間で定められた条件を満たす必要(一部地域は輸入禁止、ポテトチップ用以外の用途については、①に同じ)。
【アメリカ産ポテトチップ加工用馬鈴薯の主な輸入条件】
1. ジャガイモシストセンチュウ及びジャガイモシロシストセンチュウの無発生地域で生産されること
2. 土壌の除去(水洗い)
3. 密閉型コンテナーにより輸入され、輸入後速やかに加工処理施設まで輸送すること
4. 加工処理施設は、港頭地域内に所在し、加熱加工処理等を的確に行える能力を有していること(現在2施設)
最後に、防疫上のリスクを理由としたこうした措置については、30年以上前から保護主義的だとアメリカ通商代表部や業界団体に指摘されている。文化的象徴としての「National French Fry Day」は、フライドポテトがアメリカの国民食であることと、その裏で広がる産業インフラ・市場構造を象徴しており、食卓に並ぶ一皿のフライドポテトから始まった文化は、貿易政策の最前線にまでつながっている。

https://www.ars.usda.gov/oc/images/photos/featuredphoto/sep23/potatoes/