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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

関税協議における農業分野の合意内容

[September/vol.171]
田代誠吾(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 トランプ大統領は、2025年4月2日を「解放の日」と称し、相互関税を発表し、自動車や鉄鋼・アルミニウムなどの品目別関税と併せた輸入関税の全体像を明らかにした。その後、各国はアメリカとの交渉を進め、5月8日、イギリスが最初の合意国となった。
 7月上旬にはアメリカが主要貿易国に8月1日からの関税率を通知することで、一層の交渉を促し、本号執筆時点の7月末には、先のイギリスに加えて、ベトナム、インドネシア、フィリピン、EU、韓国、タイ、カンボジア、バングラデシュそして日本と合意に至っている。本号では、これらの国とアメリカとの関税協議における農業分野の合意内容を中心に紹介したい。
 なお、これらの国以外では中国はもちろん、カナダ、メキシコ、インドなども協議を続けており、関税協議における現在地は刻一刻と変化しており、合意に至ったとされる国でもベトナムやタイなどのように詳細が明らかにされていないものもあるため、記載した相互関税率等の情報は、本号執筆時点(7月末)のものであることをご容赦いただきたい。

【日本】相互関税:15%
 アメリカ側の発表によれば、日本はアメリカ産のコメの輸入を直ちに75%増加させる。日本はトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料など、80億ドル相当のアメリカ製品を購入する予定とされている。
 日本政府の発表によれば、農産物を含め、日本側の関税引き下げはなく、コメは、ミニマムアクセス米制度の枠内で、日本国内のコメの需給状況等も勘案しつつ、必要な調達を確保するとされている。

【イギリス】相互関税:10%
 アメリカからイギリスへの牛肉輸出に対して、現在1,000tの割当量内で20%の関税が課されているが、それを撤廃し、1万3,000tの優遇無税枠を設定。なお、イギリスはかねてより成長ホルモン剤の使用を問題視しており、今回の合意を経ても「輸入国の基準を順守」とし、輸入を引き続き制限する意向である。一方で、今回の合意には、「市場アクセス改善のため協力」する旨も含まれており、今後修正を迫られる可能性もある。
 イギリスからアメリカへの牛肉輸出に対して、既存の牛肉に対する「その他の国」への低関税枠約6万5,000tのうち1万3,000tをイギリスに再割り当てし、低関税枠を設定。
 このほか、アメリカからイギリスへのエタノール輸出に対して、14億L優遇無税枠を設定。

【ベトナム】相互関税:20%
 アメリカ側の発表によれば、アメリカからベトナムへの輸出に対しては0%の関税率を適用。

【インドネシア】相互関税:19%
 アメリカからインドネシアへの輸出に対して、農業分野を含む全分野の99%以上で関税を撤廃。
 このほか、非関税障壁の撤廃として、インドネシアは、以下の措置を講じることで、インドネシア市場におけるアメリカ農産物への障壁に対処し、防止する。

(1) アメリカ産食品および農産物を、商品均衡政策を含むインドネシアのすべての輸入ライセンス制度から除外する。

(2) 肉類やチーズを含む地理的表示(GI)に関して透明性と公平性を確保する。

(3) 該当するすべてのアメリカ産植物製品に恒久的な植物由来生鮮食品(FFPO)指定を与える。

(4) アメリカのすべての肉類、鶏肉を含む家禽かきん類、乳製品施設のリスト化やアメリカ規制当局が発行する証明書の受け入れなど、アメリカの規制監督を認める。

【フィリピン】相互関税:19%
 アメリカ側の発表によれば、アメリカからフィリピンへの輸出に対しては0%の関税率を適用。

【EU】相互関税:15%
 アメリカとEUは、アメリカ産豚肉および乳製品に対する衛生証明書の要件を簡素化することを含め、食品および農産物の貿易に影響を与える非関税障壁に対処するために協力する。

【韓国】相互関税:15%
アメリカ側の発表によれば、アメリカから韓国への輸出に対しては関税を課さないほか、韓国はアメリカ産のコメなどの農産物を受け入れるとされている。

【タイ・カンボジア】相互関税:19%
 両国間の紛争の停戦合意により、交渉が進展し、相互関税率が19%となることは明らかにされたものの、7月末時点で正式な発表がない。一部報道では、タイがアメリカ産トウモロコシの購入を約束したとされている。

【バングラデシュ】相互関税:20%
 今後5年間、アメリカ産小麦を年70万t購入するほか、大豆等の購入も約束したとされるが、機密保持契約を結んでいるため、アメリカ産製品の輸入・購入に係る詳細は明らかにされていない。

(合意に向けた日米協議の様子 出典:スカビーノ大統領補佐官のX)
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