毎年3月に入り桜の開花予想をメディアが報じるのは日本だけではない。アメリカにおいても主要メディアがワシントンDCの桜の開花予想の特集をするなど、DCの春は、桜抜きには語れない。ポトマック川沿い、リンカーン記念堂、ジェファーソン記念堂――国家の象徴が並ぶその風景の中で、淡い花びらは今では実に自然に揺れているが、この桜はもともとここにあったものではない。
さて、本号では、DCの桜およびアメリカの花き産業について紹介したい。
DCの桜
DCに桜を、という話の始まりは、日本の桜を愛した1人のアメリカ人女性エリザ・シドモアの熱意である。彼女は、兄が在横浜米国領事館に勤務していたのをきっかけに訪れた日本で、桜の美しさに魅了され、DCへの植樹を発案した。1885年にシドモアが帰国し、20年以上関係者にポトマック川沿いへの桜植樹の陳情を続けた。しかし、果実を収穫するわけでも切り花として売れるわけでもないとして、どの政権でもまともに取り扱われることはなく、計画は暗礁に乗り上げていた。
その後、1909年、大統領となったウィリアム・タフトの夫人ヘレン・タフトが興味を示したことで計画が動きだし、2,000本の桜が当時の東京市から贈られることとなったが、到着した桜には病害虫が見つかり、全て焼却処分されてしまった。ここで計画が頓挫してもおかしくはなかったが、日露戦争後に台頭した日本が、軍事ではなく文化を通じて存在感を示そうとした思惑もあり、1912年に3,000本の桜が再度贈られ、桜はDCという都市の季節感そのものになっている。
今では、桜の開花に合わせてナショナル・チェリーブロッサム・フェスティバル(全米桜祭り)が開催され、150万人以上が訪れる一大イベントとなっている。
アメリカの花き産業
桜そのものは消費されるものではないが、アメリカでは花がかなり日常的に消費されている。実際に筆者も生活してみて驚いたのは、スーパーや量販店での花き販売が一般的で、そこに並ぶ10ドル前後のブーケは、誕生日でも記念日でもなく、ただの週末に買われており、日常的に花を買う文化は日本よりも根付いている。
そのことは数字にも表れており、インドの市場調査会社によれば、2026年の市場規模は79億ドルに達するとも言われており、今後も年5%ほどの成長が見込まれている。なお、同社によれば日本の市場規模は15億ドルほどなので、その差は5倍以上であり、人口比を踏まえても大きいと言える。
注目すべきは、花き市場の中でも特に切り花の多くが輸入に依存している点で、流通商品の約80%は輸入品。主な供給国はコロンビアやエクアドルなどの南米が大半を占める。
DCの桜から、GREEN×EXPO 2027へ
さて、少し話は変わるが、日本では昨年盛り上がった大阪・関西万博に続き、来年の3月から横浜では2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が開催される。GREEN×EXPO 2027の特徴は、花やみどりをベースにしつつ、食や農、環境などにテーマを拡げた博覧会で、これまでの花博が得意としてきた「美しさ」や「技術力の誇示」だけでなく、その後の社会に何が残るのかを強く意識している点にあるように思う。
例えば、
・花きや園芸が都市の環境改善やウェルビーイングにどう寄与するか
・農業・園芸が食や健康とどう結びつくか
・花や緑を「一時のイベント」ではなく「日常の選択肢」にできるか
といった問いが大会の思想には織り込まれているのではないか。
日本の花き産業は、長らく生産技術の高さや品質の良さを強みとしてきた一方で、消費面を見ると、冠婚葬祭や仏花、イベント用といった「用途が決まった花」が中心で、日常的に花を買う文化は必ずしも定着しているとは言えない。
アメリカにおける日常的な消費ぶりを目の当たりにすると、GREEN×EXPO 2027を通じて、花を「守るべき文化」や「誇るべき技術」として示すだけでなく、「使うもの」「買うもの」「生活の一部」として再定義できるかどうかが重要であり、日本の花き産業にとっての分岐点がそこにあるように思われる。
https://www.nps.gov/media/photo/gallery-item.htm?pg=6787145&id=66b0975c-4349-4bd6-8034-1109f538c651&gid=81CCEB64-D804-44EE-A215-7F47DF5938D8