令和6年12月2日。日本社会に衝撃が走った。
「酪農家1万戸割れ」
数年来高止まりしている飼料や燃料といった生産コストの負担、牛乳・乳製品の消費減退により酪農経営は厳しい状況が続いている。
そのようななか、酪農家を志す一人の少女が農業高校で実習用の牛を育成する、「牛部」での活動を通じて、心身ともに成長していく様子を描く本書は、酪農界に明るい話題をもたらす一書である。
竹雀高校へ入学した広瀬夢生は、入学式で出会った牛の美しさに一瞬で魅了されてしまう。柔らかい毛の感触、じんわりと伝わる温もり、濡れたガラスのように艶やかな黒い目―
かつて飼っていた小さなハムスターとは比べ物にならないほど大きく、しかし、どこか通ずるものを感じるその牛に、心を奪われた夢生は、迷うことなく牛部の門を叩いた。
給餌や牛床の清掃、搾乳など慣れない活動にも熱心に取り組むなかで、牛への愛はますます深まっていく。そして、新たな生命の誕生への立ち合いや、家畜としての役割を終える牛の見送りを通じて、命の大切さに向き合うこととなる。普段の活動やコンテストへの出場を通して、牛と心を通わせることの大切さ、牛に対する感謝の思いを強くしていく。牛部では、搾乳の際に、乳を「搾る」ではなく「搾らせてもらう」と表現するのはその表れである。
「ファッションよりも牛」と豪語する高校生が目指す姿は。
彼女の目に映る酪農の姿は。
これからの日本の酪農界や次世代の担い手に対しエールを贈る良書である。

(評 JA全中広報部)