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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

MAHAについて

[November/vol.173]
田代誠吾(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 トランプ政権に関連して、MAGA(Make America Great Again:アメリカを再び偉大な国にする)という言葉を耳にした方は少なくないのではないか。昨年の大統領選以降、日本でも盛んに報道されているスローガンである。そのスローガンにかけた言葉であるMAHA(Make America Healthy Again:アメリカを再び健康にする)は、トランプ政権における既存の健康・食・環境政策の改革を目指す政策を語るうえでは欠かせない。本号では、MAHAについて紹介したい。

MAHAの中心人物

 MAHAの中心人物は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官(以下、ケネディ長官)である。彼は反ワクチン活動家として、第35代アメリカ大統領・ジョン・F・ケネディのおい(ジョンの弟の子)としても名が知られているが、昨年の大統領選をめぐってはもともと民主党からの立候補を模索のうえ断念し、無所属で立候補。その後選挙戦から撤退し、トランプ氏支持に回った。
 トランプ氏の当選後、第2次政権の保健福祉長官に指名されたが、その指名をめぐっては彼のこれまでの非科学的な主張や陰謀論を背景に大きな反発を生んだ。結果的には、民主党全議員に加えて共和党からも1名が反対に回ったが、賛成52票、反対48票で承認された。

MAHA委員会

 トランプ大統領は本年2月13日、ケネディ長官を委員長とするMAHA委員会の設立に関する大統領令を発した。同大統領令では、アメリカ人の平均寿命が他の先進国に比べて大幅に短いことや、慢性疾患の割合が高いこと、ガンの年齢調整罹患率(国民の年齢構成を考慮した罹患率)が204の国と地域の中で最も高く、2021年は2位の国のほぼ2倍であることなどが挙げられ、早急に対策を講じる必要があるとした。
 大統領令では、2022年には推定3,000万人(40%)の子どもが、アレルギー、喘息ぜんそく、自己免疫疾患など少なくとも1つの健康状態を抱えているとし、小児慢性疾患の危機への対処が第一の使命であるとした。また、命令から100日以内に評価報告書を提出し、180日以内に戦略を提出することとされた。
 同委員会には、委員に農務長官や教育長官、食品医薬品局(FDA)長官、疾病対策センター(CDC)長官、国立衛生研究所(NIH)所長などが充てられ、省庁横断的に対応することとなった。

MAHAレポート

 5月22日に、MAHA委員会はThe MAHA Report: Make Our Children Healthy Againを公開した。同報告書では、子どもの健康問題の4つの主な要因として、①超加工食品に偏った食生活、②残留農薬や化学物質の日常的な曝露ばくろ、③スマホの見すぎなどによる運動不足とストレス、④医療の過剰介入や薬の過剰処方が挙げられたほか、ケネディ長官のかねてからの主張である化学メーカーや食品、医薬品業界と政府との癒着により、政策がゆがめられ、不健康を助長している旨が盛り込まれた。
 また、除草剤のグリホサートやアトラジンなど具体的な名称を取り上げ、今後の規制をうかがわせる内容であったほか、公表後に、引用ミスや存在しない研究への言及が含まれるなどAIを使って生成されたのではないかと指摘され、大きな話題となった。

MAHA戦略

 先の大統領令では180日以内とされていたものの、少し遅れた9月9日、同委員会から、120以上の具体的な行動が列挙されたMake Our Children Healthy Again Strategy Reportが公開された。
 この中では先の報告書で言及された癒着や農薬への批判がトーンダウンしており、メディアはそうしたトーンダウンは、関連業界による政治家へのロビイングを通じた巻き返しを反映したものだと報じており、MAHAを支持する層からは失望の声が広がった。

MAHA派とトランプ政権

 そもそも、MAHAやケネディ長官を支持する層は、食品関連産業への規制強化を志向する民主党支援者や無党派層である。一方で、共和党のトランプ政権は、規制緩和を志向し、産業界への規制強化には消極的であるため、両者が相いれないことは当初から予想されていた。
 しかしながら、ケネディ長官の主張は、非科学的であるなどとメディアから度々批判されているものの、そうした有権者からの支持は根強く、支持率の低下にあえぎ無党派層を取り込みたいトランプ政権としては、無下にはできない存在である。来年の中間選挙を見据え、MAHA政策の行方からも目が離せない。

(MAHAレポートおよびMAHA戦略の表紙 出典:WhitehouseのHPより)
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