食・農・地域の未来とJA
JAコメ事業の安定供給機能
1. JAコメ事業の安定供給機能
令和のコメ騒動において注目されたことの1つが、JAコメ事業が持つ安定供給機能であった。「安定供給機能」といった場合、数量の安定的確保と、価格の安定化の2つのことを指す。
前者の、数量の安定的確保のほうは分かりやすい。収穫直後に集荷したコメを売り抜いてしまう他の流通業者とは異なり、JAは通年で計画的にコメを供給する事業スタイルをとる。そのために、需給がタイトになる古米と新米の切り替え時である、端境期(7~9月頃)になっても、例年は消費者へのコメの供給が途切れることは無い。
価格の安定化は、JAが共同計算方式をとっていることによる。一定の期間を通じた市場における価格の上昇や下落をならすとともに、精算金の支払いを通じて、価格上昇の場合はそのメリットを農業者に還元できる。消費者に対しても、小売価格の急激な上昇を防ぐことが可能になる。
一方で、数量の安定的確保と価格の安定化は、お互いに矛盾しあう(トレード・オフの関係にある)場合もある。数量の安定的確保を優先する場合は、集荷時にある程度の価格上昇を許容して、消費者に負担をかけることになる。価格の安定化を重視する場合は、生産者からの集荷価格を抑えることで、JAへの集荷量が減少する。前者のパターンが2025年産の集荷であり、後者のパターンが2024年産であった。2024年産は概算金を抑えたことで、令和のコメ騒動の発生による急激な価格上昇を一定程度緩和したが、JAへの集荷量は減少した。それに対して、2025年産は激しい集荷競争の下で集荷量の回復を優先したために、概算金をはじめとした生産者価格の急激な上昇が、小売価格の高止まりの一因になった¹。
1 西川邦夫「「令和の米騒動」と農協概算金―価格の安定と集荷率の維持とのトレード・オフ―」『農業協同組合経営実務』、2025年9月号、pp.4-15、を参照。
2. 令和のコメ騒動とJAコメ事業
図1は、2023年産、2024年産、2025年産における、年間の玄米取扱量5,000トン以上の集出荷団体による、主食用米の集荷数量の推移を示したものである。全農、道県経済連、県単一農協が含まれ、都道府県組織への集荷数量を示している。2024年産は2023年産と比べて、特に3月頃までの集出荷団体への集荷数量が大きく減少した。4月以降に一定程度盛り返したのは、冬季を終えて流通業者が保有する低温倉庫に入りきらないコメが、保管施設が充実している都道府県組織に集まってきたことや、政府備蓄米の放出によって市場に不透明感が広がったこと等が、要因として考えられる。それに対して、2025年産は集出荷団体の集荷数量が回復し、2023年産をも上回って推移している。収穫期における概算金の引き上げは、JAへの集荷を回復させ、数量の安定的確保に寄与したことが示唆される。
注:年間の玄米取扱量5,000トン以上の集出荷団体が対象であり、全農、道県経済連、県単一農協、道県出荷団体、出荷業者が含まれる。
一方で、JAに集まったコメは、行き先を探すのに苦労している。図2は、集荷数量に対する契約数量の割合の推移を示した。集荷数量が少ない9月は除いた。2024年産は年内(12月)までに契約数量の割合が9割を超え、3月にはほぼ10割に達した。収穫から早い段階で集荷したコメの行き先が決まり、スポット市場へ供給されるコメが極端に減少したことが、じりじりと価格の上昇をもたらした²。それに対して、2025年産の契約数量の割合は、前年産と比べて10ポイント程度下落している。コロナ禍で米価が低迷していた、2022年産に近い水準である。
契約の進捗の遅さは、価格の高止まりにより最終需要が停滞していることによる。図3は、卸売業者を含む精米事業者の搗精数量の推移を示したものである。家庭用(小売店)や業務用(中食・外食業者)の実需者に対しては精米して供給されるため、搗精数量から最終需要の動向を見ることができる。端境期にかけて最終需要が増加した2023年産、政府備蓄米の放出によって同じく端境期にかけて搗精数量が増加した2024年産に対して、2025年産はその減少が明確になっている。以上の結果、2026年1月末時点の民間在庫は321万トンと、対前年同月比で92万トンの大幅な増加となった。この水準は、コロナ禍の影響で米価が低迷した、2021年1月(321万トン)、2022年1月(326万トン)に匹敵するものである³。市場では明らかに供給過剰となっており、米価が下落に向かう蓋然性が高くなっている。
2 西川邦夫「「令和のコメ騒動」の展開過程(前編) 需要に対する供給不足が原因」(食農耕論)、『全国農業新聞』、2025年7月4日付、p.3、を参照。
3 農林水産省「民間在庫の推移(速報)」による。
注:図1・2とは年産の期間が異なっている。
3. 集荷競争につきあう必要は無い
2025年産において、JAは十分な集荷をすることで、数量の安定的確保には大きな役割を果たした。2024年産のように、収穫後に市場で供給不足が顕在化して、米価がじわじわ上昇していった状況は、2025年産においては再現されていない。しかしながら、収穫時の激しい集荷競争において生産者価格が急上昇したことが、現在までの小売価格の高止まりを招いていることは否定できない。そうであるなら、2026年産の集荷に際してJAに求められていることは、他の流通業者が提示してくる価格につられることなく、安定供給機能のもう一方の機能である価格の安定化を意識することであろう。不用意に集荷競争につきあう必要は無い。図らずも、供給過剰に転じた現在のコメ市場では、JAが価格の安定化に寄与する余地が大きくなっているように思われる。