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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

地元の食・農・地域の循環から、国消国産を考える

中野美奈子 フリーアナウンサー

1. シンガポールでの暮らしを通じて、日本の食材のすばらしさを再確認

県木でもあるオリーブの木の下で

 「なんで、このトマトこんなに甘いの?」
 地元・香川県の直売所で買ったトマトを口にしたとき、息子が目を丸くして聞いてきました。

 東京を離れた後、6年ほどシンガポールで暮らしました。多民族国家のシンガポールには多様な文化が共存し食文化も実に豊かです。旅行で初めて訪れた際には、本格的な中華料理やインド料理のおいしさに感動し「こんな場所で暮らせたら」と移住することに胸を躍らせていました。
 ところが、実際に生活してみると旅行者として訪れるのとは少し違った景色が見えてきたのです。国土の限られたこの国では、食料のほとんどを海外からの輸入に頼っています。スーパーに並ぶ食材の選択肢は豊富です。しかし葉野菜のはいった袋をあけた瞬間なんともいえないモワッとした青臭さを感じることも少なくありませんでした。日本で当たり前のように口にしていた採れたてのみずみずしさがないのです。
 時々見かける日本産の野菜は輸送コストなども加わり、価格は大きく異なります。サンマの塩焼きに大根おろしとすだちを添えようものなら、いつもの家庭料理がちょっとした高級料理になってしまいます。
 特に子どもが生まれてからは、“できるだけ新鮮なものを食べさせたい”という気持ちが強くなりました。離乳食用の新鮮な食材を求め島内のスーパーを何軒も回ったこともあります。振り返れば、私はあの頃は新鮮な食材にずいぶん飢えていたのだと思います。

 そんな生活の中で久しぶりに帰省した、故郷・香川。
 母に連れられて訪れた直売所には、つやつやとした色鮮やかな野菜が所狭しと並んでいます。しかも、直売所ならではの価格!!傍らでは生産者の方が自ら丁寧に野菜を並べて“こんなに新鮮でおいしいものを、この値段でいただいていいのだろうか”と申し訳なく思ってしまうほどです。

2. 香川県へUターンし、子どもと一緒に食や農について学ぶ日々

 その後、日本へ戻り5年ほど前に家族で香川県へUターンしました。海外にいた頃はあまり野菜を食べなかった長男も、いつの間にか野菜のおいしさにめざめ、すすんで食べるようになったのです。
 そして、もう一つ大きな変化がありました。子どもたちが「自分たちでも野菜を育ててみたい」と言い始めたこと。はじめは初心者でも比較的育てやすいキュウリやサツマイモから始まり、ナス、ブロッコリー、レタスへと少しずつ種類が増えていきました。スイカには苦戦し、一つも大きく育たなかった年もあります。けれど、それも大切な経験でした。
 スーパーに行けば整った野菜が並んでいるけれど、一つの作物を種や苗から育て収穫することは決して当たり前ではない。そのことを、親である私自身も子どもたちと一緒に学んでいます。

子どもたちと一緒に家庭菜園にも挑戦している

3. 地域全体で「食」や「農」の学びを深める

 最近では、地域全体で農業を「学び」に変える取り組みも広がっています。
 地元企業の支援を受け、農業科の高校生が約2週間、北海道のジャガイモ農家に泊まり込みで実習を行ったという話を聞きました。見上げるほど巨大なポテトハーベスター。どこまでも広がる畑。そして土の中から次々と姿を現すジャガイモ。小規模な畑での実習に慣れていた高校生たちにとって、その光景は大きな衝撃だったそうです。
 さらに収穫した農産物を地域で販売し、食堂などで活用してもらうことで、農業を起点に地域とのつながりも生まれたといいます。
 食について学ぶ場所は、家庭や学校だけではありません。企業や生産者、地域社会が加われば、子どもたちが「食」を立体的に理解する機会はさらに広がります。

4. 若い世代が発信する食・農・地域の魅力

 香川に戻ってから、高校の後輩から手紙をもらったことがあります。東京で会社員として働いていたものの、故郷へ戻り、アスパラガス農家を始めたという知らせでした。

故郷の香川県でアスパラガス農家を始めた後輩と

 香川には「さぬきのめざめ」という、太く柔らかなアスパラガスがあります。彼はその魅力を香川から発信しています。
 一度ハウスを訪ねた際、生のままアスパラガスをいただきました。
 驚くほど甘く、折れた穂先から水分がしたたり落ちるほどのみずみずしさ。その味は今でも忘れられません。

アスパラガスの収穫

5. 私たちの「食の選択」が、次世代の地域と農業の未来を守る

 香川へ戻って、もう一つ気づいたことがあります。
 農業は「守るもの」であると同時に、新しい人たちによって「変わっていくもの」でもあるということです。UターンやIターンをきっかけに農業を始め、SNSを使って農産物の魅力を発信する。地域の企業や飲食店と連携し、これまでとは違った形で地元の農業を盛り上げる。
 「うどん県」として知られる香川でも、今ではアスパラガスを主役にした「アスパラ大騒ぎ」というイベントが開催されています。食べて、飲んで、歌って、笑う。
 農業が“生産”という枠を越え、人と人を結び地域そのものの魅力になっていく。県外から訪れる人も増えて、地元を愛しその価値を新しい方法で伝えようとする若い世代が育っていることを、私も県民として誇らしく感じています。
 そして、ここにはこれからの農業を考えるヒントがあるように思います。
 農業の担い手が減少する一方で、異業種から農業へ参入し新たに始めるということは、その土地を使い続けることでもあり、地域に仕事を生み、そこで採れたものを次の世代の食卓へつなぐことではないでしょうか。
 国内の生産者を支え農地を次世代へ残し、地域経済を循環させ、できる限り自分たちで支えていく、そして我々消費者も、その一端を担っています。
 “何を買い、何を食べ、食べ物をどれだけ大切にするのか。”

子どもたちと一緒に料理をし、食卓へつなぐことも未来への一歩

6. 「国消国産」の原点

 AIやロボットをはじめ、暮らしを支える技術は驚くほどの速さで進化しています。それでも、食べ物を育てる人がいて、それを届ける人がいて、食べる人がいる。食の原点にあるのはやはり「人」なのだと思います。
 畑から食卓へ。食卓から人へ。そして、人から地域へ。
 そんな小さな循環もまた、「国消国産」の原点なのかもしれません。
 ――と、ここまで書いていたら、とびきり新鮮な野菜が食べたくなってきました。今日も地元のおいしいお肉と野菜とお米、大地の恵みを大切にいただこうと思います。

中野美奈子

中野美奈子 なかの・みなこ

1979年、香川県出身。フリーアナウンサー。2002年にフジテレビへ入社。「めざましテレビ」など数々の情報・バラエティ番組でキャスター、司会を務める。2012年にフリーへ転身後は、メディア出演をはじめ、イベントMCなど幅広く活動。現在は故郷・香川県を拠点とし、子育てと仕事を両立しながら、地域の魅力や食、健康、ライフスタイルに関する情報発信を行い、丸亀市文化観光大使として地域振興にも取り組んでいる。

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