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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

牛乳月間に日本の酪農を考える

中原准一 酪農学園大学 名誉教授

家族農場による酪農

 2001年、FAO(国連食糧農業機関)が、6月1日を「世界牛乳の日(World Milk Day)」とすることを提唱した。日本では日本酪農乳業協会(現Jミルク)が、2007年に6月1日を「牛乳の日」、6月を「牛乳月間」と定めた。はじめに日本の酪農の概況についてのべる。
 日本の酪農は、他の先進国と同じくファミリーファーム(家族農場)によって担われている。2025年2月1日現在、日本の酪農家戸数は11,300戸(うち北海道4,970戸)、乳牛飼養頭数は1,293,000頭(うち北海道816,800頭)である。北海道は、全国比で戸数の44%、乳牛飼養頭数の63%を占める大産地である。(表1 参照)

表1:都道府県別乳牛飼養頭数(上位10位 2025年2月1日現在)
資料:農林水産省「畜産統計」(2025年2月1日現在)

 2025年度の生乳生産量(見通し)は、全国7,389千トン、北海道4,303千トン(全国比58.2%)、都府県3,086千トン(同41.8%)である。現在、北海道は、全国の生乳生産量の58%強を占めるまでになった。(農林水産省「牛乳乳製品統計」)

牛乳搾取業から酪農へ

 日本の酪農の始まりは、幕末の欧米諸国との通商条約締結(1858年の米国、オランダ、ロシア、英国、フランスとの安政五カ国条約)を機に函館、新潟、横浜、長崎、神戸の5港を開港した時代にさかのぼる。これらの5港に居留する外国人向けに牛乳・乳製品が提供された。明治期になって、牛乳消費が日本人に普及するようになった。当時、牛乳生産や販売にかかわる者は、牛乳搾取業者と呼ばれた。日本で酪農という言葉が広まるのは、1920年代以降になってからだ。

指定生乳生産者団体による「一元集荷・多元販売」

 生乳は、他の農産物と異なり、毎日生産され、腐敗しやすく貯蔵性の乏しい液体であるため、廃棄を避けつつ需要に応じた生産と緻密な需給調整が欠かせない商品である。このため、「畜産経営の安定に関する法律(1961年法律第183号)」(「畜安法」)や「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(1965年法律第112号)」が制定されて、酪農経営の安定をはかった。さらにホクレン農業協同組合連合会(ホクレン)など現在全国で10団体が「指定生乳生産者団体」(指定団体)となり、農家から委託された生乳は、「一元集荷・多元販売」の共販事業によって複数の乳業メーカーに売り渡される仕組みである。

乳価の仕組み一用途別乳価

 指定団体は、酪農家から委託された生乳を複数の乳業メーカーに対して生乳の用途ごとに販売している。指定団体と乳業メーカーの間では、毎年度、飲用牛乳等向け(飲用牛乳やはっ酵乳など)、生クリーム等向け(生クリーム、脱脂濃縮乳など)、加工原料乳向け(バターや脱脂粉乳など)、チーズ向けなど、それぞれの用途において数量、価格および成分(乳脂肪分および無脂乳固形分)に関して契約を取り交わしている。全国で、ホクレンなど10の指定団体が、それぞれ複数の乳業メーカーとの間で取引交渉を行っている。(表2、表3 参照)

表2:ホクレンの年度別生乳受託乳量の推移
資料:「日刊酪農乳業速報」
注:2025年度は推定値
表3:生乳1㎏当たりプール乳価の全国数値
資料:農林水産省「農業物価指数」および「牛乳乳製品課調べ」

 各指定団体から酪農家に支払われる乳代は、各乳業メーカーが指定団体に支払ったそれぞれの用途別の取引乳代に各種補給金(加工原料乳生産者補給金およびチーズ補給金)を加え、これから生乳共販経費(指定団体が生乳を販売するための経費)、生乳検査料や集送乳経費等の費用を差し引き、当該月の取引数量で除した総加重平均単価(プール乳価)を算定し、それぞれの酪農家との取引数量に応じて、乳代が精算される仕組みとなっている。すなわち、同一指定団体の傘下の酪農家は、基本的に同一単価の乳代を受け取ることになる。だが実際には、乳代は出荷した生乳の乳成分(乳脂肪分および無脂乳固形分)などによる価格差を加味して支払われるのである。

飲用乳中心の都府県酪農

 都府県の酪農家が生産する生乳の用途は、消費地に近いという立地条件などから主に飲用牛乳等向けであり、そのシェアは、都府県全体で90%ほどである。2025年度の場合、以前より飼料用とうもろこしなど穀物価格の上昇を受けて、年度当初から乳価が引き上げられていたが、都府県指定団体と乳業メーカーの間で8月から飲用向け乳価について1キログラム当たり4円引き上げることが決定された。これは、為替相場の円安が輸入穀物価格のさらなる上昇を招いていることの影響である。

北海道の生乳需給構造―加工原料乳供給地帯

 北海道の酪農家が生産する生乳の用途は、消費地から遠隔地に立地している条件から主に乳製品向けに処理されている。そのため乳製品向けのシェアが約80%である。飲用牛乳向けのシェアは、残りの約20%である。飲用向けの生産者乳価は、都府県の妥結水準をふまえて、2025年8月から1キログラム当たり4円引き上げられた。さらに北海道においては、生乳取引の12%を占めるチーズ向け乳価についても、チーズ市場の堅調な推移をふまえて、2025年6月から1キログラム当たり3円引き上げられた。

本州の飲用乳市場に欠かせない北海道酪農

 都府県の酪農家は、飲用乳生産のために努力しているが、それだけでは消費者需要を満たしきれない。北海道からの生乳や飲用乳の本州移出は不可欠なものとなる。北海道産生乳は、釧路港から「ほくれん丸」「第二ほくれん丸」の2隻で茨城県日立港に移出されている。移出された生乳は、関東圏や中京圏を主として飲用乳で消費されている。
 「ほくれん丸」や「第二ほくれん丸」は、ローロー船と呼ばれ、飲用向け生乳を積載したタンクローリー車を車両ごとそのまま載せて運航している。ローロー船は、一便で約1,000トンの生乳を運ぶことができる。また、小樽港や苫小牧港からは、民間フェリーで製品化された飲用乳や生乳を本州向けに移出している。
 小樽港からの飲用牛乳などの本州移出は、主にフェリーの物流網を活用して実施されている。北海道内の乳業工場で製品化された飲用牛乳や生乳は、保冷コンテナやタンクローリー車に積み込まれて、新日本海フェリーなどを利用して本州の舞鶴港などへ毎日大量に運ばれている。飲用乳や生乳のフェリーによる移出は苫小牧港からも本州太平洋岸の都市向けに移出されている。

乳製品の国際市場

 ヨーロッパでは、「家畜なくして農業なし」といわれるように、有史以来数千年かけて酪農・畜産が営まれてきた。かの地の市場では、チーズやバター、脱脂粉乳といった乳製品製造が主流である。酪農民が協同組合を結成して乳製品の加工・製造を行っている。EU(ヨーロッパ連合)でいうと、オランダのフリースランド・カンピーナ社やデンマークのアーラ フーズ社が有名である。この両社は、ともに協同組合乳業から発展して、こんにちでは多国籍乳業として積極的に国際市場に進出している。
 乳製品の国際市場をみた場合、輸出市場に進出しているのはEUやオセアニアなどに限られる。米国は、乳牛多頭数飼養のメガファーム(乳牛を100頭以上飼養して年間の生乳生産量が1,000~2,000トン以上の大規模飼養の酪農場を指す)を多数擁しているが、巨大な国内消費市場を抱えており、自給的な性格が強い。ニュージーランドは、蹄耕ていこう法(乳牛の放牧飼養)による圃場ほじょうづくりで生乳の低コスト生産を実現して、国際市場で優位性を発揮しようとしている。
 いずれにしてもこのような酪農をめぐる内外の市場条件をみすえて、われわれは環境適合的で持続可能な生産性を有する、足腰の強い酪農を形成していくことが引き続きの課題となるのである。

参考資料
・農林水産省「畜産統計」(2025年2月)
・「生乳取引の仕組みと飲用乳価の引き上げ後の牛乳の消費と小売価格の動向」『畜産の情報』2014年 3月号
・(一社)中央酪農会議「用途別販売実績」資料(2024年度)
・農林水産省「農業物価指数」および「牛乳乳製品課調べ」

中原准一

中原准一 なかはら・じゅんいち

酪農学園大学名誉教授。1946年北海道富良野市生まれ。1974年北海道大学大学院農学研究科博士課程単位取得。1974年酪農学園大学酪農学部講師、その後助教授、教授。1987年農学博士(北海道大学)。2011年酪農学園大学環境システム学部教授にて定年退職後、酪農学園大学名誉教授。現在に至る。

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