食・農・地域の未来とJA
農に魅せられて15年
つながって、「縁」が広がる楽しさを実感!
農業との出会いは、今から15年くらい前のことです。お米づくりを始めた友人が、「すごく楽しいよ」と言うので出かけていきました。正直、当時は農業にあまり関心がありませんでした。ちょっと見に行くだけのつもりだったので、足元も長靴ではなく、街なかで履くようなレインブーツでした。
ところが、わたしはいつのまにかそのレインブーツで田んぼの真ん中に立ち、泥まみれで笑っていました。自然の中に、身一つで立っている心地よさと爽快感。それを大人になってからほとんど感じていなかったなぁと気づき、なんだかわくわくしてきたのです。
「食」を支えるすごい仕事を当たり前にこなす、農家さんのカッコよさ
いっそのこと、一年をとおしてやってみよう! と思い、田んぼに通ってお米づくりを始めた頃から農業関係のお仕事もするようになりました。NHKの『趣味の園芸 やさいの時間』には、司会者として10年間出演しました。TOKYO FMで毎週月〜木曜日にパーソナリティを務めているラジオ番組『あぐりずむ』も、今年で12年目に入りました。
そして5年前から始めたのが、「旅色LIKES」という旅行情報サイトのアンバサダー。各アンバサダーが、得意分野をテーマにした「旅」の魅力を発信するサイトで、わたしが担当するのはもちろん「農業旅」。全国各地の農家さんを訪ねて取材し、記事を書いています。企画段階から任せていただいているので、毎回自分でアポイントを取って取材に行きますし、日々の仕事や農作物についてお話を聞き、写真も撮ります。だからいつもアンテナを張り、取材候補を探しています。たとえばトークショーのお仕事でご一緒した農家さんに、「今度現場に行かせてください」とその場でお願いすることも。SNSを見て「おもしろいな」「会ってみたいな」と思った方に、直接メッセージを送って交渉したりもします。
取材中にいつも感じるのは、農業という「食」を支えるすごい仕事を、ごく当たり前に続ける農家さんのカッコよさです。体力が必要ですし、気候に左右されることも多く、手作業でする仕事も少なくありません。それがすごく手間のかかる作業だとしても、面倒くさがったりせず、ていねいに向き合う姿を見ていると、「なぜこの人は、これを長年守り続けることができているんだろう」「どうしてここまでがんばれるの?」などと改めて思うのです。その答えを自分なりに探しながら取材したことを、読者の皆さんと少しでも共有できるように発信しています。
農家と消費者との接点を増やしたい
仕事だけでなくプライベートでも親交のある農家さんが何人かいるのですが、そのうちの一軒で2012年に「農縁プロジェクト」を始めました。「農」でつながる人の「縁」を大切に、遊休農地活用による地域振興活動をしています。参加者は累計数百人。今年も、みんなで集まって農作業のお手伝いをしたあと、収穫した野菜でバーベキューをしました。
カジュアルな作業着姿で集まると、見た目や肩書きといった先入観なく付き合えるのがいいですね。下の名前とか、ニックネームしか知らない人も結構います。農作業中、隣り合わせで手を動かしながらだとリラックスして話ができるので、いつのまにかおたがい仕事の愚痴を言い合って、すごく仲良くなっていたり。これも農業ならではの楽しさですね。都会では味わえない、いろいろな魅力があるなと思います。このプロジェクトをきっかけに新規就農した人もいます。
農家さんにとっても、非農家の人を受け入れることのメリットはあると思います。わたしたちの「食」を支えるすばらしい仕事をしているのに、それを当たり前のことだと思っている謙虚な方が少なくないのですが、農場を訪れた人と直接話し、喜ぶ顔を見て、自分の仕事に対する思いも変わってくるようです。農業体験をしたい、野菜が育っているところを見たいという人は、想像以上にたくさんいると思います。農家さんは、まず農場の入口に看板を出すなどして、非農家の人も立ち寄りやすいオープンな雰囲気にしてみると、素敵な出会いがあるかもしれませんね。
プランター一つで味わえる食の愉しみ
田んぼや畑に行くようになった頃から、わたしは自宅でベランダ菜園も楽しむようになりました。近年植えたのは、甘長唐辛子、カラーピーマン、ミニトマト、シソです。毎年、最初の収穫物ができたらその場で食べるのですが、採れたてはやっぱり違います。すごく香りが良くて、口の中で水分が弾けるようなみずみずしさがたまりません!
いきなり野菜を育てるのはハードルが高いし料理に自信がない……という人は、まずハーブを育ててみてはどうでしょう。摘んだらそのまま食べられます。わたしはパクチーを育てていたとき、トムヤムヌードルにたっぷり入れて食べるのが大好きでした。バジルを育て、料理にトッピングするのもいいですね。そんな気軽な楽しみから入り、農業を身近に感じる人が増えるといいなと思います。
プランターで作っていると、1個、2個しかとれないときもあります。欲しいときに思い通りにとれないのも農業の難しさなんだな、と実感します。そして、大きさや形がそろった野菜を一度にたくさん出荷できる農家さんはやっぱりすごいんだな、と思いを巡らせます。
自分の“推し農家”を作ろう!
JAグループは「国消国産」という考え方を提唱していると聞きました。「『国』民が必要とし『消』費する食料は、できるだけその『国』で生『産』する。」それによって、日本国内の農業生産基盤を支えていこうという考え方です。
「国」という言葉が入るとスケールが大きな話のように聞こえますが、わたしはとても素敵な考え方だなと思います。そして、自分でも小さなことから実践し、周りの人にも広めていきたいと考えています。
たとえば、わたしはふだんから周りの人に「“推し農家”を作りましょう」とよく言っています。お気に入りのスイーツ店があるのと同じような感覚で、好きな農家さんができたらいいなぁと。自然と「応援したい」という気持ちになるし、食に対する関心も高まっていくのでは、と思うのです。そのためにも、わたし自身が感じた農業の魅力や楽しさを、少しでも多くの人に発信していきたいと思っています。
わたしも、昔は値段だけで農畜産物を選んでいたこともありました。けれど、たくさんの農家さんと出会い、いろいろな農畜産物を知った今は、スーパーで野菜を買うときは産地の表示をよく見るようになりましたし、珍しい野菜を見かけたら品種を尋ねたりもします。食や農への向き合い方が変わりました。
地方へ取材に行くと、JAの直売所にもかならず立ち寄ります。同じ野菜でも作り手によって個性がありますし、農家さんが愛情を込めてパッケージなどを工夫しているのも魅力的。手づくりの加工品や乾物のコーナーも充実していて、いつもたくさん買って帰ります。
また、直売所では農家さんや商品に注目が集まりますが、農業の取材を重ねていくといろいろなことが見えてきます。多くの人と語り合う中で、「農家さんが作った農畜産物は、JAの役職員さんをはじめ、選果・流通・小売などに携わる誰一人が欠けても食卓に届かないんだ」と実感するとともに、感謝の気持ちも深まりました。
退職後に就農した元JA職員さんにもたくさん出会いました。単なる仕事ととらえず、思いを持って「農と食」に携わってきたからこそ、こうした人生を歩んでいらっしゃるのだと思います。
「食・農・地域」に関わる多くの人に、日本の食は支えられているのですね。わたしも、一人でも多くの人に興味を持ってもらえるよう、これからも農業の魅力を発信し続けます!