農業法
2022年のアメリカ農業界は、世界的な穀物需給の逼迫や記録的なインフレ等を背景として、農産物・食品の輸出額は過去最高の1,960億ドルに達し、純農業所得も1,600億ドルを超え、歴史的な高水準となった。これを“第2次黄金時代”と呼ぶ人もいる。
一方、肥料や燃料などをはじめとする生産コストの高騰は、日本と同様にアメリカでも大きな課題となっており、作物価格が落ち着きを見せる中で、本年は輸出額・純農業所得ともに対前年比で減少が見込まれている。
こうした状況下で、現在、アメリカの農業政策にとって非常に重要な議論が行われている。農業政策の根拠法であり、おおむね5年に1度行われる農業法(Farm bill)の改正作業である。
詳細は別の機会に譲るが、不足払いや収入ナラシ、酪農マージン補償などの「作物プログラム」、土壌等の保全を目的とした「保全プログラム」「作物保険プログラム」などの他、低所得家庭向け支援である「補助的栄養支援プログラム(通称“SNAP”、旧称:フードスタンプ)」なども同法に基づき実施されている。
これまでのところ、農業法の骨格の大幅な変更につながるような議論は行われていないが、インフレ下で実施コストが増大し、予算面での影響 が大きい補助的栄養支援プログラムの取り扱いは、農業法の枠を超えて、民主党・共和党間の政治的駆け引きに利用される可能性もある。
加えて、生産コストの高騰に対応したセーフティーネット対策の構築や、主に民主党が推進する気候変動対策の強化、災害対策の柔軟化・迅速化などが主な焦点になると考えられる。
現行の「2018年農業法」が本年9月末に期限を迎える中、上下院農業委員会における公聴会や農業団体の提言活動等が活発化しており、今後5年間続く新たな農業政策とその形成過程にはぜひ注目したい。
1 農業関連予算全体の約8割をSNAPが占める。
2024年大統領選挙
当面の最大の政治イベントは、もちろん2024年11月に実施予定の大統領選挙であり、その戦いは既に始まっている。
共和党側では、昨年11月の中間選挙の数日後、トランプ前大統領が早々と立候補を正式に表明し、周囲を驚かせた。また、本稿執筆時点(2月末)で、ニッキー・ヘイリー元国連大使が名乗りを上げている他、有力候補として、フロリダ州のロン・デサンティス知事などの名前が取りざたされている。
対する民主党側、バイデン大統領は、2023年の早い時期に出馬するかどうかを決断するとしていたが、本稿執筆時点ではまだ正式な表明はない。自身の指示で約半世紀ぶりに予備選挙の実施順を変更 するなど、再選に意欲を示すかに見えるバイデン大統領であるが、やはり高齢であることがネックとなっている模様である。
2016年、トランプ前大統領が、TPPからの離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉など、通商問題を強力に訴え、大統領の座をつかみ取ったことは記憶に新しい。 来年秋に向け、今後、どのような候補者が、どのような主張を掲げて大統領選挙戦に臨むのか、十分注視する必要があるだろう。
2 アイオワ州に代わり初戦となるサウスカロライナ州は、2020年大統領選挙の民主党予備選挙でバイデン候補勝利の流れを作った州である。