日本では忘年会が続く年末、そしておせち料理や雑煮を食べる年始を経て、体重が増える人が少なくないが、アメリカにおいても同様である。
七面鳥の丸焼きやカボチャパイなどを食べる11月第4木曜日の感謝祭以降、ホリデーシーズンに突入し、12月のクリスマスはもちろんのこと、ハヌカ(ユダヤ教の祝日)やクワンザ(アフリカ系アメリカ人の祝日)など、多様な文化や宗教の祝日がこの時期に含まれている。この間、アメリカ人の多くは、家族や友人と集まって食事をすることで、普段より食べ過ぎたり飲み過ぎたりしてしまう。
そんなアメリカにおけるニューイヤーの誓い(New Year’s resolution)、日本でいうところの新年の抱負の一番人気が(自身の思うベスト体重に戻すことも含めて)ダイエットだといわれている。全ての人の誓いを調査した人はいないであろうが、ワシントンDCに拠点を置く非営利シンクタンクのピュー研究所(Pew Research Center)のリサーチでは、2024年の年明けに「少なくとも1つの誓いを立てた」と答えたアメリカ成人は約3割、誓いを立てた人のうち、8割弱が「健康・運動・ダイエット」に関する目標を掲げている。
実際に、年明け直後のスーパーマーケットでは、プロテイン、サラダキット、低糖質スナックの棚が拡充され、スポーツジムは書き入れ時で、1月が年間新規加入者の4分の1を占め、最多であるといわれている。正月太りが話題に上がる程度の日本とは違い、アメリカでは1月が健康ビジネスで最も盛り上がる月である。
さて、本号では、そうしたアメリカにおける過体重や肥満解消、健康増進を政策的にも後押しする税制を紹介したい。
アメリカにおける過体重や肥満
過体重や肥満は、糖尿病、心血管疾患など、さまざまな非感染性疾患の主な危険因子である。世界的にも肥満率は上昇しており、エネルギー密度の高い食品、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸の大量消費や座りがちな生活習慣が一因となっている。
身長と体重の自己申告データを収集しているOECD(経済協力開発機構)加盟32か国では、過去20年間で肥満率が増加し、2003年から2023年の間に、肥満人口の割合はOECD加盟国平均で13%から19%に増加した。2023年には、OECD諸国の15歳以上の人々の半数以上が過体重または肥満であった。
また、より信頼性の高い指標である身長と体重の測定値の利用可能な国の数は限られているものの、測定データがあるOECD加盟13か国と加盟候補国ペルーの2023年または入手可能な最新年で、15歳以上の過体重および肥満率を見てみると、アメリカはメキシコに次ぐ第2位72%の過体重・肥満大国である。ちなみに、日本は当該国中最も低い26%である。
このため、世界的にも肥満率を下げるべく健康的な食生活の利点を啓蒙するキャンペーンなどが盛んに行われている。アメリカでも肥満率を下げることも目的の一つに、現政権では先の11月号で紹介したMAHA(Make America Healthy Again:アメリカを再び健康にする)をスローガンとした政策の展開などが進められており、もちろんこのことの背景には、肥満が単なる生活習慣の問題にとどまらず、医療費、労働力、社会保障にも影響することがある。
アメリカの売上税
日本では消費される全ての商品・サービスに対して、軽減税率こそあれども全国で同じ消費税が課されるのに対して、アメリカでは売上税や外食税、酒税など種類に応じて別途に定められた税金が徴収される。その中で日本の消費税に性格が近いものが売上税(Sales Tax)である。
消費者が商品やサービスを購入した際に支払う税金、という点で似ているものの、日本の消費税が、メーカーが原材料を仕入れるときなどにも課される多段階課税であるのに対して、アメリカの売上税は、最終的な消費者への販売時のみに課税される単段階課税であることなど違いも多くある。
アメリカの売上税は、税率のみならず課税の対象も各州や地方自治体ごとに独自に設定されているため、国内どころか同一州内でも郡や市が異なれば、仮に同じものを購入したとしても税額が同じとは限らない。
このうち、生活必需品である食料品は“免税(exempt)”として扱い、実態としては日本の「非課税」に近く、そもそも税の対象外にする形で、生活必需品の税負担をゼロにし、低所得者に配慮している州が多い。しかし、各州における食料品の扱い一つとってみても、サウスダコタ州などは食料品にも通常の税率、イリノイ州などは低税率、オレゴン州などではそもそも売上税がないなど、その実態は実に多様である。
課税を通じた肥満対策
アメリカでは肥満対策として、マスメディアによる健康的な食生活の啓蒙や栄養教育の促進などに加えて、キャンディーなどの菓子類やソーダなどの加糖飲料の消費抑制のためにそれらを一般的な食料品とは扱いを異にし、課税する州や地方自治体もある。
例えば、ソーダ飲料は飲まないかもしれないが、ドジャースの大谷選手がいるロサンゼルス市は、カリフォルニア州税:7.25%、ロサンゼルス郡税:0.50%、ロサンゼルス市税:2.00%で合計9.75%であり、生鮮品、基本食材などの通常の食料品はこの税率が課されないが、ソーダには課されることになる。
このように、税によってキャンディーやソーダの価格が上がれば、それを買う頻度や量を減らす人も出るだろうと、健康志向やダイエットを後押しする政策的環境がつくられている。
とはいえ、ニューイヤーの誓いにより1年で一番多くの人がジム通いを始めたのは良いものの、ダイエットが継続できるかどうか、1月が1年で一番多くの人がジム通いをやめる月になるかどうか、最後は、個人の努力や意志にかかっている。