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先進JAの手本と県中央会の支援

JA柳川組合員大学第2期(専門講座)の開講式で報告を行う、JA松本ハイランド臼井真智子課長〈当時(右)〉と上條千春氏(左)(提供:JA柳川)

 持続可能な組合員大学の運営には、まずJA内部で役職員と事務局職員が開講の目的や理念を共有し、長期的な視点で組合員教育を継続できる体制を整える必要がある。また、より広範な組合員大学の促進という観点では、先駆JAと後続JA、県中央会と実施JAを縦横斜めにつなぐネットワークづくりが効果を発揮すると感じている。
 JA柳川では、開講準備の段階から、組合員に洗練された学習機会を提供し、事務局職員の負担を軽減するためにも、「先進JAの取り組みをお手本にしよう!」という意識が強く見られた。この考えのもと、1期目の基礎講座の開講式では、JA福岡中央会の紹介を受け、県内における組合員学習の先駆けであるJA福岡市の常勤役員が、自JAの「協同組合基礎講座」について紹介した。さらに、2期目の専門講座の開講式では、事務局運営やカリキュラム作成の参考にしたJA松本ハイランドから、「夢あわせ大学」の事務局である組合員文化広報課の課長と、同JA協同活動みらい塾の7期生OGを講師に招いた。
 先進JAの受講生自身が組合員大学の経験を語ることで、話す側も聞く側も相互に学びを得られる機会を提供している。県内外の先進JAの職員や組合員から直接話を聞くことは、受講生にも事務局にも大きな励みとなった。また、同一県内のJAの常勤役員による講話は、場合によっては有識者の講話以上に効果を発揮することがある。さらに、近隣の講師に依頼することで、経費削減という副次的なメリットも得られる。
 先進JAからの学びに加え、JA柳川組合員大学を開講前から支えてきたのはJA福岡中央会である。同中央会教育部は、組合員大学が福岡県内で展開されることを目指し、独自の「組合員学習実践マニュアル」を作成した。このマニュアルには、開講に必要な基礎的事項が網羅されている。
 さらに、マニュアルの作成だけでなく、県内の先進JAの役職員を講師として紹介するハブ機能を果たす一方で、同中央会教育部職員が直接講師を務めるなど、カリキュラム作成時に生じる課題を具体的な提案によって支えている。

役員インタビュー「組合員大学への期待」

「JA柳川組合員大学」への期待を述べるJA柳川 代表理事組合長 山田英行氏(中央)、代表理事専務 重冨敏弘氏(左)、金融担当常務理事 竹下圭輔氏(右)(筆者撮影)

 JA柳川の代表理事組合長 山田英行氏、代表理事専務 重冨敏弘氏、金融担当常務理事 竹下圭輔氏に、組合員大学の設立背景や今後の課題についてお話を伺った。以下に、インタビューで語られた内容を抜粋して紹介する。

 JA柳川が組合員大学を設立した背景には、地域におけるリーダー不足が深刻化しているという課題があった。役員である私たちが30代のときの地域リーダーが今なおリーダーでいらっしゃる。この問題に対応するため、若い世代を育成し、地域やJAを支える人材を確保する目的で組合員大学が立ち上げられた。設立当初は、他のJAの事例を参考にしながら運営を開始したが、現在では地域の特性に合った独自のカリキュラム構築が求められている。
 組合員大学のカリキュラムには、協同組合の基礎や農業、地域社会について学ぶ内容が盛り込まれている。授業では座学に加えてワークショップや視察を取り入れ、受講生同士の交流を深める工夫もされている。このような取り組みにより、単なる知識の習得だけでなく、実践的なスキル向上にもつながっている。
 また、修了生の活用も重要なポイントである。修了生は支所検討委員会に積極的に参加し、組合員大学の価値を地域に還元している。特に、修了生が地域活動に貢献することで地域全体が恩恵を受ける形となっており、こうした取り組みを通じて組織運営の持続可能性が確保されている。
 今後については、組合員大学をさらに発展させるために、JA内部の職員も受講生として参加する仕組みを拡大する予定である。これにより、JA全体との一体感を高めることが期待されている。また、コロナ禍によって一部の活動が制限されていたが、今後は研修や交流イベントの拡大を図り、活動の幅を広げていく方針である。

事務局インタビュー「組合員大学の課題」

2024年2月に開催されたJA全中「JA組合員大学全国ネットワーク研究会」で、開講を検討しているJAに実践報告する、総合企画課 課長 古賀哲也氏(筆者撮影)

 次に、JA柳川組合員大学の事務局を担う総合企画課 課長の古賀哲也氏に、組合員大学の今後の課題についてお話を伺った。以下に内容をまとめる。

 組合員大学の運営において、まず重要となるのが受講生との関係構築と学びへの意欲の促進である。年に6回行われる講座の中で、事務局が受講生とどれだけ親密な関係を築けるかが鍵となる。受講生の心を開き、自主的な学びへのスイッチを入れることが、積極的な学びを促進するための重要なステップと考えられている。
 また、活動を長期的に継続させるためには、事務局の引き継ぎも欠かせない。組合員大学の創設時に尽力したパイオニアと同じ情熱を持ち続けることに加え、新しい知恵でブラッシュアップさせていく創意工夫が成功の鍵となる。担当者の熱意に差が出ると、組合員大学の成否にも影響を及ぼしかねないため、情熱の維持が求められている。
 さらに、修了生(OB)との関係維持も重要な課題である。合同講座の開催時には、修了生が積極的に参加できるような環境を整えることで、OBとの交流を継続し、組合員大学のネットワークを強化している。この取り組みは、組織全体の一体感を高める上でも大きな効果が期待されている。
 今後の展望としては、まず1泊2日の県外視察の実現が挙げられる。受講生が希望する場所を訪問し、他地域の先進事例や取り組みを学ぶことで視野を広げ、組合員大学の教育効果を高めることを目指している。また、将来的には組合員大学からJAの役員を輩出することも目標としている。組合員大学での学びと経験を通じて、組織を支えるリーダーを育成し、JAの中核を担う人材として活躍することが期待されている。
 さらに、組合員大学事務局が、講義ができる職員へステップアップし、JAの教育部門と連携し、これまで培ったノウハウをもとに、JA柳川全体の教育体制を強化し、学びと成長の場を充実させていく方針だ。

おわりにかえて

 JA柳川の組合員大学は、「『学び』を通じ、協同組合運動を実践する『わがJA』意識を持った次世代リーダーの輩出」という明確な目的のもと設立された。その背景には、地域のリーダー不足という課題があり、これに対応するため、地域特性に合わせた独自のカリキュラムが提供されている。座学に加え、ワークショップや視察を取り入れることで、受講生同士が交流しながらスキルを高める仕組みが整備されつつある。

 修了生は、支所の検討委員会や地域活動に関わることで、学んだ知識やスキルを地域に還元しており、持続可能な運営モデルの確立に貢献している。また、JA福岡中央会、JA福岡市、JA松本ハイランドといった先進JAからの支援を活用し、外部の知見を取り入れる姿勢は、他のJAにとっても参考になるだろう。さらに、女性や若者の参画を促進する取り組みも進められており、多様な層を巻き込む努力が見られる。

 令和6年8月の合同講座では、女性部や青年部の役員経験者、新規就農者など、経歴の異なる農業者が受講していた。かつての農村リーダー育成論では、こうした多様な背景を持つ人々は、それぞれ異なる「階梯」の段に位置すると考えられていた。しかし、組合員大学では、限られた期間とテーマの中で、多様なバックグラウンドを持つ者同士が共に学び、語り合う場が提供されている。このような交流は、相互の学びを促進し、教育効果を高める重要な要素となっている。

 一方で、女性の参加率が低いことは課題として挙げられる。特に、子育てや介護の負担を抱える世代の参加が難しい状況がある。しかし、合同講座に参加した修了生である女性部の部長は、「女性部の集まりで組合員大学の話題を出すと、現役役員を中心に『私も参加したい!』という声が上がる」と語っていた。今後は、女性組織や生産部会の女性部員を中心に、参加しやすい環境を整えるための取り組みが求められる。

 将来的には、1泊2日の県外視察やJA役員の輩出、事務局から教育部署への発展といった新たなビジョンが示されており、組合員大学の継続的な発展が期待される。


<参考・引用文献>

七戸長生「食糧・農業問題全集9『新しい農村リーダー』」1987年、農山漁村文化協会

小林国之「提言『次世代の農村リーダーを育てるために』」2023年9月、家の光協会「JA教育文化Web」

阿高あや あたか・あや

福島県生まれ。福島大学大学院人間発達文化研究科修了。東京大学大学院学際情報学府在学中。2013年桜の聖母短期大学・助教、2014年地産地消ふくしまネット・特任研究員を経て、15年よりJC総研・副主任研究員、21年4月より現職。東京大学、東京農業大学の非常勤講師を兼務。

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