4. 集落営農法人の事業承継にかかるTACの支援
担い手支援対策部が築き上げてきた体制のもと、TACは担い手のニーズに応えるべく、出向く活動に尽力してきた。ここでは、TACの活動実績管理シートの中で重点項目の一つとして掲げられていた事業承継支援におけるTACの働きについて、株式会社石城の里ファームの事例から見てみたい。
株式会社石城の里ファームは、山口県東部の光市内にある集落営農法人である。平成23年の設立時は農事組合法人であったが、令和5年4月に株式会社に組織変更をした。その背景には、平成27年から平成30年にかけて地域外から石城の里ファームに就職した、現在29歳の若手従業員3人(写真3)を中心とした法人経営にしたいという河村雅春前代表(現取締役)の思いがある。
河村取締役によれば、令和2年に当法人の法人内資源点検(JAと県行政関係機関の連携のもと、集落営農法人内のヒト・トチ・モノ・カネ・情報の現地調査を行い、今後10年程度を目安にシュミュレーションを実施する取り組み。『農業協同組合経営実務』2023年増刊号「JAグループ山口における事業承継対策の取組みについて」参照)を実施した際、10年後には組合員の高齢化が深刻になってしまうことに気付いた。そのことを踏まえ、河村取締役や地権者たちがまだ元気で話し合いができるうちに、3人の若手が経営者になれるような法人形態に変更することを決意したという。組織変更後は若手の1人が代表取締役に就任し、他2人も河村取締役と共に取締役として法人経営を行っている。
以上のような事業承継・組織変更は地権者たちとの話し合いだけではなく、司法書士、社労士などの助言を受けながら進める必要がある。その際、南すおう統括本部に常駐しているTACがこれらの専門家と連絡を取る際の仲介役を担当していたという。「(事業承継・組織変更の手続きの過程では)TACはしょっちゅう法人に顔を出したり、連絡を取ったりしてくれた」という河村取締役はTACの評価について、「TACは普段から何かあったときに相談に乗ってくれる。こちらからわざわざ支所などに出向かなくても連絡すれば来てくれるし、呼ばなくても毎月ある定例会には必ず顔を出してくれる」と述べていた。河村取締役は事業承継・組織変更を決意したときもすぐにTACに相談したとのことであり、TACが普段から担い手のもとに出向いて築いた関係性が実際に生かされていることが分かる。

5. 集落営農法人の担い手の心を支える連合体
石城の里ファームは柳井市、田布施町、光市を管内とする集落営農法人連合体「アグリ南すおう(株)」を構成する1法人でもある。TACはアグリ南すおうを構成する21の集落営農法人の定例会に必ず顔を出しているとのことであり、県内各地に常駐しているTACが、担当範囲内の各担い手たちのもとへ出向き、信頼関係の構築に努めていることが見えてくる。
この連合体の事務局かつ常務取締役であり、南すおう統括本部の職員でもある勝本澄人常務取締役によれば、アグリ南すおうでは肥料や農薬の共同購入、機械の共同利用などによって構成法人のコスト削減を図り、農業経営の持続性を高める事業を行っている。一方で、河村取締役が「(連合体が)なかったら不安で仕方がない」と語る要素は、連合体の取締役会などを通じて構成法人の代表同士で集まる機会があることだ。法人の経営についての悩みも多い中、代表者間で情報共有ができる機会があると「心のケアがものすごくできる」(河村取締役)という。
また、アグリ南すおうでは毎年、構成法人から希望者を募って県外への「農業視察研修」(写真4)を行っている。ここ数年で各法人が石城の里ファームのように若手従業員を配置し始めたことにより、令和7年2月に行われたこの研修には、法人の代表者だけでなく50歳以下の若手従業員が多く参加し、今までにない活気あふれる研修会になったという。このことがきっかけで、令和7年度から各法人の若手従業員たちを「若手経営塾」として組織化し、彼らが現場に出向いて農業経営に関する基本的な知識を学ぶ機会を設けることを計画している。「これまで代表者同士が話す機会はあったものの、従業員同士の横の連携はなかった。いろいろな悩みを持っている各法人の若手が集まって情報交換ができるような場が必要だと思っています」(勝本常務取締役)
このように、集落営農法人連合体は各法人の経営面だけでなく、法人の代表や従業員が集う機会をつくることで担い手たちの心も支える組織である。この点で、連合体は各法人にとって必要不可欠なものである一方、各法人の経営が維持できていなければ連合体も成り立たない。各法人に対してTACがしっかりと寄り添い、経営をサポートしていることは、ここで取り上げた連合体と集落営農法人の相互関係の助けとなっているのかもしれない。

6. 組合員同士、JAと組合員とのつなぎ役も目指して
アグリ南すおうが行っていた集落営農法人の代表や若手従業員をつなぐ取り組みは、実は水嶋部長が担い手支援対策部を中心に今後行っていきたいと考えていることと通じる点がある。山口県集落営農法人連携協議会には会員法人の若手従業員同士で設立されたサークル「百姓練磨の会」があるが、同じく農業の担い手である青壮年部のメンバーとは交流の機会がない。「可能であれば、組合員組織の役員同士の意見交換をしてみたい。そこにJAの役員も巻き込み、単なる意見交換ではない、いろんな人を巻き込んだ仕掛けをつくりたい」と水嶋部長は語る。その背景には、「組合員組織の連携を通じて、組合員に『自分たちのJA』と思ってもらえるような場づくりができたら」(水嶋部長)という思いがある。
3.で見てきた取り組みは、JAの事業に寄与し得るTACの役割を見える化することで部門間連携を促進し、その結果としてJA内でのTACへの理解を広げ、JA全体でTACの活躍を応援する体制をつくることにつながっていた。その成果は石城の里ファームの事例で見たように、事業承継の実績や担い手のTACに対する評価にも表れている。JA山口県は、担い手支援対策部が核となって部門間をつなぐとともに、組合員同士、組合員とJAをつなぐことを視野に入れた取り組みを通して、経営理念『わたしたちは、親しみと信頼で人と人をつなぎ、次代にわたり、ふるさとの農業とくらしを支え続けます。』を体現していくことだろう。