地域の元気を生み出すJA
行動を評価軸とする業績管理で人に優しいJAをつくる
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
1. 行動の達成状況を評価するプロセス管理の導入
JAぎふは、2024年度より支店や営農経済センターの業績管理の仕組みとしてプロセス管理を導入した。これは、支店や営農経済センターの業績を「行動」に基づいて管理・評価しようとするものである。その内容をやや詳しく説明すれば以下のとおりである。
まず、同JAでは2021年度に事業取組方針を「私たちは、組合員の期待に応えるために支店が中心となり、総合的なサービスをもって組合員の財産活用と暮らしのお手伝いをします」と定めた。この方針を同JAでは「フレームワーク」と呼んでいる(詳細は後述)。
プロセス管理とは、職員がフレームワークに沿って業務を実践することを後押しし、さらにはそれを正確に評価することを目的とするものであり、図1に示されるとおりフレームワーク(事業取組方針)を実現する「重要成功要因」を定め、さらに同成功要因を実現するための「重点施策」とそれを具体化する「行動計画」を設定し、この中の行動計画の達成状況によって支店や営農経済センターの業績を管理・評価するものである。

出典:同JAの資料より
2024年度の支店のプロセス管理においては、重要成功要因として3つ、さらに各重要成功要因に対して重点施策が3つ、そして各重点施策に対して3つの行動計画が定められた。つまり、行動計画はトータルで27計画あり、支店の業績はこの27の行動計画によって評価されることとなった。
例えば、重要成功要因の一つとして定められたのは「組合員・利用者の豊かな暮らしを叶えることを目的とした提案ミーティングの実践」であり、この重要成功要因に対する重点施策の一つとして「こたえる訪問活動」が定められた。そして同活動を具体化する行動計画として「投信・住宅ローン・共済・年金利用者訪問面談情報収集活動」「組合員に寄り添った活動」「信頼を得る対話活動」の3つが設定された。
これらの3つの行動計画については、それぞれ達成状況を判断するための業績評価指標が設けられており、「投信・住宅ローン・共済・年金利用者訪問面談情報収集活動」では面談率、「組合員に寄り添った活動」では活動件数、「信頼を得る対話活動」ではライフプランシートの作成件数が具体的な業績評価指標とされた。
このように、行動計画の業績評価指標は事業の取扱高や契約件数ではなく、行動の「量」を測定するものとなっており、このことは27の行動計画いずれにおいても同様である。そして、こうした業績評価指標に基づいて支店の業績が評価されるとともに、その評価は職員の賞与にも連動することとなっている。
JAにおける業績評価といえば、支店のような部署についても職員個人についても、事業の取扱高や契約件数など、言ってみれば「事業量」ベースでの達成状況を中心とするのが一般的である。しかし、JAぎふはそうではなく、評価の中心に「行動量」を据えることとしたのである。JAのことをよく知る者に対してならば、こうした動きは「改革」ではなく「革命」であるといっても、それほど異論は出ないだろう。
2. 事業量管理から事業利益管理へ
JAぎふは岐阜県の中西部に位置し、岐阜市・羽島市・各務原市・山県市・瑞穂市・本巣市・笠松町・岐南町・北方町を事業区域とする。
2023年度末の組合員数は正組合員が3万9,035人・団体、准組合員が5万8,011人・団体となっており、同年度の事業実績を見ると、貯金残高1兆639億円、長期共済保有高1兆7,127億円、購買品取扱高59億円、販売品取扱高84億円などとなっている。
現在、支店は42店舗で金融・共済事業を業務の中心としており、これとは別に組織活動への対応や地域内の交流拠点としての役割を果たしているふれあいプラザが8店舗ある。支店とふれあいプラザは統括支店の下で12のグループを形成しており、各グループ内で一体となって業務に当たっている。前述のプロセス管理や後述の利益管理については、実際にはこのグループ単位で実施されている。一方、営農・経済事業を業務の中心とする営農経済センターは4か所に設置されている。
さて、JAぎふの業績管理のあり方の見直しは、2024年度のプロセス管理の導入以前から始まっていた。2020年度より、支店の業績評価を貯金・融資残高、共済契約ポイントなどの「事業量」ベースから、どれだけ事業利益を生み出したのかという「利益」ベースへと変えたのである。
利益ベースの管理において、当初目指したのは各グループにトータルとしての事業利益目標だけを示し、その達成のためにどの事業をどの程度実施するかはそれぞれのグループに任せるというものであった。極端な例で言うならば、事業推進の対象を融資に絞り、貯金や共済の推進は一切しなくても、目標とするグループとしての事業利益を上げることができるならばそれでOKとしたのである。
しかしこれはうまくいかなかった。金融・共済事業にはさまざまな商品(仕組み)があるが、それぞれが生み出す利益率は従来本店でしか把握しておらず、JA全体としての取扱量で変動するものもある。また、事業の利幅に大きく影響する金利などを支店裁量とするのは難しい。こうした中で、各グループから「事業利益だけを示されてもそれを達成するための計画はつくれない」との声が上がったのである。
そこで本店では、各グループに対して金融・共済等の事業別の粗利益、さらには商品(仕組み)別の収益についても期待値として示すこととした。各グループの業績管理の中心に、トータルとしての事業利益目標を据えることに変わりはないが、それは本店が期待値として示した事業別の粗利益や商品(仕組み)別の収益を達成すればクリアできる。結局、各支店がどの事業をどの程度実施するかについてはほとんど変化することはなかった。
同JAの利益ベースの業績管理は、2024年度のプロセス管理の導入まで続けられたが、同業績管理の導入を主導してきた関係者からは、自省を込めて「絵に描いた餅に終わった」との声が聞かれた。
ただし、何も成果をもたらさなかったわけではない。そもそもこうした業績管理を目指した背景には、JAの経営収支の将来見通しが厳しいこと、そして現場において事業量の確保ばかりに目が行き、コスト意識が低いことなどがあった。実際に利益ベースの業績管理を導入すると、コスト意識が高まって各種の経費の削減が進んだとのことである。事業利益の確保・拡大には、端的に言えば収益を増やすという方法と、費用を減らすという方法があり、後者の点では効果が見られたのである。
3. フレームワークの導入と協同組合らしさの追求
前述したとおり、JAぎふでは2021年度にフレームワークを導入した。ここでそれを改めて示せば、「私たちは、組合員の期待に応えるために支店が中心となり、総合的なサービスをもって組合員の財産活用と暮らしのお手伝いをします」というものである。職員にとっては、行動指針のようなものといえるだろう。
こうした指針を導入した背景には、農協改革によってJAに対する批判が強まる中で、組合員を十分に意識して事業・活動を展開するとともに、その拠点は組合員にとって最も身近な存在である支店であるべきと考えたこと、従来の成果主義的な目標管理が組合員のJA離れを引き起こしており、それを是正したいと考えたことなどがあった。

出典:同JAの資料より
2022年度からはフレームワークの具体化に向けたプロセスが検討され、協同活動→課題の把握→解決策の提案→目的達成といった形で整理された。その結果、協同活動として専ら女性部等の組織活動への対応や地域貢献活動などが活発化した。確かにそれらは協同活動という用語から連想されやすいものである。しかし、フレームワークに沿った協同活動として企図していたのは、相談活動や訪問活動、対話運動、さらには事業利用も含む、言ってみれば組合員がJAと関わるあらゆる領域についてであった。
そこで同JAでは、図2に示されるようにフレームワークに基づく取り組みの全体像を整理した。この中には、既存の事業・活動の多くが明示されている。同全体像は、それを漫然と実施するのではなく、コアメンバーを増やすという最終ゴールに至るまでのどの段階に位置する取り組みなのかを明確にし、さらには組合員・地域住民が次の段階へと移行していくために、それぞれに求められる役割を整理したものなのである。
ピラミッドの下の方に位置している地域貢献活動や認知活動、訪問活動などを通じて、まずはJAに対する共感や理解を育む。その上で事業利用や組織活動などを通じて組合員にとって不可欠な存在になる。そして最終的には、組合員にとって不可欠な存在であり続けるために意思反映や運営参画してもらう。図に示されているのは、組合員を中心とするJA運営の実現方策であり、協同組合らしさを高めるための見取り図といえるだろう。