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地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

トキとの共生に向けて
環境保全型農業に取り組むJA佐渡

JA佐渡の取り組み
和泉真理 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA) 客員研究員

 JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<新潟県:JA佐渡>
 新潟市の西方45kmに位置する佐渡は、面積が855㎢(東京23区の1.5倍)ある。島の北部と南部は山地となり、中央部の国仲平野は4,000haの穀倉地帯となっている。島特有の海洋性気候のため、夏は本土に比べ2℃程度涼しく、 コメづくりに適した場所である。
 JA佐渡による環境保全型農業への取り組みは、トキの保護活動と密接に結びついている。トキは日本で古くから親しまれてきた鳥だが、美しいオレンジ(朱鷺色ときいろ)の羽根が珍重され乱獲が進み、大正末期には絶滅したと思われていた。しかし、昭和初期に佐渡での生息が確認され世界の珍鳥として保護の機運が高まった。その後国産トキの増殖は断念されたが、中国政府から送られたトキの繁殖に成功し、2008年からは試験放鳥を開始。繁殖と放鳥を繰り返し、現在、推定で500羽を超えるトキが佐渡にいる。
 トキが自然界で定住できるよう、農業分野からトキの餌場となる水田環境の整備に取り組んできたことがJA佐渡の環境保全型農業の推進力となっている。農薬や化学肥料を抑制してトキに餌場となる田んぼを提供してきたJA佐渡は、環境保全型農業に取り組む先進的JAとして注目されている。

1. JA佐渡の環境保全型農業への取り組み

(1)取り扱うコメのほとんどが農薬・化学肥料5割減、約2割は「生きものを育む農法」に取り組む

 JA佐渡が「佐渡米」として取り扱うコメはほぼ全てが農薬・化学肥料5割減以上となっている。また、そのうち約3,000tは佐渡市の認証制度「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」の要件である「生きものを育む農法」により栽培されている。
「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」は佐渡市が2007年にトキの餌場確保と生物多様性のコメづくりを目的として立ち上げたもので、以下の要件を満たすことが求められている。

  1. 「生きものを育む農法」により栽培されたものであること
  2. 生きもの調査を年2回実施していること
  3. 農薬・化学肥料を減らして(地域慣行比5割以上削減)栽培された米であること
  4. 水田畦畔けいはん等に除草剤を散布していない水田で栽培されたこと
  5. 佐渡で栽培された米であること
認証されたコメに付けられるマーク

 このうち「生きものを育む農法」については、以下の5つの事項のうち少なくとも1つに取り組む必要がある。

  1. 「江(水を残す深み)」の設置:中干しの時期などに水田の水生生物の生息地を確保するために、水を張った側溝である「江」を設置
  2. 魚道の設置:魚や小さな水生生物が水田と水源を行き来できる「魚道」の確保
  3. ふゆみずたんぼ:冬季間、水田に水を張る。水中生物の土壌に対する働きを高めるとともに、雪が積もる冬の間も朱鷺をはじめ生き物が暮らす環境を維持する
  4. ビオトープの設置:作付けされていない水田も活用しつつ、年間を通じて常に水の張られた状態の池や沼を田畑に隣接して設置
  5. 無農薬・無化学肥料による栽培

 2022年度の数値では、JA佐渡の中で生産者380人、JA佐渡が集荷するコメの18%は認証米基準に沿って生産されたものだ。「生きものを育む農法」の5項目の中で、実際に取り組みが多いのは「ふゆみずたんぼ」と「『江』の設置」である。

江の設置

ふゆみずたんぼ


(2)畦畔の除草に除草剤を使わない

 佐渡の水田風景は畦畔の緑が美しい。畦畔の除草に除草剤を使わないからであり、ひたすら緑色である畦畔の光景に島外の人はびっくりするそうだ。
「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」には、水田畦畔等に除草剤を散布しないことが要件の一つとなっているが、この認証制度に取り組むかどうかに関係なく、佐渡では、昔から畦畔の除草は手刈りで行われている。トキが田んぼに入りにくい季節には畦畔に降りてきて餌をついばんだりすることに配慮したものだ。
 近年は生産者が高齢化し、除草剤を使いたいとの声は出てきているそうだが、JAによれば「理解して手刈りをしてもらっている」とのことだ。

緑の畦畔が美しい佐渡の水田風景

(3)ネオニコチノイド系農薬を使うのをやめる

 JA佐渡では、JA米としての取り扱い要件に、2018年からネオニコチノイド系農薬の不使用を加えた。ネオニコチノイド系農薬は、ミツバチ減少の原因となるなど生態系への影響が懸念されており、ヨーロッパ諸国などでは使用禁止や規制強化が進んでいる。
トキの保全に熱心な生産者からの声をきっかけに、使用の廃止で環境が守られるのであればやろうではないかということになった。対象は水稲の農薬であり、園芸作物については今のところ技術的に難しいので一部の品目でしか取り組めていないが、徐々に検討を進めている。

2. 環境保全型農業の取り組みの経緯 不作とトキの放鳥をきっかけに

 JA佐渡がこのようにさまざまな環境保全型農業に取り組むようになった大きなきっかけは、2004年、2005年の台風被害などによる不作である。コメの集荷量や1等米比率が急落し、販売店の棚から「佐渡米」がなくなった。棚に佐渡米を戻してもらうために、また気候変動に強いコメを作るために、どのように取り組んでいくかという検討がなされた。
 2008年に予定されていたトキの放鳥活動は、この検討のタイミングと合致した。トキの放鳥に合わせ、トキが生息できるよう、水田の環境をもっと良くしなくてはならない。低農薬のコメづくりをして、トキが安心して田んぼで食べられるようにしよう。JA、佐渡市、篤農家などで話し合いを重ねる中で、環境にやさしい佐渡米づくりに取り組み、それをPRするという方向が出来上がった。2006年夏の佐渡米生産者大会において、「環境にやさしい佐渡米づくり」に取り組むことを決議した。
 2007年にまずは農薬・化学肥料の3割減からスタートした。JAは土づくりに重点を置き有機入り肥料を使用した栽培へ転換する営農指導を進め、栽培カレンダーの発行、大型ヘリからラジコンヘリへの防除の転換、種もみの温湯消毒施設の設置などを実施してきた。
 2007年には佐渡市による認証米制度が発足、2012年にはJA米の要件が3割減減から5割減減となった。こうした経緯について、JAの担当者は、「結果的に生産者は皆協力してくれた。技術的に抵抗があったと思うが、あまり苦情もなく、皆が賛同してくれた。トキの放鳥のタイミングが大きかっただろうし、売れる佐渡米を作ろうという計画が浸透したのではないか」と語る。

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