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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

スパイスカレーの可能性は無限大!
自由な発想で楽しんでほしい

印度カリー子 スパイス料理研究家

スタートは「スパイスの調合って不思議で楽しい」

 私が最初にスパイスカレーを作ったきっかけは、自分がスパイス好きだったわけではなく姉のためでした。むしろ私自身はどちらかと言えば香りが強いものがあまり得意ではなくて、スパイスカレーも苦手な部類。でも、いざ「ターメリック」「クミン」「コリアンダー」などのスパイスを調合してみたら一つ一つは好みの香りでなくても、合わせることでこんなにおいしくなるということに驚きました。それに、私でも簡単にスパイスカレーが作れたという感動も大きくて。そこからスパイスの魅力にハマっていきました。

スパイスの魅力にハマった学生時代

 スパイスカレーって作り方が難しいと思われがちですが、実は身近にある食材で簡単に作れて、アレンジ性の高い料理だと私は思っています。フライパンに玉ねぎやトマト、にんにくなど好きな食材を順番に入れていくだけなので失敗を恐れずに作れますし、これらの食材は比較的安定して手に入れることができます。しかも、季節や気分に合わせてメインの食材を変えればチキンカレーになったり、豆のカレーになったりとバリエーションも豊富です。

食材を変えることで、バリエーション豊かなスパイスカレーができあがる

 よく「毎日カレーを食べていて飽きないの?」と聞かれますが、私からすれば「こんなに食材も味も違うのに、なぜ飽きるの? 日本でも、毎日お味噌みそ汁の具を上手にアレンジして飲んでいるでしょ」と思うんです。だからこそ、日本人にとってスパイスカレーは汎用性がとても高い料理だと思いました。スパイスさえ簡単に手にすることができれば、スパイスカレーの魅力はもっと広まるはず…そう考えたんです。

スパイスを誰でも簡単に手に取れるようにしたい!

 簡単で、手に入りやすい食材で作れて、アレンジ性も高い。そんなスパイスカレーがなかなか広まっていなかったのは「スパイスのハードルの高さ」だと気づきました。いざ日本でスパイスをそろえようとすると容易には手に入りにくくて、比較的高価。さらに量も多いので全部を使いきれないという問題があったのです。
 それなら私が学生のお小遣いでも購入できるようなスパイスをつくろう。そう思って10種類ほどのスパイスを少量ずつ調合して販売し始めました。

手軽に使えるよう工夫した、調合済みのスパイス

 その後、地元宮城県の社会福祉法人に製造を依頼し、現在では「印度カリー子のスパイス工房」として約10名の障がい者の方が毎日手作業で製造してくれています。製造をお願いするようになって8年ですが、立ち上げ当初から携わってくださっている方もいます。
 私のスパイスセットを作ってくれている方々は、もはやプロフェッショナルで、スパイスの仕分けや製造スピードは抜群に速いです。私が作業に加わろうと思っても、むしろ迷惑になってしまうくらい(笑)
 とはいえ、この社会福祉施設との出会いは本当に偶然なものでした。最初はとにかくスパイスを誰もが簡単に手に取れるようにしたいということが私の目標でしたが、当時大学2年生だった私は何十社もの企業に製造を断られてしまいました。そんななかで「やりましょう」と言ってくださったのがこの福祉法人の理事長だったんです。今でこそ大きな反響をいただいていますが、最初の5年ぐらいは思うような利益を得られず赤字続き。それでも「いつかできるから」と励まし、支えてくれたからこそ今まで続けてこられました。当時の私を救ってくれた福祉施設には感謝の気持ちでいっぱいですし、これからも工房のみんなが笑顔でお仕事できるよう、私も一緒に頑張りたいですね。

農家さんの思いが込められた日本の野菜は、やっぱりおいしい!

 私は仕事柄、海外の料理を食べることも多いのですが、改めて日本の野菜の素材の良さと種類の豊富さに驚いています。野菜そのものに香りや味があるので生でもおいしい。農家の方が一つ一つ丁寧に栽培されたことがわかります。それに最近どんどん野菜の品種も増えていますよね。地方に行くと必ず道の駅や直売所に寄るのですが、たとえばさつまいもだけでも何種類もあるじゃないですか。ひとつでも色や形が違うものも多くて、見ているだけでも飽きません。
 それから、希少だからスーパーや市場に出回らない地元野菜を購入して食べるのも楽しみのひとつです。まずは食べられる限り生で食べてみて、それから地元の方に聞いたおすすめの食べ方で食べてみます。もちろんスパイスカレーにしてもおいしいのでしょうけど、まずはその食材のことを熟知している地元の方に聞くのが一番ですよね。

地域の魅力がたっぷり詰まったご当地食材に出会うのが楽しみ

 実は私も実家で畑をやっていましたので、ひと通りの野菜を育ててきました。父親が始めた家庭菜園が、あれも植えたいこれも植えたいとしているうちにどんどん拡大していってしまって。そうなると家族総出で耕して、雑草を抜いて間引きをしてこまめな水管理の毎日。いざ収穫ってなると何時間もかかって真夏の暑い中を作業するわけです。農作業って一つ一つの作業というか段取りや下準備が思っている以上に大変なんですよね。それを販売までやるとなれば、同じサイズに選別して袋詰めしてって。これだけ手間がかかることを、消費者のためにずっとやってこられた農家さんの思いをもっと理解しなければいけないって思います。今、安定して安全安心な野菜を食べられるってすごくありがたいことですね。

おいしい日本のお米だからこそ、ポテンシャルを100%引き出して食べてほしい

 お米も同じです。バケツで稲を育ててみるのもいいですよね。苦労して育てても、お茶碗ちゃわん1杯分ぐらいしか収穫できないんだって、農家さんの大変さやすばらしさを実感できると思います。
 今、日本全国にはたくさんの銘柄があって、どれもカレーをかけずに食べても圧倒的においしいです。そして、どんな具材のカレーがきても受け止めてくれる。私は季節によって暑い時期はさっぱり系の「ササニシキ」や「ななつぼし」を食べますし、冬なんかはもう少しもっちりしたお米を合わせています。同じカレーでもお米によって味わいが変わってくるんです。
 そうなると、もうカレーの概念ってあってないようなものですよね。カレーだから水分を少なくしたお米が合うって方がいますが、私からすれば「お米にもベストを尽くさせてあげてほしい」って思っちゃう。硬く炊き上がったこのお米は本来のポテンシャルを100%出せているのかなって。カレーがベストを尽くしてきているなら、お米もベストな状態で食べてほしいです。「カレーライス」って文字にしたら、「カレー」と「ライス」で同じ3文字ずつなんだから、お米は脇役じゃないと思うんです(笑)。
 ここはもう、カレーはこうでなければ!という概念にこだわり過ぎずチャレンジしてほしいです。組み合わせは無限大だと思います。
 そう言った意味では、ご当地カレーもいろいろなものが出ていますよね。「私たちの『国』で『消』費する食べものは、できるだけこの『国』で生『産』する」という「国消国産こくしょうこくさん」の考え方にも通ずると思いますが、その地域のカラーが出るカレーは、それこそ素材の良さをかせるスパイスカレーとの親和性も高いと思います。おいしいお米と特徴的なカレーの可能性はまだまだ広がっていくと思うと、ワクワクが止まりません。

(左)東北のご当地カレーをプロデュース(右)地域のイベントにも参加

夏のスパイスカレーのポイントは「主役の野菜を決めること」!

 さて、今年も暑い夏がやってきますね。夏野菜が豊富に出回るこれからの時期はスパイスカレーのおすすめの時期でもあります。たとえばオクラはチキンカレーに入れると、優しいとろみがついてさらさらのスパイスカレーがまろやかになります。王道のナスは、ひき肉の油を吸わせたとろっとろのナスが楽しめるキーマカレーがおすすめ。あと、私はキュウリが大好きなので、キュウリのカレーもよく作ります。角切りにしたキュウリに火を入れてズッキーニのような食感を楽しめるカレーは絶品なんです。

優しいとろみがおいしいオクラカレー

 どのカレーを作るのでも、ポイントは、いくつもの食材を入れないこと。家庭菜園をされている方だといろいろな種類の野菜が家にあることと思いますが、たくさんの食材を入れてしまうと、それぞれの良さが際立たなくなってしまうんです。ナスを入れると決めたら、食材はナスとひき肉ぐらいにしておくことで、「主役の野菜」であるナスのおいしさが引き立ちます。ぜひ試してみてください。

印度カリー子

印度カリー子 いんど・かりーこ

1996年、宮城県仙台市出身。スパイス料理研究家兼タレント。スパイス初心者のための専門店、香林館(株)代表取締役。初心者のためのオリジナルスパイスセットの開発・販売のほか、レシピ本執筆、企業との商品開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動。著書に『スパイスカレー沼にハマってみない? 毎日作り続けて気づいたもっとおいしくなるコツ』(家の光協会)、『おのこりスパイス5種でリピ決定おかず』(主婦と生活社)、「ひとりぶんのビリヤニ」(山と渓谷社)ほか多数あり、著書累計発行部数は43万部を超える。

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