地域の元気を生み出すJA
「楽しい」防災活動で家族と地域を守る
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
1. はじめに
近年、日本各地で大雨による土砂災害や河川の氾濫が毎年のように発生しており、南海トラフ地震やそれに伴う津波被害も近い将来に起こる可能性が指摘されている。こうした状況を踏まえると、自然災害への備えは、居住地域を問わず誰にとっても必須のものとなっているだろう。
その中で、災害時に地域住民同士で助け合える「共助」の仕組み作りが重要視されている。しかし、いざという時に共助の力を発揮するためには、日常の中で顔の見える関係性を築き、地域内でのつながりが育まれていることが不可欠である。
JAわかやま女性会 ありだ地域本部では、地域に根差した活動を日々展開する中で、「もしもの時の備え」を意識した防災活動を取り組みの一環として位置づけ、継続的に実践している。
2. JAわかやま女性会 ありだ地域本部の概要
2025年4月、有田市、有田川町、湯浅町、広川町を管内とするJAありだは、JAわかやまへの合併に伴い、「JAわかやま ありだ地域本部」(以下ありだ地域本部)として新たに発足した。これに伴い、JAありだ女性会を母体として、「JAわかやま女性会 ありだ地域本部」(以下女性会)が設立された。
2025年8月末の同地域本部における正組合員数は7,527人、准組合員数は9,359人であり、女性会の会員数は2025年9月末時点で1,080人である。このうち35人がフレミズ部会(おおむね50歳以下の女性会員)に所属している。管内は有田みかんの産地であるが、メンバーは非農家の准組合員が多い。年齢層は60代以降の人が大半を占めているという。
同女性会の組織機構を示したものが図1である。ブロックは各支店のエリアを範囲としており、全部で6ブロックに分かれている(うち、宮原・吉備ブロックは2支店を含む)。その下部組織にあたる支部は集落(字)の単位で構成されており、現在35支部存在する。
本部役員は会長1名、副会長2名、会計2名、監事2名で構成されており、会長以下の役員は各ブロックのブロック長も兼任している。各ブロックにはブロック長、副ブロック長、監事がそれぞれ1名ずつ、支部は支部長、副支部長が1名ずつ配置されている。本部役員(ブロック長)の任期は会長を含め2年であるのに対し、支部長は1年ごとに交代する。会長は2期務めるのが一般的であるという。
本部の事務局はありだ地域本部の組合員課が担い、ブロックや支部単位の活動については、各支店の担当職員がサポートしている。
活動は本部、ブロック、支部それぞれが独自に内容を決め、実施している。中でも支部は月に1度活動の機会を設けている所もあるほど、活発に活動している。活動内容は焼き肉のタレ作りやめんつゆ作りといった料理教室や手芸講座などの暮らしに密着したものから、みかん農家が多い支部では摘果・剪定講習会など、地域の特性に応じたものまで多岐にわたる。
加えて、女性会はありだ地域本部管内の小学校に対する出前授業のサポートも行っている。ありだ地域本部では食農教育の一環として、各支店に1名ずつ配置された「くらしの活動担当者」が、依頼のあった管内の小学校を訪問して出前授業を行っている。有田みかんを使った大福作りをはじめ、地元で採れた食材を生かした料理教室が主な内容である。
子どもたちが班に分かれて調理を行う際、料理の手順やコツを指導するのが、女性会のメンバーを中心に構成されている「食農おうえん隊」だ。現在約80名が登録し、職員と共に小学校に出向いているという。
3. 女性会による防災活動の歩み
ありだ地域本部の管内は、海沿いの広い範囲が津波浸水域に該当している他、山沿いでは土砂崩れ、有田川やその支流周辺では洪水など、さまざまな自然災害のリスクを抱える地域である。こうした環境を考慮し、女性会として防災活動に取り組むことを提案したのが女性会会長の田中清美さんだ。
田中さんは2014年から2017年、2022年から現在までの期間に会長を務めている。防災活動を女性会の活動に取り入れたのは、2017年のことである。その経緯について、田中さんは次のように話してくれた。
「女性には、家族を守るという大きな役割があります。もちろん旦那さんも家族を守ってくれますが、家の中のさまざまなことを担っているのは女性です。国や県、市町村がしてくれる防災だけでは、自分や家族の命は守り切れません。だからこそ、女性自身が防災について真剣に考えることが大事だと思い、女性会で取り組むのが良いのではないかと思いました」
初年度は会員全体に防災についての意識付けをするために、各ブロックで同じ講師を招き、災害時の備えに関する防災講座を開催した。翌年田中さんは会長を退いたが、防災活動への思いを深く理解していた中田博子さんが次期会長に就任し、活動を引き継いでくれたという。そして田中さんが取り組んだ1年間と中田さんの任期4年間を範囲とする「防災5カ年計画」が策定され、本部、ブロック、支部それぞれで継続的に防災活動に取り組むこととなった。
その主な活動の一つが、新聞紙を使った簡易トイレ作りである。2020年以降はコロナ禍の影響で活動が制限される中、支部やブロックで集まる機会を活用し、簡易トイレを作製するようにした。こうした取り組みを通じて、各支店で少しずつ備蓄を進め、現在では全支店で約5,000個を備えることができたという。
備蓄していた簡易トイレは、2021年10月に和歌山市で断水が起きた際、当時のJAわかやま女性会に約1,000個を寄付し、大変喜ばれたそうだ。断水が解消した後には、寄付した数と同じ数の簡易トイレをJAわかやま女性会が新たに作製し、返してくれた。女性会(当時はJAありだ女性会)から始まった「もしもの時」への備えは、近隣地域と助け合える関係の創出にもつながっている。
防災5カ年計画の期間は終了したものの、現在も本部、ブロック、支部それぞれの単位で防災活動に取り組んでいる。本部では年に1度、毎年内容を変えながら防災講座を開いている。2025年9月に本部で開催された防災講座には、約70名の女性会メンバーが参加した。この年は自衛隊を講師として招き、災害現場での活動についての話を聞いた後、班に分かれて『家の光』にレシピが掲載されていた防災食の試食会を行った。
印象的であったのは、参加者同士で「山崩れが起きた時は私があなたの家に逃げる」「津波が起きた時はあなたが私の家に逃げる」といった、非常時の避難先について確認し合う会話がなされていたことだ。また、1953年に有田川が氾濫した際に家族と避難した経験を、同じ班のメンバーに語る参加者も見られた。このように、同じ地域に住む人々が集まり、防災についての知識を共有することで、身近な人と助け合える関係性を確認したり、自分が暮らす地域で起こり得る災害の可能性について理解を深めることができる。そのような機会は、災害への備えを「自分ごと」として捉える意識を持つことにつながるだろう。
また、前述の出前授業についても、これまでの食農教育に関連した内容に加え、2025年度から新たに防災講座も対象となった。これに伴い、食農おうえん隊も防災講座の出前授業に対応することになったという。授業では、子どもたちと一緒に簡易トイレを作ったり、調理用ポリ袋を使った蒸しパン作りに取り組みながら、災害時の備えの大切さについて、子どもでも理解できるやさしい言葉で話すようにしている。2025年9月末時点で、9校の小学校から防災講座の出前授業に関する申し込みが寄せられたという。
宮原・吉備ブロックでは、2025年10月に予定されている支店まつりにおいて、女性会が防災をコンセプトに、ブロック長の宮本さんら会員たちが簡易トイレ作りや調理用ポリ袋を使った料理の講座を開催する予定であるという。このように、女性会の防災活動は会員の中だけにとどまらない広がりを見せており、自然災害のリスクを多く抱える地域の住民の防災意識の醸成に寄与していると考えられる。
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