地域の元気を生み出すJA
子会社で農地を守り、人を育てる
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
1. (株)JA東びわこアグリサービスの従業員構成と採用の取り組み
前回は、株式会社JA東びわこアグリサービス(以下(株)JA東びわこAS)誕生の経緯と、「地域の人々が自ら農地を守り続けることを支援する」というこの会社の役割について紹介しました。後編では、もう一つの大きな役割である人材育成の仕組みについてご紹介します。
現在、(株)JA東びわこASの従業員は13人です。年齢層は10代の方(高校卒業後昨年7月に入社)から60歳以上の方まで幅広く、中心となるのは30~40代の従業員です。
プロパー職員は5人で、旧子会社からの職員も含まれます。さらに、今年4月には県内の農業大学校を卒業した20代の新入社員2人が加わる予定です。
採用は、滋賀県内の農業学校やハローワークなどを通じて行っています。給与体系はJA職員と同等に設定しており、安心して働ける待遇を整えています。
2. 社員のスキルアップに向けた農作業の進め方
(株)JA東びわこASでは、事業部長が中心となって作付け計画を作り、それに基づいてチーフが各社員に作業の割り振りをします。農作業には社員だけでなく、チーフや事業部長などほぼ全員の従業員で取り組みます。
社員の農作業経験は、半年程度の人から旧子会社で10年以上経験を積んできた人までさまざまです。そのため、作業のスキルや1日にこなせる仕事量にも人によって差があります。
そこで、全員で同じ地区の圃場に出向き、シーズン単位で担当作業を固定する方法を採用しています。まとまった期間同じ作業を続けることで、その作業のスキルや農作業への意識を社員間で統一させるためです。
田植えを例に挙げると、代掻き担当が圃場を整え、田植え担当が田植え機に乗って苗を植えるといったパート分けを行います。次のシーズンには別のパートを経験してもらい、数年かけて米作り全体の技術を社員全体で統一することを目指しています。
3. 自ら考え、判断できる農業者へ―キーワードによる人材育成
(株)JA東びわこASでは、チーフの奥川さんが独自に考案したスキルアップのためのキーワードが社員の間で共有されています。ここではいくつかあるキーワードの中から、筆者が特に印象に残ったものをご紹介しましょう。
農業では作物の生育がうまくいかないとき、つい天候のせいにしてしまいがちです。「ぜんぶおまえのせい」というキーワードは、問題が起きたときにまず自分の行動を振り返り、改善点を見つける姿勢を促すための言葉です。
例えば水管理は、米作りにおける最も重要な作業です。稲の生育段階に応じて水を適切に調整できていたかどうかが収量に直結するからです。
そのため奥川さんは水管理の時期になると、日々の圃場の状況と天気の予想を社員に共有し、注意点を伝えています。もし収量が芳しくなかった場合には、この時期にどんな処置をするべきだったかをフィードバックします。
こうしたやりとりの積み重ねを通して、社員一人一人が次の工程や将来の状況を予測した上で、適切な判断ができるようになることを目指しています。
松山さんは「奥川さん(前方左)に育ててもらった恩を返していきたい。そしてこれから入社する人たちも同じように育てたい」と話します
合併前は100haほどだった農地は1.5倍に拡大し、これまで関わりのなかった集落の圃場で農作業をする機会が増えました。新しい圃場では、集落の方から以前の管理者と作業の出来栄えを比較されることもあります。「圧倒的な結果」というキーワードは、新規の圃場では特に丁寧かつスピーディーに作業することを意識するための言葉です。
JAの子会社という立場上、集落の方から立ち振る舞いを厳しい目で見られることも多いそうです。良い意味で「JAの子会社らしく」見られるよう、集落の方から一目置かれるような作業を心がけ、信頼を得られるよう努めています。こうした仕事ぶりが集落の人に評価された結果が、現在の農地の拡大につながっています。
こうしたキーワードは、作業の際に適切な判断をするための物差しです。社員の皆さんはキーワードと照らし合わせて作業の判断をするよう心がけています。奥川さんも社員へ指導や評価を行う際に、これらの言葉を基準にしてフィードバックを行います。
この取り組みによって、社員に必要な時期に必要な処置を行う意識が定着し、作業のクオリティーが統一されることを目指しています。皆が同じ物差しで判断ができるようになれば、新しく入った職員に対しても全員が同じ基準で指導できるようになります。
4. 人を育て、地域に必要とされる会社を目指して
後継者不足が深刻な集落営農法人では、農業を担う人材を育てる機能が失われつつあるのが現状です。そのため奥川さんは、(株)JA東びわこASの使命を「人を育てていくこと」だと考えています。
将来的には、育った社員がそれぞれ地区ごとの農作業を担当したり、農繁期の応援を求めている集落営農法人にOPを派遣したりして、農地の維持に苦労している法人の助けになりたいと言います。また、地域の人の働き口や農業研修の場としても頼ってもらいたいと考えています。このように、地域のさまざまなニーズに応えていける体制をつくることが(株)JA東びわこASの目標です。この目標に向かって、従業員の皆さんは日々の仕事に尽力されています。
5. 地域の理解を育むWEBマガジン「Umel(ウメル)」
前後編を通して、(株)JA東びわこASが地域の農地を引き受けていくためには、こうした取り組みに対する地域の方々の理解が不可欠であることが見えてきたのではないでしょうか。
JA東びわこでは、生産者と地域の消費者をつなぐ取り組みの一環として、WEBマガジン「Umel」での情報発信を行っています。
広報担当の藤野さんが取材や記事の執筆を担当し、生産者の顔や農業に対する思いを地域の方々に伝えています。消費者に「この生産者を応援したい」と感じてもらえるような、生産者と消費者が同じ地域の住民として共感し合える記事づくりを大切にしています。
「Umel(ウメル)」https://umel.or.jp/
6. おわりに
JA東びわこが進める地域農業の維持に向けた取り組みには、共通する姿勢があります。それは、地域住民の理解を大切にする姿勢です。
子会社事務局では集落営農法人の現状を理解するために耳を傾け、(株)JA東びわこASは日々の農作業を通じて地域の方々との信頼構築に努めています。広報の取り組みでは「Umel」を通じて生産者と地域の消費者がお互いの理解を深めることを目指しています。
こうした地域の方々を大切にする取り組みが、今後さらに発展していくことを期待したいと思います。