広大な農地でトウモロコシや大豆を栽培し、大型農機を使って大規模に生産する。アメリカの農家と聞くと、農業を専業として大きな収益を上げている姿を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
ところが、農家の「家計」に目を向けると、少し意外な姿が見えてくる。アメリカ農務省(USDA)によると、2026年の農家世帯の農業所得の中央値はマイナス467ドルと見込まれている。一方、農業以外から得る「農外所得」の中央値は9万3,975ドル、世帯所得全体では10万8,460ドルとなる見通しである。
もちろん、これはアメリカの農家が農業で利益を上げていないという意味ではない。農場の規模によって所得構造には大きな違いがあり、USDAが「農場」として数える対象が非常に幅広いことも、この数字に大きく関係している。
さて、本号では、USDAの最新統計を手掛かりに、アメリカの農家が農業以外からどのように所得を得ているのかを見ながら、大規模農業というイメージだけでは分からないアメリカ農家の実像について紹介したい。
農業所得の中央値は「マイナス」
まず、農家世帯の所得をもう少し詳しく見てみたい。
USDAが今年9月に公表した最新予測によると、2026年の農家世帯の所得中央値は10万8,460ドルで、物価変動を除いた実質ベースでも前年から1.2%増加すると見込まれている。
その内訳を見ると、農業所得の中央値はマイナス467ドルであるのに対し、農外所得は9万3,975ドルとなっている。なお、これらはそれぞれの所得の「中央値」であり、同じ世帯の数字を示しているわけではないため、単純に足して世帯所得になるものではない。
実績が確定している2024年でも同じ傾向が見られる。同年の農業所得の中央値はマイナス1,830ドルだった一方、農外所得は8万6,900ドル、世帯所得全体では10万2,748ドルだった。
農業大国アメリカの農家で、農業所得の中央値がマイナスというのは、一見すると不思議にも思える。
「農場」の定義は年間1,000ドル
その理由の一つが、アメリカにおける「農場」の定義にある。
USDAでは、年間1,000ドル以上の農産物を生産・販売した、または通常であれば販売していたと考えられる場所を「農場」と定義している。農地面積や専業・兼業の別などによる条件はない。
このため、何千エーカーもの農地を経営する大規模な穀物農場だけでなく、小規模な農場や、主な仕事を農業以外に持つ人が営む農場なども同じ統計に含まれる。
実際、2024年のアメリカの農場のうち、年間の農業現金収入が35万ドル未満の「小規模家族農場」は全体の86%を占めている。
アメリカ農業というと大規模経営が注目されがちだが、農場の「数」で見れば、その大部分はこうした小規模な家族農場なのである。
86%が農外所得を主な収入源に
では、農家世帯は農業以外からどのような所得を得ているのだろうか。
USDAによると、2024年には家族農場世帯の86%が、世帯所得の半分以上を農外所得から得ていた。
農外所得のうち最も大きいのは、農場経営者や配偶者などが農場外で働いて得る給与・賃金で、全体の55%を占める。このほか、社会保障給付などが22%、農業以外の事業から得る所得が9%となっている。
つまり、農場を経営しながら別の仕事に就いている農家や、夫婦の一方が農業を担い、もう一方が農場外で働いている世帯も多いということである。特に小規模農場ではその傾向が強い。
USDAの分類では、主たる農場経営者の主な職業が農業以外である小規模農場の98%、年間農業現金収入が15万ドル未満の「低販売額農場」の94%が、世帯所得の半分以上を農外所得から得ている。
農外で働くことは、アメリカの多くの農家にとって、農業経営と切り離されたものではなく、農場を維持しながら家計を支える重要な一部となっている。
5%の農場が生産額の半分
もっとも、農外所得への依存度は、農場の規模によって大きく異なる。
2024年には、アメリカの全農場の97%が「家族農場」だった。USDAでは、農場事業の過半を経営者本人とその親族が所有している農場を家族農場としている。
このうち、先ほどの小規模家族農場は全農場の86%を占める一方、アメリカ全体の農業生産額に占める割合は17%である。
対照的に、年間農業現金収入が100万ドル以上の「大規模家族農場」は、農場数では約5%にすぎないが、農業生産額の50%を占めている。
所得構造も大きく異なる。2024年に大規模家族農場を経営する世帯の所得中央値は41万756ドルで、その所得の大部分を農業から得ていた。
つまり、アメリカ農業には、農業を主な収入源として巨大な生産を担う比較的少数の大規模経営と、農外所得を組み合わせながら農場を維持する多数の小規模経営という、二つの姿が存在しているのである。
所得だけでは見えない農家の姿
もう一つ、アメリカの農家を理解する上で欠かせないのが「資産」である。
USDAによると、2024年の農家世帯の純資産の中央値は約161万ドルだった。農地や農業機械など多額の資産を必要とする農業の性格を反映し、農家世帯の97%以上が、アメリカ全世帯の純資産中央値を上回っている。
毎年の農業所得だけを見ると赤字であっても、農地などの資産を保有し、農場外から得る所得によって家計を支えながら農業を続けている世帯は少なくない。
日本にも、農業と農外就業を組み合わせてきた農家は多い。その意味では、アメリカの農家の姿にはどこか共通する部分もある。一方で、アメリカでは農場数の約5%にすぎない大規模家族農場が農業生産額の半分を担うなど、生産の集中も大きく進んでいる。
広大な農地や巨大な農業機械だけを見ていると、アメリカ農業は大規模な専業農家だけで成り立っているようにも見える。しかし、その足元には、農場外でも働きながら農業を続ける多くの小規模家族農場が存在している。
「農業でいくら稼いでいるのか」という数字だけでは、農家の暮らしの全体像は分からない。農外所得や資産にも目を向けると、農業大国アメリカを支える農家の、もう一つの姿が見えてくる。