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 せっかくの機会ですので、新品種のパン用小麦『はる風ふわり』をご紹介いたします。

 JAさがの広報誌「季楽里(KIRARI)」2018年6月号に掲載させていただいた、試験栽培していた「西海200号」につきましては、2022年6月に『はる風ふわり』として、品種登録され、本格的な栽培を始めております。
『はる風ふわり』は、雨の多い九州において、世界のトップクラスといわれているカナダ産パン用小麦に肩を並べる品質、具体的には、高いレベルでの「タンパク質含有率と食味」の小麦を生産できる、画期的な品種です。
『はる風ふわり』の詳細については、マニュアルがWebサイト上で公開されておりますので、詳しくお知りになりたい方は、ぜひ、ご覧ください。
「追肥」が、いかに重要かも、ご理解いただけるかと思います。
  佐賀県農業試験研究センター 作物部
  「パン用小麦『はる風ふわり』栽培マニュアル」2021(令和3)年2月
  https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00322235/3_22235_201838_up_jrd0uylx.pdf

 それでは、実際に、佐賀市内で『はる風ふわり』を栽培され、佐賀県を代表する小麦生産者のお一人であります、北島敏貴としたかさんに話を伺ってみましょう。

「二毛作」の「小麦」ば、安全・安心で、うまかばい
『はる風ふわり』ば、よろしゅうね
-「集落営農組織」と「共同乾燥(調製貯蔵)施設」がよかけんね

 私は、小麦の『はる風ふわり』のほかに、米と大麦の『サチホゴールデン』を栽培している専業農家です。
 以前は、米と大麦のみを栽培していたのですが、JAや行政から「小麦をやってみんか」とのお誘いがあり、私たちの集落全体で、小麦も栽培するようになりました。
 このあたりは重粘土質の土壌で、「湿害」に弱い大麦だけでは、「心もとなか」と思っていたし、「新しかもんにチャレンジしてみたか」との気持ちがあったので、「湿害」に強く、「収量」も見込める小麦に、「集落営農組織」の仲間と共に挑戦することとしました。

パン用小麦『はる風ふわり』を生産する北島敏貴さん

 ありがたいことに、新品種の『はる風ふわり』を手がけることになりました。
 その結果、収入面でも遜色そんしょくないものとなった上、なんといっても皆さまへ安全・安心で、おいしい小麦をお届けすることができ、満足しております。
 また、ウクライナ情勢をきっかけに、海外産小麦の価格高騰や、世界的な小麦不足への不安などから、「食料安全保障」という言葉も飛び交う中、私たちが安定して小麦を生産することで、小麦不足への不安を取り除き、「食料安全保障」に貢献しているとの、やりがいも感じております。
『はる風ふわり』を育ててみて、3年を過ぎましたが、「穂発芽」(長雨などで、収穫前の麦の穂が湿り、穂の中で発芽する)もなく、収穫も比較的早いことを実感しており、効率的で、皆さまにおいしい小麦をお届けできる、スゴい品種であることを実感しております。
「播種量」(種をまく量)などについては、私たち生産者、JAと行政と共に、まだ試行錯誤をしている部分もありますが、ほぼ、適切な量を見極めつつあるように思います。
「効率的」といえば、森田課長代理から「佐賀段階」「新佐賀段階」や「『耕地利用率』が日本一」とのお話がありましたとおり、私たち、生産者から見ても、その要因は「灌漑設備や圃場整備」と「『集団的農作業』による『集団的土地利用』」が大きいことだと考えております。
「『集落営農組織』は、生産者の『生活の一部』となっている」といっても、言い過ぎではありません。
 では、なぜ「『集落営農組織』が定着」しているのか?
 それは、意外に思われるかもしれませんが、「集落営農組織」ごとや、複数の「集落営農組織」ごとにある「共同乾燥(調製貯蔵)施設」、いわゆる「カントリーエレベーター」や「ライスセンター」と呼ばれている施設を中心に、「生産者がまとまる」からなんです。
「共同乾燥(調製貯蔵)施設」の稼働スケジュールを目がけて、生産者が「農作業を一斉に行う」インセンティブ(動機・誘因)があるのです。
 仮に、「共同乾燥(調製貯蔵)施設」を利用しなければ、どうなるか?
 自前で、小麦を乾燥させ、一時貯蔵することとなり、大規模に営んでいない生産者にとっては、大変な苦労を背負うことになります。
「共同乾燥(調製貯蔵)施設」を使えば、コンバインで脱穀した小麦(玄麦)を、施設に持ち込むだけで済むので、「品質の良い小麦を生産する」ことに集中できますし、小麦を買う方にとっては、「品質のそろった良い小麦を安定して調達」することができます。
「集落営農組織」は、コンバインやトラクターなどの大型農機を所有し「機械の共同利用」を行っています。
 実際には、さまざまな形態がありますが、「集落営農組織」が、「集落営農組合」といったキチンとした組織をつくり、熟練した専門的な農業機械のオペレーターの派遣の段取りや、作業順番の調整など、合理的でスムーズな農作業の管理・運営を行っています。
 その結果、「共同利用」の「最大のメリット」である、「コスト削減」が実現するのです。
「集落営農会計」という「経理の一本化」も図っています。
 小麦の販売代金が、いったん「集落営農会計」に入り、「集落営農組合」のルールに従い、「機械オペレーターへの賃金」の支払い、「農地の貸借があればその賃料」の支払い、「大型農機の割賦かっぷ代金」の支払い、「『共同乾燥(調製貯蔵)施設』の使用料金」の支払い、最も大事なこととして、「米と麦の販売代金」を生産者へ分配するなど、精算をキッチリと行っています。
 要するに「集落営農組織」は、私のような専業農家、会社勤めで忙しい兼業農家を問わず、生産者の求心力を集めつつ、「一つの企業」のように、合理的かつ組織立って運営されているのです。
「共同乾燥(調製貯蔵)施設」を一見された方の中には、その大きさに驚く方もおられると思います。
 一方で、経理に詳しい方は「巨大なハコモノだけど、ちゃんと減価償却げんかしょうきゃく(耐用年数に応じて費用に計上する)できているのか、ペイ(採算がとれる)しているのか?」と疑問に思われるかもしれません。
 安心してください。ここで「二毛作」のメリットが発揮されるわけです。
 秋の稲刈り後に「米」で稼働し、春の収穫後に「麦(小麦と大麦)」で稼働することによって、一定の「稼働率」は確保できる上、年に2回も「償却財源」が生じるのです。
「佐賀平野」では、効率的かつ合理的に、安定した品質の、おいしい小麦を育てる。「二毛作」のためには、「集落営農組織」と「共同乾燥(調製貯蔵)施設」が欠かせない「秘訣ひけつ」であることが、お分かりになったことと思います。

まるで工場のような「共同乾燥(調製貯蔵)施設」の内部

『はる風ふわり』の話に戻りますが、その小麦粉を100%使用したパンも発売されており、「がばいうまか(とてもおいしい)」と評判になっていることを耳にしております。また、『はる風ふわり』を使った「佐賀産」にこだわった小麦粉も販売されております。
 ぜひ、全国の皆さまにも、味わっていただきたいですね。
 これからも、消費者の方のニーズに合った、安全・安心でおいしい農産物をお届けするために、「集落営農組織」の生産者の仲間、行政の方々、そしてJAさがの盟友と共に、試行錯誤を繰り返しながら、最高・最善という高みを目指し、日々、精進を積み重ねてまいりたいと考えております。
 この辺りでは、全国の気球が集うバルーンフェスタが有名ですが、ぜひ、「麦畑の美しさ」も味わっていただきたいですね。

北島さんの脇を固めるJAさが気鋭の若手営農指導員
(左:花島課長代理、右:甲斐職員)

 JAさが 総務部 組織広報課 井上次長から、紹介していただきましょう。

「佐賀ん麦秋」は、美しかよー

 先日、麦の収穫(大麦:5月中下旬、小麦:5月下旬~6月中旬)が終わったところですが、いつもながら、麦が実った風景は、「麦秋」にふさわしいですね。
「稲」とはまた違った黄金色はたまらないものです。
 当JAの広報誌「季楽里(KIRARI)」を、Webサイト(https://www.saga-ebooks.jp/ja-saga/)に掲示しており、二毛作や小麦などの農産物をはじめ、当JAや地域の魅力をたっぷりと紹介しております。
 ぜひ、一度、佐賀にお越しいただいて、「佐賀ん麦秋」を味わっていただくことを、願っております。

JAさが 総務部 組織広報課の井上次長

最後に(まとめ)

「田んぼ」と「畑」の「変身」の「謎」(コルゲート管など)だけでなく、佐賀の農業の底力(「耕地利用率」が日本一)、世界トップクラスに肩を並べる品質の小麦『はる風ふわり』や、「集落営農組織」と「共同乾燥(調製貯蔵)施設」が「二毛作」の「秘訣」であることなど、数多くのことを学ぶことができ、「佐賀ん平野の二毛作と小麦は、がばいスゴか」ことを、心底、実感しました。
「佐賀平野」の「集落営農組織」は、いわば「小さな農業協同組合の原型」、もっといえば「理想の協同組合」の形の一つといっても過言ではないでしょう。
 美しい「麦秋」を味わいながら、生産者の皆さま、行政の皆さま、そしてJAさがの皆さまに「乾杯」したい気分です。
「佐賀ん麦秋」最高!

5月中下旬に実施された大麦の収穫風景 これぞ「佐賀ん麦秋」

新開賢也 しんかい・けんや

1991年京都大学経済学部卒業。同年農林中央金庫に入庫。秋田支店、鳥取事務所および静岡支店での拠点勤務、証券業務部、特定事項対策部および事務企画部等での本店勤務、ならびに大手証券会社、協同リースおよびNICでの外勤・出向勤務を経験。2020年10月から現職。

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