地域の元気を生み出すJA
「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」へ登録し、「市田柿」のブランド強化により地域活性化を図る
JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。
<長野県:JAみなみ信州>
JAみなみ信州は長野県の南部に位置する「飯田下伊那」地域、1市3町10村を事業エリアとしている。面積19万2,919ha、耕作面積5,780ha、戸数5万9,302戸、人口15万2,207人からなる。地域のほぼ中央を天竜川が流れ、河岸段丘による地勢が形成され、異なる標高ごとにさまざまな農産物が生産されている。代表するみなみ信州ブランドには500年続くあめ色の干し柿「市田柿」、日本一の品種と鮮やかさ「ダリア」、蜜たっぷり「サンふじ」、生まれも育ちもみなみ信州「南水」、安全・安心朝採りの「みなみちゃん野菜」、飼育から加工・流通にこだわる「南信州牛・信州ポーク」などがある。

1. 干し柿の生産量No.1「市田柿」の歴史
10月26日は「柿の日」である。1895年10月26日に俳人・正岡子規が「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」の句を詠んだことにちなみ制定されている。多くの句に詠まれているように「柿」の歴史は古く、奈良時代には日本各所で栽培され、平安時代の法典「延喜式」(927年)には祭礼時の供え物として干し柿・熟柿が記されている。甘柿は鎌倉時代に渋柿の変異種として登場し、江戸時代末から近代に入る頃には農家の庭には柿の木が植えられ、たわわに実る柿は日本の秋の風物詩となった。
南信州を代表する特産品の「市田柿」は、現在の長野県下伊那郡高森町市田地域で栽培されていた渋柿の品種名で、その栽培の歴史は500年以上といわれている。江戸時代後期に焼柿として親しまれていた柿を、干して食べてもおいしいと広まり、1921年に「焼柿」から「市田柿」へ改称されたのが始まりである。
また、特産果樹生産動態等調査による2020年の干し柿の生産量は、長野県が3,197.7t(全国6,701.3t)と全国第1位である。うち99.4%は「市田柿」で、生産地域は飯田市・下伊那郡と上伊那郡の飯島町、中川村となっている。
2. 「市田柿」のブランド強化の取り組み
(1)長野県初、「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」への登録
国内外で「市田柿」の需要が高まるに伴い増加した「市田柿」と称した外国産干し柿の流通を背景に、2006年JAみなみ信州は下伊那園協と共同で「地域団体商標」へ出願・登録し、長野県初の地域ブランドとして認定された。これを機に、翌2007年、生産者など38団体と「市田柿ブランド推進協議会」を設立し、栽培から加工に関する研修会や衛生管理の徹底、PR活動など地域資源をブランド化する取り組みを本格化している。
2016年7月には、「市田柿」のさらなる品質向上とブランド化を図るために、長野県初となる「地理的表示(GI :Geographical Indication)保護制度」(以下GI )へ農林水産大臣登録第13号として登録されている。
GIは生産地と結び付いた特性を持つ農林水産物等の名称を品質基準とともに国が登録し、地域の共有財産として保護する制度である。登録団体は公表された明細書記載の産地、特性、生産方法等の基準を満たすために、地域内全ての生産者の生産行程・衛生管理・出荷基準を統一する必要があった。このため「市田柿ブランド推進協議会」を構成する全ての団体等と「市田柿商標・GI管理委員会」を設立し、事務局を務めるJAが中心となって品質を高位平準化するための指導・支援を実施している。
登録名称 |
「市田柿(イチダガキ)」「ICHIDA GAKI」「ICHIDA KAKI」 |
生産地の範囲 |
長野県飯田市、下伊那郡ならびに長野県上伊那郡のうち飯島町および中川村 |
登録生産者団体 |
みなみ信州農業協同組合 |
登録日 |
2016年7月12日 |
(2)GI登録によるブランド力の向上と海外輸出の拡大
GI登録により、「市田柿」は国による模倣品、商標監視調査および対策が打たれるなど、地域の共有財産として保護されることになった。また、「市田柿」の名称と「地理的表示」「GIマーク」の使用は、認知度と市場の評価※を高めることにつながっている。この結果、販売単価は2006年の平均1,888円/㎏から2022年は平均2,327円/㎏へ、大きく上昇している。
※「市田柿」は品質の優秀さを鑑定する国際評価機関のモンドセレクション優秀品質最高金賞を2021年、2022年、2023年と3年連続受賞している。

さらに、GI登録を機に海外輸出も急速に広がっている。2016・2017年は特許庁の「地域団体商標海外展開支援事業」の採択を受け、台湾・香港での市場調査・PR活動等を実施。翌2018年度にはJAが事務局を務める「市田柿海外輸出推進プロジェクト」を設立し、市場関係者、行政やJETRO(日本貿易振興機構)など関係機関と連携した推進体制を整備し、輸出を強化している。これにより、市場の拡大と需要の分散が進み、国内における販売単価の安定にも大きく寄与している。
これについて、JAみなみ信州営農部次長兼担い手支援室長の木下雅夫氏は「『市田柿』の出荷比率は例年、年内60%、年明け40%であるが、国内の販売単価は12月下旬の最需要期を過ぎると低下していた。安定した販売単価を維持するためには海外輸出は不可欠であった」また「台湾をはじめとする中華圏は、柿を食する習慣があり、市場規模が大きい。特に、旧正月『春節』には贈り物をする習慣があり、日本産の商品は高価で品質が良いイメージが強く、チャンスと捉えた」と語る。今後については「海外輸出における一番の課題は『賞味期限』の延長であったが、これは包装資材の改善等で対応可となったため、ベトナム、イタリアを重点市場に設定、また、新たに米国の市場調査を実施していく」と市場開拓の可能性について語る。
なお、海外では2007年に香港、2008年は台湾で商標登録、2019年にマレーシア、2020年にシンガポール、2021年はベトナムでGI登録、EUは2019年に日本とEUのEPA発効に伴いGI産品は相互保護されている。

3. 地域ブランド「市田柿」による地域活性化
(1)官民一体となった「南信州・担い手就農プロデュース」による新規就農者への支援
「市田柿」はGI登録をはじめとするブランド強化の取り組みにより、地域ブランドとしての価値は大きく向上した。一方、生産農家の年齢は70歳代以上が54%(2022年時点)を占め、高齢化や担い手不足による生産量の減少という課題を抱えている。
JAは2017年4月に担い手支援室を設置。翌2018年4月から新規就農者のための「みなみ信州農業研修制度」を開始し、これまでの農作業技術中心の研修から栽培技術や経営ノウハウ等の習得を含めた研修に見直したが、新規就農者のための住宅や農地の確保が課題となっていた。そこで同年11月に担い手支援室が中心となり、行政とのより緊密な連携を図るため「南信州・担い手就農プロデュース※」(以下、同プロデュース)を8市町村と連携してスタートし、2020年6月には管内14市町村すべての参画を得ている。
※2020年12月に「地域発元気づくり支援金」優良事例表彰式で長野県知事賞を受賞している。
前出の木下氏は、同プロデュースの設立にあたり「JAと行政は互いに強みを持つ分野を担当し、より利便性を高めることに注力した。例えば、行政からは就農支援、農地あっせん等を行う農業部門と移住促進部門の両部門に参画を呼びかけるなど配慮した」と語る。
同プロデュースの業務は都市圏からの新規就農希望者に対する研修(「南信州担い手就農研修制度」)から就農・移住・定住まで、官民協働でワンストップによる相談・支援の実施である。一般的には管内に複数の自治体を抱える場合、自治体ごとに政策が異なるため運営は難しいと聞くが、情報共有を含めJAのリーダーシップにより、地域の自治体がまとまって事業を進めていることが同プロデュースの特長と言える。

長野県南信州 就農&移住 総合ガイド
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