文字サイズ

地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

全国初、冷凍野菜で機能性表示食品に認定
「国産冷凍ほうれんそう」への思い

宮崎県 株式会社ジェイエイフーズみやざきの取り組み
藤井晶啓 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)常務理事 

 日本人の健康志向が強まり、厚生労働省が1日の野菜摂取量350gを推奨する中で、冷凍ほうれんそうは便利な味方です。国産冷凍ほうれんそうを消費者に届けようと宮崎では工場と産地をつくりました。品質が安定しにくい軟弱野菜で、いかにして機能性表示食品の認定を得たのでしょうか。
 食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<宮崎県:株式会社ジェイエイフーズみやざき>
 株式会社ジェイエイフーズみやざきは、宮崎県のほぼ中央に位置する西都さいと市に本社と工場を置く。「大地の恵みで笑顔を創る」を目指し、冷凍野菜の製造・販売を主な事業内容とする宮崎県経済農業協同組合連合会(以下、「JA宮崎経済連」と略す)の子会社。従業員数は117人(2023年12月現在)。売上高は1,778百万円(2023年9月末決算)。

1. 高まる健康志向。野菜、足りていますか?

 私たち日本人の健康志向は、コロナ禍を経てさらに高まっているようです。高齢化社会の最先端グループにいる日本では、健康な老後を迎えたいと健康維持への関心が強まっています。また、増加するストレスへの対抗策として心身の健康が注目されるようになりました。バランスの良い食生活やフィットネス等への意識は高まる一方です。
 ところが、例えば「野菜は健康に良い」と分かっていても、意識し続けなければ十分な量を食べることにはつながりません。実際に、健康づくりの指標である「健康日本21」は、成人1人で1日当たり350g以上の野菜を取ることを勧めています。しかし、実際の摂取量は280g(厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査より)にとどまっています。
 そのような中で、冷凍野菜への注目が高まっています。冷凍野菜は長期保存が可能で、あく抜き等の手間と時間を短縮でき、ゴミがほとんど出ないなどの利便性が高く、また、品質も安定しています。さらに多くの食品の価格が上昇している中で、価格が比較的安定しているのが冷凍野菜です。
 スーパーの冷凍コーナーにおいて冷凍野菜の棚で大きく場所を占めているのはブロッコリーとほうれんそう。特に、ほうれんそうは栄養価が高く調理方法の幅も広いので、家庭はもとより中食・外食でもさまざまな形で重宝して使われています。国産の冷凍ほうれんそうは消費者である私たちにとって人気が高いアイテムです。
 冷凍ほうれんそうで日本一の生産地である宮崎を訪ねてみました。

2. 消費者に国産冷凍野菜を届けるために、工場と産地をつくる

 冷凍に仕向ける加工用ほうれんそうは、生鮮野菜として流通する青果用とは品種も育て方も違います。青果用を冷凍するわけではありません。「消費者に国産冷凍野菜を届けるために、工場と産地をつくる」という考え方のもとに設立されたのが「株式会社ジェイエイフーズみやざき」です。
 ジェイエイフーズみやざきの冷凍加工工場は、冷凍野菜として全国で初めての機能性表示食品として認定された「宮崎育ちのほうれんそう」をはじめとする冷凍野菜の製造・販売を主に取り組んでいます。
 加工用ほうれんそうの産地は、冷凍加工工場が位置する西都市を中心にした県内3JA(JA宮崎中央、JA西都、JA尾鈴)が中心であり、契約栽培した50余りの生産者と2つのJA出資法人、さらにジェイエイフーズみやざきの自社圃場ほじょうで構成されています。

3. 土づくりから収穫までを分業化

ジェイエイフーズみやざきウェブサイトより
https://www.jafoods-miyazaki.jp/product/hourensou/

 加工用ほうれんそうは、丈が大きく葉が厚いことが特徴です。青果用の草丈が25㎝前後であるのに対して、加工用は倍以上の草丈で中には60㎝を超えるものもあります。生育期間も青果用の2倍を超える80~140日を要します。
 生育期間が長いということは、その分、栽培管理に手間がかかり、天候の変動リスクへの対応が求められます。また、軟弱野菜であるほうれんそうは、収穫作業とその後の調製作業に手間がかかり、鮮度低下が早い野菜です。
 このため、ジェイエイフーズみやざきが最も労力を要する収穫作業を受け持ち、生産者がそれまでの堆肥散布を含む土づくりから除草等の栽培管理を担い、JA出資法人が播種はしゅ、防除の作業受託を可能にするなど、3者で分業することで生産性を高める工夫を重ねています。
 そして、分業化した3者をつなぐ役目を果たすのが、ジェイエイフーズみやざきでフィールドコーディネーターを務める皆さんです。リーダーの押方おしかた真人さんに、お話をお聞きしました。

4. フィールドコーディネーターは生産を支える縁の下の力持ち

株式会社ジェイエイフーズみやざき 業務部 原料課 原料係 リーダー 押方真人氏

 冷凍に仕向けるほうれんそうの生産は、全ての圃場で生産者との契約栽培で行われます。そして、フィールドコーディネーターは、生産管理から出荷まで、全体の数量、品質とスケジュールを調整すかなめとして、縁の下の力持ちの役目を果たします。
 まず、8月上旬のお盆前には、ジェイエイフーズみやざき、JA宮崎経済連、およびJAで当年産の生産計画を共有した上で、生産者ごとに加工用ほうれんそうの面積契約を行います。押方リーダーは「数量での契約ではないのは、面積で契約することで生産者の皆さんにほうれんそうを安心して育てていただきたいからです」と語ります。
 そして、お盆明けから栽培の留意点について生産者とJAを対象にした「加工ほうれんそう栽培講習会」を開催します。そのときには、前年の反省を踏まえて留意してほしい点について、フィールドコーディネーターから説明します。例えば、2023年8月の栽培講習会では、2022年度に排水不良による黄化症の発生が見られたことから、圃場準備や排水対策を説明するとともに、昨今の肥料価格の高止まりを受けての低コスト新規肥料の導入や、土壌診断による施肥設計の適正化等の提案がありました。

図:加工用ほうれんそうの栽培暦
加工用ほうれんそうの栽培暦

 同時に8月には土づくりが始まります。宮崎の土地はシラス台地であり、ほうれんそうにとって酸性土壌は大敵ですから石灰肥料による土壌のph調整が欠かせません。また、堆肥の投入量は青果用の慣行に比べて2倍以上。8月の炎天下に短時間に大量の堆肥を散布することは大変です。しかし、土づくりで収穫量が決まることから、加工向けの多収穫栽培のためには欠かせない作業になります。
 9月下旬から11月にかけて、地域により時期を調整しながら播種が始まります。その後、病害虫の発生に応じて防除を行い、また、中耕(作物を植えた列と列の間を耕すことで、土を柔らかくして作物の生長を促す)や、除草も生育状況を見ながら都度行うことになります。除草用の機械の開発は進んでいますが、生産者の手でやらないといけない箇所も多い作業です。
 このように、生産者が栽培を続ける間、フィールドコーディネーターは、契約圃場を週1回のペースで巡回します。天候変化による生育のブレを見極め、圃場の生育状況を個別に把握しながら、収穫時期や収穫量を予測し、最終的に冷凍加工工場の稼働日に合わせて、どの圃場をいつ出荷するかの判断までを行います。
 そのため、日々の巡回では、記録用タブレット等を携えながら、病害虫が発生していないか確認し、必要に応じて、当該圃場の生産者に防除や追肥をするよう連絡を行います。また、巡回中にも生産者からの栽培管理についての相談に乗ることも日常です。

首相官邸 未来投資会議 構造改革徹底推進会合 令和元年11月22日 資料より

 1日に20圃場程度を回らなければなりませんので、日の出から日の入りまで9月の播種から収穫が終わる3月まで毎日、圃場巡回が続くことになります。
 栽培工程管理ではジェイエイフーズみやざき独自の「生産管理システム」を活用して、各圃場の生育状況をほうれんそうの「高さ」と「見た目」で把握し、端末からクラウドにその場でアップすることで各圃場の生育を逐次モニタリングし、生育状況の見える化と早め早めの対策を進めています。
 収穫時期になると、フィールドコーディネーターは生産者とコミュニケーションをとりながら、「草丈が低いこの圃場は追肥をして収穫を後ろにずらしましょう。草丈が十分伸びているこの圃場は前に持ってきていいですか」と、収穫の段取り調整に入ります。
 特に、収穫が大詰めを迎える春先の2月や3月は暖かくなるほど、ほうれんそうは品質の変化のスピードが日ごとに速くなるため、フィールドコーディネーターとして気の抜けない日々を過ごすことになります。
 収穫後、原則として30分以内に工場に持ち込み、冷凍加工工場では24時間以内に冷凍加工します。鮮度を保ち、栄養と風味を最大限引き出すためです。また、冷凍ほうれんそうは、選別機と作業員約40人の肉眼で異物や黄色化した葉を徹底的に取り除く工程を繰り返しています。

首相官邸 未来投資会議 構造改革徹底推進会合 令和元年11月22日 資料より

1 2
記事一覧ページへ戻る