⇒「簡易ハウス」と「スマート農業」などの普及で「それでも、また前を向く」、「夢は果てしなく」
「なつたより」も普及しつつあり、一安心していたところ、「好事魔多し」との諺もありますが、令和5年(2023年)1月の寒害が、私どもを襲いました。
「地球温暖化が進んでいるのに、なぜ寒害か?」と疑問をお持ちの方もおられるかと思いますが、「地球温暖化なのに、大雪」と同様に、実際に起きるのです。専門家の方からは「地球温暖化に伴う『極端な気象』の一つ」と説明されているようです。
「びわ」の「幼果」(小指の先ぐらいの小さな果実)の頃に、マイナス3℃の気温に4時間さらされると、半数近くの「幼果」の種子が、黒く変色し、いわば「凍死」するといわれています。
気象庁のデータによると、令和5年(2023年)1月24日から25日にかけて、長崎地方気象台の最低気温はマイナス3.6℃に達しましたが、1時間ごとにみると、マイナス3℃以下を記録したのは、25日の午前0時、1時と3時のみでした。「びわ」園地では、多少は、より低い気温だったとは思いますが、ごく短時間での低温であったことは同じと考えられます。
そのような「一瞬」で、「びわ」は「凍死」してしまうのです。露地ものの「びわ」のうち、8割程度の「幼果」が「寒害」でやられました。
地球温暖化で、暖かい気候に慣れてしまったなか、急に寒くなると、人は「風邪」をひいてしまいますが、「びわ」の実は「凍死」し易くなってしまうのかもしれません。
そのとき、私どもは、JA長崎せいひ の役職員を退き、長崎びわ部会 のメンバーとして、また一生産者として「長崎びわ」づくりに励んでおりましたが、「もうどうにもならん」「つくりきれん」と意気消沈する生産者仲間もおられました。
もちろん、私どもも、がっくり肩を落としましたが、生産者同士、お互いに励ましあい、「それでも、また前を向く」こととしました。
これからも、地球温暖化が進み「極端な気象」が起きることを想定しなければなりません。
温度管理ができるビニールハウス、できれば風にも強い「連棟標準型ハウス」の設置が、効果的なのですが、コストが大きな課題となっていました。
そこで、安価な「簡易ハウス」(パイプ間隔を拡げ、パイプを細くするなどし、費用を半減させたもの)の普及も進めることとしました。
それでも、私どもを含め、高齢化が進む生産者においては、「借金してまで、ハウスば造るんは、ようできん。」という方も大勢います。
そこで、JA長崎せいひ と相談して、「ビニールハウスのリース」制度を創設してもらいました。
果樹用の「ビニールハウスのリース」制度は、他県でも事例があるようですが、「びわ」専用としては日本初と聞いております。
特徴としては、「びわ」の接ぎ木から出荷までの、いわば投資回収期間を考慮し、「据え置き4年」としたところにあります。
「これならハウスを造りきる。ありがとう。」と、生産者仲間の元気も、ますます出てきたように感じます。

「スマート農業」にも、積極的に取り組んでいます。
まずは「ドローン」による省力化です。
日当たり、水はけを考えると、急傾斜地が「びわ」の園地に適しているのですが、そのため、高齢者にとっては、農作業の負担が大きいものになっています。
さきほど「がんしゅ病」に触れましたが、その他の病気や害虫にも気をつけなくてはなりません。
その防止のため、必要最低限ではありますが、投薬し、「びわ」の抵抗力をアップさせたり、防除しておく必要があります。
今はやりの「ドローン」を積極的に投入し、効果的に薬を散布することで、農作業の「省力化」を図っており、生産者仲間から大いに喜ばれています。
続いて「LPWA気象観測システム」による出荷予測です。
園地で観測した気象データを、LPWA通信を使用し、クラウドにデータを送り、パソコンの表計算ソフトで、出荷量と時期を推定するものです。
このデータをもとに、流通を担う方々と円滑に情報連携し、新鮮でおいしい「長崎びわ」を、消費者の方にお届けすることができます。
「センサーつき選果機」導入や「パッケージセンター」設置の検討も進めております。
高度な選果機の導入は、固い皮を持つ「柑橘類」などでは進んでおりますが、柔らかい皮の「びわ」では、なかなか難しいものがありました。
技術革新が進み、そのような柔らかい皮の「びわ」でも、選果における機械化を進める目途が立ちつつあり、特にセンサーは、糖度だけでなく、実の中身の状態なども確認できるレベルに達しております。
機械化が進み、更なる品質の平準化やスムーズな出荷体制を構築することで、「省力化」をもう一歩、前に進めるためには、相応の「パッケージセンター」の設置も必要となるかもしれません。
もちろん、「センサーつき選果機」導入や「パッケージセンター」設置に際しては、費用対効果において、ペイするのかどうかも、充分に見極めていきたいと考えております。
少々、大きな話になりますが、「基盤整備」、「耕作放棄地対策および農地流動化」さらには「担い手の確保や育成」も進める必要があります。
「省力化」においては、急傾斜地にあわせた農道整備や、園地を帯状に再編するなどの「基盤整備」に加え、地域の共有財産ともいえる園地を「耕作放棄地」として放置するのではなく、未来に引き継ぐために、「担い手」に集積するなどして、日本一の「長崎びわ」の産地を維持発展させていく必要があります。
西島さんのような、やる気のある「新規就農者」「担い手」を確保し育成するため、長崎県独自の「受入団体等登録制度」を積極的に活用し、「びわ講座」も開催するなど、あらゆる点でサポートして参ります。
他にも、「低樹高化」、「加工品開発」、「びわ産地の認証」や、更なる「ブランド化」など、やるべき課題や夢は果てしなく広がります。
先ほど、“「長崎びわ」は、実は「『協同組合』と深い関係」にある”ことを説明されたかと思いますが、もっといえば、「農業『協同組合』なくして、『長崎びわ』なし」と言ってよいかと思います。
小さな一人一人の生産者が「力をあわせて」、品質の揃った良い「びわ」を育てる。その「びわ」を消費者の方に、新鮮で、おいしくお届けする。そのために農業「協同組合」があり、行政や関係者の方々とともに、生産者の方々の負託と消費者の方々の期待に応える。実際に、数多くのピンチを乗り越え、チャンスに変えてきた。これからの百年も、常に前を向いて突き進んでいく。
これが「『協同組合』の底力」と実感しております。
語りつくせないほど、「長崎びわ」と農業「協同組合」を愛しています。
是非、私どもが丹精込めて育てあげた「長崎びわ」をご賞味いただき、幸せな気分に浸っていただくことを、心から願っています。
最後に
「長崎びわ」のドラマチックな歴史と魅力について、思う存分、お伺いすることができました。「協同組合」の力ってスゴいんですね。
JA長崎せいひ の管内には、まだまだ、おいしいものがたくさんあります。
「長崎みかん」も、魅力がたっぷりです。広大な「伊木力みかん選果場」も、スゴいですよ。

それでは、枇杷色に光り輝く「なつたより」を口いっぱいに頬張ることを夢に見つつ、まだ来ぬ遠い春を、首を長くして待ち続けることとします。
ああ、「びわ」を食べたい。