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4. 弁当の開発・販売体験で
小学生に貴重な学びを提供する「KOBこばA弁」

 同JAでは、こうした事業への参加を食農教育にも活用しています。その一つが、新潟市立小針こばり小学校の「総合的な学習の時間」と連携した弁当開発の取り組み「 KOBAこば弁」です。この取り組みでは、原料に地元の農産物を使用し、ファーマーズマーケット「いっぺこ~と」で販売する弁当の開発に、同小学校6年生が参加するとともに、実際にいっぺこ~とで販売体験も行いました。

児童がいっぺこ~との店頭で弁当を販売
商品を買ってもらうことの重みや喜びを実感

 同小学校の「総合的な学習の時間」では、以前から農業体験などの職業体験を行っていましたが、農産物や商品が生産された後、流通・販売する過程を児童が体験する機会を持てていませんでした。そこで、「KOBA弁」の取り組みでは、児童が店頭で実際に来店客への商品説明や引換券による代金精算を行うなど、販売や顧客対応を体験できるようにしました。また、6年生の各クラスで弁当を開発してクラス対抗形式にしたことも、子どもたちの意欲を一層高める効果があったようです。店頭での販売を体験した児童からは「自分が考えたものを自分で売れるのが楽しい」との感想が聞かれました。
 一方で、良い商品をつくるにはそれなりの費用が必要であること、かかった費用に見合う価格にしなければ事業として成り立たないことなどを学んでもらいたいという思いから、JAは価格にもこだわっており、弁当は700円という価格設定で販売されました。それでも弁当はあっという間に完売。児童は、商品が必要な人のもとに届き売買が成立することのリアルな姿を経験することができたようです。JAにとっても、ファーマーズマーケットの売上高が落ち込みがちな冬場の時期の集客につながっています。

地元の食材を使用し価格にもこだわった「KOBA弁」

5. 組合員の事業参加とJA職場づくりを支える広報活動

 JAがニーズに応えるために事業の情報を組合員のもとへ届ける必要があることはいうまでもありませんが、それに加え、組合員にJAの事業運営へ参加してもらう上でも、JAがどのような事業を行っているのかを知ってもらうことが欠かせません。そうした役割を中心的に担っているのが広報活動です。
 同JAではこの広報活動にも注力しており、正組合員向けと准組合員・地域住民向けの各種広報誌やプレスリリース、同JAウェブサイトへの掲載、YouTube・各種SNS・LINEなどで精力的に情報を発信しています。
 広報活動を担当する組織広報課が特に大切にしているのはスピード感。2024年10月4日に同JAウェブサイトに掲載された前述の「准組合員ステップアップ活動」の記事を見た筆者が、同日中に酒井課長にお電話でお話を伺ったところ、なんと「先ほど開催したばかりなんですよ」とのこと。少しでも鮮度の高いうちに情報を発信しようという姿勢に驚かされました。
 プレスリリースにも力を入れています。同JA設立1年目の2022年度は40本、翌2023年度は63本のリリースを発信し、2年間で報道機関に取り上げられた回数は362回。これを広告に換算すると9億円超の出稿費用がかかるといいます。
 同JAウェブサイトでも公開されている広報誌「かがやき」では、毎号、正組合員の農業者を丁寧に取材し、特集記事「今月のイケてる農家さん」に仕上げています。誌面だけでは伝えきれない取材農家の魅力は、取材のメーキング動画としてYouTubeで公開しています。

広報誌「かがやき」の特集記事「今月のイケてる農家さん」取材メーキング動画

 また、同JAは役職員向けの広報活動にも力を入れています。JAはさまざまな事業を行っているため、働いている職員であっても直接携わっていない事業のことまで詳しく知っているとは限りません。しかしながら、組合員から見れば当然、どの事業部門であってもJAはJA。担当外の事業であっても組合員から尋ねられればある程度の説明が求められますし、専門的な対応を行うためにどの担当者の力を借りれば良いかを把握している必要があります。加えて、同JAは2年半前に設立されたばかりの新しい組織であり、職員同士で面識がないことも多い状況です。
 そこで、同JAでは内部広報誌「SHINE REPORT」を毎月発行し、職員同士、支店・事業所や部署が違ってもお互いの顔と仕事内容が見えるよう、工夫を凝らした内部広報を行っています。これも、組合員にワンストップで利便性の高い対応を行うための努力であるといえます。
 こうした組織内外への精力的かつ魅力的な広報活動が評価され、同JAは、JA全中の2023年度JA広報大賞「総合の部」において大賞を受賞しています。同JAの山嵜勝喜常務理事(企画管理担当)は、「人手不足の中、組織広報課に人材を豊富に配置できているのは合併による効率化があったから。組織が大きくなり組合員が期待と不安を感じている今、広報活動の果たすべき役割は大きい。職員たちが新しいことにチャレンジし結果を残してくれていることは頼もしい限りです」と語ります。

内部広報誌「SHINE REPORT」では職員の顔が見える誌面を展開

 冒頭で述べた、組合員が事業の運営に参加できるという協同組合の特徴は、ニーズが移ろう中でも協同組合が組合員のニーズにかみ合った事業を提供し続けることの基盤であり、協同組合の競争力の源泉となりうるものでしょう。組合員の多様化が進む中にあって、これを効果的に機能させるためには、さまざまな組合員の声、それもJA・協同組合の核をなす「事業への声」を聞き、生かすための仕組みづくりと、その前提としての事業情報のスピーディーかつ丁寧な発信が欠かせません。今回紹介してきたJA新潟かがやきの地道な実践は、それらの一つの具体像を示しているといえるでしょう。

岩﨑真之介 いわさき・しんのすけ

1987年長崎県生まれ。広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期単位取得、博士(農学)。
2017年より一般社団法人JC総研(現・JCA)副主任研究員、2023年より現職。著書に『顧客を直視する農協共販 農業者と実需者との相互作用』(2023年)、『つながり志向のJA経営 組合員政策のすすめ』(2020年、共著)など

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