4. フレームワークの具体化を後押しするプロセス管理
このようにフレームワークを具体化するための体系化を図ったが、各取り組みについて、例えば地域貢献活動は活動すること自体が目的化するように、その果たすべき役割に沿った取り組みとは容易にはならなかった。また、前述した利益ベースの業績管理を導入している中で、全体像に明示された地域貢献活動をはじめとするいくつかの取り組みは直接的に利益を生み出すものではなく、現場からは「何を目指そうとしているのか分からない」といった声が聞かれた。
そこで導入したのがプロセス管理である。同管理は、フレームワークを重要成功要因→重点施策→行動計画という形で分解したものであり、業績管理の対象である行動計画を達成すればフレームワークの具体化に寄与することができる構造、すなわちその行動に求められる役割を果たせる構造となっている。また、行動計画の業績評価指標は行動量であって利益ではない。現場に対して一義的に求めるものが利益ではないことも明確である。
このように、プロセス管理は一連の業績管理や業務のあり方の見直しを経て、一つの到達点として導入されたものである。とはいえ、職員の日々の行動に改めて大きな変革を迫るものであり、それがすぐにうまくいくはずはない。また、JAは事業体であり、プロセス管理の導入後も一定の利益を上げることや事業量の確保が求められることに変わりはない。しかし、例えば直近の貯金量は2年連続で期首割れとなった。
こうした中で、プロセス管理を導入して2年目の2025年度にいくつかの見直しが図られている。まず、重要成功要因、重点施策、行動計画のいずれについてもその内容の見直しが図られた。それら3つは、フレームワークを実現するためのいわば仮説といえるものであるが、その仮説が妥当ではなかったと判断されたといえる。
また、業績管理の対象として、行動計画の業績評価指標だけでなく、重点施策の業績評価指標も位置づけられることとなった。これは、重点施策に結びつかない行動計画の実践が散見されたための措置であるが、重点施策の業績評価指標の中には事業の獲得件数などもある。一度は姿を消した事業量をベースとする管理・評価が、限定的に復活することとなったわけである。
さらに、行動計画の一部については、支店が独自にその内容を定めてよいこととなった。これは、これまでの組合員・地域とのつながりの深さや事業環境が異なる中で、画一的な行動計画では現場が動きにくかったことを意味している。フレームワークでは「支店が中心」となって行動していくことを定めており、その方向に沿った見直しといえるだろう。
このように、革命的ともいえるJAぎふのプロセス管理は、試行錯誤の中で進められており、まだ完成形には至っていない。
5. 人に優しいJA経営を目指して
本稿では、JAぎふにおける近年の業績管理のあり方の見直しを中心に見てきた。一連の見直しの背景について、同JAの岩佐哲司代表理事組合長(写真)に尋ねたところ、「本来の協同組合に備わっている人への優しさを実現するため」という答えが返ってきた。世界の協同組合における共通のスローガンである「一人は万人のために、万人は一人のために」に象徴されるように、協同組合は困っている人を助けるための組織である。岩佐組合長のいう「優しさ」とは、まさに困っている人に手を差し伸べることを意味する。

こうした優しさの発揮が当たり前となるには、まずは職員が変わり、それに触発されて組合員が変わり、そして地域全体が変わっていくことが期待されるが、本稿で見てきたフレームワークやプロセス管理は、そのスタートとして「職員が意識や行動を変えるための取り組みである」と、岩佐組合長は教えてくれた。
では、現段階で職員の意識や行動はどの程度変わってきているのか。岩佐組合長は、ホップ・ステップ・ジャンプの「ホップの着地の手前くらい」と述べた。
JAぎふでは、フレームワークの実現に向けて、職員に対して「提案ミーティング」の実施を奨励している。その概要は図3に示したとおりであり、組合員や職員自身が抱える課題について、有志の職員でチームをつくって解決策を考え、その実施後に振り返りを行うものである。

岩佐組合長は、この提案ミーティングのような取り組みが職員に定着した状況がステップの段階であり、さらに同じ方向に向かってさまざまな取り組みがつながるようになれば、いよいよその状況はジャンプの段階であると考えている。
そしてジャンプの段階に向けて組織を動かしていくために、組合長自ら取り組んでいることを尋ねたところ、「情報を一番持っているのは組合長。その情報を伝えて、職員のコミュニケーションが活発になることを心がけている」と教えてくれた。
現在、岩佐組合長は毎月YouTubeを通じて、全職員に対してJAぎふの理念や課題などを自らの言葉で語りかけている。また、同JAでは毎月各支店で職員が一堂に会す職員会が開かれており、同会に出向いて職員と直接意見交換することに努めている。さらに常勤役員の一致団結を目指して、2週間に1度、業務執行について協議する常勤役員会の後に「役員2部会」を開き、JAぎふの目指す方向性や課題などを話し合っている。また、部長レベルでは毎週「部長会」が開かれ、それぞれが抱える課題の共有化や部を超えた解決策の検討が行われている。
人に優しい組織づくりとは、言ってみれば人に優しくすることを共通の価値観や行動原理とする組織文化をつくるようなものであろう。また、人への優しさの基本を成すのは、やはりコミュニケーションであろう。JAぎふは、組合長自らの率先した行動、さらには他の常勤役員や部長等も含めた組織の上に位置する人たちの行動を梃子として、新たな組織文化をつくり上げようとしているのである。