地域の元気を生み出すJA
尾張で始まる大高菜
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
<愛知県:JAなごや>
経営理念
人と人との絆で地域と共存するJAなごや
JAなごやは、協同組合の原点である「人」と「人」との絆に重きをおき、人々が共に参加し、協同することにより、組合員と地域の発展に寄与していくことを目標とします。
事業量
貯金残高 / 9,446億円
貸出金残高 / 2,489億円
長期共済保有高 / 1兆2,092億円
購買品供給総取扱高 / 10億753万円
販売品販売総取扱高 / 6億2,339万円
基準日 令和7年3月末現在
【JAなごや Webサイトから抜粋】

尾張国大高の地で、大事に守られ、受け継がれている瑞々しい「大高菜」
「大高菜(おおだかな)」って、大きな「高菜(たかな)」のことですか?
尾張国知多郡「大高(おおだか)」村に由来する「あいちの伝統野菜」なんですよ。
皆さん、「大高菜(おおだかな)」ってご存じですか?
大きな「高菜(たかな)」ではありませんよ。
名古屋市緑区の公式ウェブサイト(抜粋)によれば、次のとおりとされております。
► 大高菜は古くは江戸時代から大高村の特産品として知られた伝統野菜で、香り高く、繊維質が少ないため、やわらかで上品な口当たりが特徴です。
► 大高菜は、江戸時代末期のこの地方の名勝や名産などを描いた「尾張名所図会(おわりめいしょずえ)」に、大高村の特産品として登場します。
► 大高菜は、現在でも大高地区では家庭菜園を中心に小規模ながらも栽培されています。
► 平成14年には、4つの定義を満たす「あいちの伝統野菜」に選定されました。
JAなごや では、地域の電力会社である中部電力との、「大高菜」を守る共同研究を通じ、「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」(第30回JA全国大会決議「主題」)を、実践しています。
JAグループ内でも電力事業を展開しておりますが、JAと地域の電力会社の共同研究なんて、なかなか異色の組み合わせのようでもあり、なんだか、おもしろそうですよね。
早速、JAなごや 山口組合長のもとに参上し、貴重なお話を伺ってみましょう。
「縁」と「絆」を大事にし、地域とともに歩む道
弊組合の大高支店に、お近くの中部電力の電力技術研究所の方が、ときどき、肥料や資材を買いにお越しになっておられた、ご「縁」がありました。
大高支店では、「なんで肥料を買うんだぎゃー」と不思議に感じていた模様ですが、世間話をさせていただくなかで、「研究所のバイオグループで、農業と電気の力で地域振興していく研究をしている」とのお話をお伺いしまして、地域振興部を交え、もっと親しくなるなかで「これもご『縁』なので、一緒に『あいちの伝統野菜』を守る活動をしよめぇ」との話になったと、聞いております。
弊組合は、風通しが良い組織風土ですので、直ぐ、私のところに話が持ち上がりました。
私が「大高菜」の生産者であり、また実際に「バイオ炭」を作って撒いて(施用して)いたことから、とんとん拍子に「2022年度から『バイオ炭』を施用した『大高菜』の栽培試験をやりましょう」ということで、話が決まったのです。
私の作る「バイオ炭」は、簡易的な「もみ殻くん炭」なのですが、それを苗床に混ぜると、温度が上がり、苗の育ちが良くなります。
家庭菜園をされておられる方におかれましても、バケツ一杯の土に、大さじ一杯の「もみ殻くん炭」を混ぜ込むだけで、「ふっくらした良い土になったね」と実感されること間違いなしです。
このように、私も生産者目線で、「バイオ炭」の良さを、肌で感じておりました。
そんなこんなで、気がついたら、私は、中部電力の電力技術研究所の栽培試験圃場で、耕うん、畝立て、水やりから収穫まで、「大高菜」の栽培技術を伝授しておりました(笑)。
もちろん、種苗は、私が提供しましたし、家に伝わる秘伝の栽培技術書も進呈しました。
後ほど説明しますが、私の畑で、「大高菜」の比較栽培も行う予定です。
桶狭間の戦いのときに、若き日の徳川家康が「兵糧入れ」を行った「大高城」に「縁」(ゆかり)あるこの地で、先祖代々から受け継いできた「大高菜」を守り、後世にしっかりと伝承していくことが、私を含めた「大高菜」の生産者の使命であり責任であると感じておりましたので、このようなお話を頂戴し、研究に参画したことは、JAの組合長として、一生産者として、また地域住民の一人として、とても嬉しく感じております。

弊組合では、「縁」と「絆」を大事にする業務運営を徹底しております。
中部電力の電力技術研究所と、弊組合の大高支店とのご「縁」から、「大高菜」と「バイオ炭」との「縁」につながり、「地域伝統野菜『大高菜』の栽培へのバイオ炭の活用」を共同で研究する「絆」へと発展してきました。
JAは、「組合員や地域の方との『絆』」がなくては、その力を発揮することもできず、存在意義もありません。
これからも、「縁」を大事にし、協同組合の原点である「人」と「人」との「絆」に重きをおき、組合員や地域の方とともに協同し、地域の発展に寄与し続けて参ります。
続いては、現場で奮闘している、弊組合 地域振興部 農業振興課 河村主任から、技術的な話を聞いてみてください。
「バイオ炭」の「土壌改良」効果で「大高菜」を守り抜く
「そもそも『バイオ炭』ってなんですか?」、「『バイオ炭』と『木炭』と何が違うの?」と、よく聞かれます。
「バイオ炭」は、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度で『バイオマス』を加熱して作られる固形物」とされています。

また「『バイオマス』ってなんですか?」とも、よく聞かれるのですが、それは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」とされています。
農地施用(農地に使う)される「バイオ炭」の原料となる「バイオマス」は、山口組合長が申した「もみ殻」をはじめ、剪定枝、竹、流木、間伐材、製材所端材から、家畜の糞まで、数多くのものがあります。
もちろん「バイオマス」である木を原料とする「木炭」は、「バイオ炭」の一種ですが、農地に施用するにはもったいないですね。
バーベキューに使ったほうが良さそうです。
「石炭」は化石資源なので、「バイオ炭」ではないですね。
農地施用された「バイオ炭」は「地球温暖化」の「緩和」策として脚光を浴びつつあります。
「大高菜」を守る話から、少々、脱線するかもしれませんが、是非、触れさせてください。
「バイオマス」は、太陽光の力で、地球温暖化ガスの一つである二酸化炭素を植物が吸収し、光合成されるなかで作られるものです。
その二酸化炭素を吸収した分、「地球温暖化」を「緩和」することができます。
でも、そのまま「バイオマス」を自然に置いておくと、生物分解されて、100年後には、せっかく吸収した二酸化炭素のほとんどを放出しつくしてしまいます。
この「バイオマス」を炭化して「バイオ炭」にしたら、どうなるでしょうか?
二酸化炭素から「バイオマス」を経て炭化した「バイオ炭」は、なんと100年後も、かなりの割合(「バイオ炭」の種類に応じて6割から9割程度)で「炭素貯留」しつづけると言われており、その分、二酸化炭素を減少させ「地球温暖化」を「緩和」しつづけることになります。
この「炭素貯留」のメカニズムは、「二酸化炭素を吸収し、新たに石炭らしいものを作り、農地に撒いたりして炭素を地中に固定しておくもの」と言ったほうが理解し易いかもしれません。
「バイオ炭」の農地施用は、「炭素貯留」だけではなく、「土壌改良」に効果のある「農業資材」として、多面的な機能があります。
今回の「地域伝統野菜『大高菜』の栽培へのバイオ炭の活用」の共同研究は、この「土壌改良」を主とした効果に、着目したものです。
一般的な「バイオ炭」はアルカリ性なので、酸性土壌を調整したり、「透水性」、「保水性」と「通気性」などを向上させ、「有用な微生物」の住み家をつくることも期待されます。
特に「大高菜」はアルカリ性土壌を好むので、その栽培には「バイオ炭」の施用が適していると言えます。
「もみ殻」由来の「もみ殻くん炭」は、微量ながらカリウムなどの肥料成分を含むこともあるため、僅かながら「肥料」的な効果もある模様です。
山口組合長が申した「『もみ殻くん炭』を苗床に混ぜると、その温度があがり、苗の育ちが良くなる」との生産者としての実感については、「通気性」によるものなのか、酸化による僅かな発熱なのかは、これから解明されていくものと思われますが、素晴らしい「バイオ炭」の機能の一つであるものと考えられます。
「Jークレジット制度」(温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証する制度。そのクレジットは売買でき、資金循環が期待される。)の対象として、工場プラントで製造されるような、一定の品質確保や均質化が求められる、いわばカチッとした「バイオ炭」もあります。
一方で、簡易炭化器などで作る、いわばナチュラルな「バイオ炭」であったとしても、山口組合長が申したとおり、「土壌改良」効果を、充分に発揮できるものと思われます。
まずは、敷居を低くして、気軽なスタンスで「バイオ炭」施用を取り入れていただけるように、この「大高菜」を守る活動を契機として取り組んでいきたいと考えております。
なお、「バイオ炭」の製造や流通において、廃棄物処理法や肥料法等に留意を要することは、もちろんのことです。
研究だけでなく、共同した様々な取り組みも行い、組合員や地域の方に、広く、「大高菜」を通じ地域を守る意義と、「バイオ炭」の農地施用の効果を、訴えかけることができました。
まずは、大高支店の管内での、大型ショッピングモールでのプレゼンです。
中部電力、農林水産省東海農政局と弊組合との共同で、ブースを設けさせていただき、モールにお越しの地域の方々に、熱く説明させていただきました。

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