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4. 女性会を盛り上げる取り組み~次世代リーダーの育成~

 地域に根差した活動を続ける女性会であるが、他方で課題もある。30年ほど前までは、子育てがある程度落ち着いた頃に、しゅうとめや近所の先輩世代の母親などから女性会への参加を勧められるのが一般的であったと広川ブロック長の岩崎さんは話す。こうした誘いを受けて、主に支部活動に参加することが当たり前であったという。特によその地域から嫁いできた女性にとっては女性会への参加が友達づくりや地域になじむきっかけとなり、「集落デビュー」の意味合いを持っていたと金屋ブロック長の山本さんは述べていた。
 しかし、生活様式が多様化した現在は、若い世代の女性に入会を勧めても断られてしまうようになった。それどころか、支部ごと女性会を退会してしまう事例も出てきているという。2021年には44あった支部は、2025年には35支部にまで減少している。
 こうした会員数の減少という課題はある中で、田中さんは女性会を盛り上げるべく日々尽力している。その取り組みの一つが、次世代の役員の育成だ。
 2025年度のブロック長は、全員この年に就任したばかりである。支部長や副支部長は経験した方が多いが、中には箕島ブロック長の島田さんのように支部長経験がないまま、いきなりブロック長を務めることになった方もいる。
 ブロック長の方々に大変なことを尋ねてみると、支部であればメンバーは近隣の顔見知りの方であることが多く、活動も身近な範囲で行われるが、ブロックはメンバーが多いため活動規模も大きく、運営が大変であるという。また、各支部の支部長・副支部長は面識のない方が多く、役員会において今後の活動方針について意見を求めても、なかなか意見が出てこないことも悩みであるとのことだ。
 こうした苦労を抱えるブロック長に対し、田中さんはブロック長との円滑なコミュニケーションを図るため、事務連絡については事務局を介さず、自分で伝えるよう努めている。また、ブロック長と対面する機会には、折に触れて自身の女性会活動や防災に対する思いを伝えるよう心がけている。これはブロック長に「会長が何を考えてるのか分からない」「ブロックの活動をどう進めたらいいのか分からない」といった不安を持たせないようにするためだ。こうした工夫を通して、彼女たちとの信頼関係を築くよう努めている。
 また、現在のブロック長はこれまで人前に出て話す経験が少なかったため、田中さんは活動の場において、ブロック長が前に出て役割を担える機会を意識的に設けている。その際には会員にブロック長の名前を紹介し、覚えてもらえるようにしている。
 今回取材した防災講座でも、防災食の試食前に調理のデモンストレーションを行った際には、ブロック長が2名ずつ前に出て調理を担当した。また、班ごとの試食の際には、各班にブロック長が付き、班のリーダーとして防災に関する話をするよう促したという。こうした人前で話す経験を積むことは、顔見知り以外の人々に対してもリーダーシップを発揮できる人物への成長につながるであろう。
 田中さんが「育てたい」と考えているのは支部長も同様である。2025年7月には、以前から交流のあったJAならけん桜井しき・宇陀地区女性部から声をかけられたことがきっかけで、同女性部と合同で堺市総合防災センターに出向き、消火器体験や地震体験などの防災研修を実施した。女性会ではこれを「リーダー研修会」と位置づけ、ブロック長および支部長を参加対象とした。
 この研修に支部長も含めた理由について、田中さんは「支部長は支部活動を一生懸命頑張ってくれている人たちですが、なかなか支部の外で活動する機会がありません。そういう人を引き上げたいと前から思っていました。来年もリーダー研修会を通して支部長にもいろいろな経験をしてもらいたいです。それが次のブロック長につながると思います」と話してくれた。
 田中さんが女性会のメンバー育成に取り組んでいる背景には、「女性会にご恩返しがしたい」という思いがある。これまで女性会会長やフレミズ部会長として活動してきた中で、和歌山県内のみならず、近畿地区、さらには全国の女性部の代表者とつながりを築いてきた。また、フレミズ部会時代に、全国家の光大会において家の光協会会長特別賞を受賞したことがきっかけで、6名の部会員と共にベトナムへの視察研修にも参加したという。
 田中さんは、こうした経験や人とのつながりは、自身の力だけでできたものではなく、女性会を通じて知り合った方々が「私を引き上げてくれた」からだと振り返る。そのことへの感謝の気持ちが、現在の女性会メンバーにもさまざまな経験を積んでもらいたいという思いにつながっている。

防災講座開始前に打ち合わせをするブロック長たちと田中さん(2025年9月)
リーダー研修会で消火訓練を体験する参加者(2025年7月)
前に出て防災食の調理の実演をする湯浅ブロック長の竹中さん(左)、清水ブロック長の中峯さん(中央)と、防災食の説明をする田中さん(右)(2025年9月)

5. 女性会を盛り上げる理念~「楽しくなければ女性会じゃない」を目指して~

 女性会を盛り上げる取り組みの一つと言えるものに、女性会に無理なく参加できる楽しさを追求する田中さんの姿勢も挙げられる。
 田中さんは、2014年に会長就任当初から「楽しくなければ女性会じゃない」というキャッチフレーズを掲げ、活動の随所でその思いを本部役員や事務局に伝えてきた。この理念のもと、田中さんが目指しているのは、子育てや仕事が落ち着いた世代に入ってもらえる女性会である。「若い世代にも女性会に入ってほしいけれど、子育てがある人に無理やり入ってもらうと負担になってしまいます。時間ができてきた60歳から楽しんで、30~50代の人が『なんだか楽しそう』と感じ、その人たちが楽しむ余裕ができた時に入ってもらえたらと思っています」(田中さん)
 実際、清水ブロック長の中峯さんは60歳を迎え退職してから女性会に入会した方だ。また、湯浅ブロック長の竹中さんは「会長の方針が本当に腹に落ちた」と言い、自身も周囲に「自分たちが楽しもう」と積極的に呼びかけるようにしている。田中さんも、これまでの経験を「楽しかった」と語ってくれた前ブロック長たちに対しても、その実感をぜひ周囲の人に伝えてほしいと話したという。
 前述の防災講座も、参加者同士の会話が弾み、終始楽しげな雰囲気に包まれていた。箕島ブロック小豆島支部から参加した70代の会員は、女性会に入会して40年程ほどになるが、現在も活動には毎回参加しているという。「女性会の活動は楽しい。いろんな行事があるし、知らないブロックの人でも集まれば友達になれる」と、感想を話してくれた。
 こうした「楽しさ」を大切にする女性会の姿勢は、活動参加へのハードルを下げ、次世代の参加者の獲得にもつながっていると考えられる。その背景には、田中さんが日頃から女性会への思いを役員に伝えていることがあるだろう。役員たちも田中さんの思いを共有した上で活動に取り組んでいるため、会全体として「まず自分たちが楽しもう」という方針が浸透している。だからこそ、実際の活動の場も明るく楽しげな雰囲気に包まれているのではないだろうか。

おわりに

 JAわかやま女性会 ありだ地域本部では、田中さんを中心に、女性会を盛り上げるための人材育成や理念の共有が積極的に行われている。地域と密着した組織である女性会が元気に活動し続けることは、平常時のつながりを育むだけでなく、災害時における共助の力を高めることにもつながる。
 こうした中で、非常時の備えを中心とした防災活動は、いざという時に地域で助け合う力をより一層発揮するための、重要な取り組みであるだろう。

藤崎綾香 ふじさき・あやか

1996年熊本県生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科歴史・人類学専攻(一貫制博士課程)修了。博士(文学)。
2024年より現職。主要論文に「区長就任者の成長過程にみる自治会の存続原理ー沖縄県南城市奥武区を事例にー」(『日本民俗学』 第317号) など。

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