地域の元気を生み出すJA
職員が生成AIを使いこなし組合員との対話・提案に生かすJAへ
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
1. 日々急速に進歩するデジタル技術にJAはどう向き合うか
「訪問件数を増やす努力をしているのは良いことだ。そのうえで、組合員の役に立つ提案をするには、困りごとや不安の把握が欠かせない。組合員との会話を通じて、くらしや家族の変化を掘り下げることが重要だ。その際の切り口は、①家族のライフイベント、②健康・医療の状況、③住まい・生活環境の変化、④日常の出費・生活費の負担の4つだ。例えば、①家族のライフイベントについて掘り下げるなら・・・」
これは、JAの渉外担当者に対し、上司が渉外活動に関するアドバイスとして伝えた内容・・・のようにも見えますが、実際には違います。実はこれ、テキスト生成AIで、筆者がJAの支店渉外担当者役、AIがその支店長役という指示をチャットで行った上で、渉外活動について相談をした際の、AI支店長からの回答を抜粋したものなんです。
こうしたテキスト生成AIをはじめとするAI技術が日常生活にまで浸透し、仕事やくらしのあり方を変えつつある中、またあらゆる業界で人手不足が指摘されJAも職員採用に苦戦する中、組合員の営農・くらしを支え続けていくため、JAにもデジタル技術を取り入れて組織の革新を図ること―デジタルトランスフォーメーション(DX)―が求められています。
本稿では、トップランナーとしてJAグループのDXをけん引するJA横浜の取り組みから、JAにおけるDXの進め方を探ります。
2. 職員の誰もがアプリを開発できる環境を整え、700超のアプリが稼働
JA横浜は神奈川県横浜市を事業エリアとしています。正組合員数は1万683人、准組合員数は6万946人です。
同JAは、共有ビジョンとして「持続可能な地域農業の実現を目指し、農家、地域社会、役職員のみんながHAPPYになれるJAを本気で作りだす」を掲げています。そして、この共有ビジョンの実現に向けたDXビジョンとして「人の温かみとデジタル・ITの力を融合し、都市農業ならではの強みや魅力がより発揮される姿を実現する」を設定しています。
同JAがDX推進に本格的に取り組んだ主な狙いは、組合員からデジタル化を求める声が上がっていること、デジタルツールを当然に使いこなす若い人材からJAが職場として選ばれ続けるようにすること、長期的には避けがたい職員数減少に備えること、の3点でした。
「生成AIが電光石火の勢いで進化している中で、JA横浜が成長し続けるためにはDX戦略が不可欠だと認識しています。これまでJA職員が育んできた組合員・利用者に寄り添う『共感力』に、生成AIなどのデジタル技術の活用が合わされば、職員の提供する価値と組織の生産性は飛躍的に向上するはずです」(経営企画本部 DX戦略室 角田茂樹 ゼネラルマネージャー)
そのDXを着実に進めるため、同JAは2025~2027年度を対象とする第8次総合3ヵ年計画の中に、「DXを活用した経営管理の効率化と提供価値の最大化」を位置づけています。
また、自己改革実施計画では、生成AIの活用によって業務時間を2025年度に2,400時間、3ヵ年計画最終年度の2027年度には4,000時間削減するという目標を掲げています。
そのための取り組みの一つが、kintone(キントーン)の活用です。kintoneは、サイボウズ株式会社が提供している業務アプリ構築クラウドサービスです。ごく大ざっぱに言えば、プログラミングを扱える開発体制がなくとも、簡易なマウス操作によって、業務をデジタル化するための自社に合ったオリジナルアプリを自前で作成できるサービスです。
同JAは、DX推進に着手した当初、データ入力などの定型業務を自動化する技術であるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を部門横断的に進めていました。2020年度には1年間で66業務をRPA化し、もともと年間3,034時間かかっていたそれらの作業を1,036時間まで削減(削減率66%)することに成功しました。
他方で、RPAには、開発に一定のスキルが求められ使いこなせる人材が限られる、事務処理の手順等が見直される度にRPAにもメンテナンスが必要となる、といった課題があり、あまり使い勝手が良いものではありませんでした。そのため、現在、同JAではRPAの新たな活用を見合わせている状況にあります。
それに代えて、定型業務の効率化に向け活用を積極的に進めているのが、前述のkintoneです。kintoneは、その操作の容易さから、同JA職員の多くに活用されています。担い手アンケートアプリや採用管理アプリ、貸出残高報告書アプリなど、2021年の導入から現在までの間で、実に700超のオリジナルアプリが開発・活用されています。それによって、事務作業のうち一定程度がデジタル化され、年間12万8,000枚の紙資料削減にもつながっています。
※令和7(2025)年8月に減少しているのは不要アプリを一斉削除したため
3. オリジナルアプリで、できなかったことを可能に
これらのアプリは、機能の水準に応じて開発難易度にも差が見られます。kintoneの基本的な機能のみで作成できるアプリは同JA職員が作っていますが、中にはプログラミングが必要となるなど開発難易度が高く、その分、かなり高度な機能を備えているものもあります。そうしたアプリについては、後述の「ITプロランサー」が開発を担当しています。
その一つが「やるJAんSHOPアプリ」です。これは、各支店の店頭で購買商品を販売するためのアプリです。同JAの金融店舗には年間37万人の窓口来店者があることから、同じ窓口で購買商品を供給できれば一層お役に立てるのではないか、との狙いで開発されました。同アプリにより、POSレジを導入せずとも、タブレットとバーコードリーダーだけで、購買商品の在庫管理・発注から販売、実績管理まで行うことができるようになっています。
同じく、高度な機能を備えるアプリとして「訪問予定表アプリ」が挙げられます。これは、支店の渉外担当者が、組合員・利用者の訪問にかかる予定・結果や報告書をスマホから申請・提出できるもので、上長による承認の機能も備えています。
こうしたアプリを安全かつ効果的に活用するため、同JAでは全渉外担当者に業務用のスマホが1台ずつ貸与されています。
「訪問予定表アプリの特徴は、訪問結果をデジタルデータとして収集でき、その分析も容易に行えることです。今後、渉外担当者別の訪問行動やそこで聴き取った情報の蓄積が進むことで、それらを実績データと組み合わせて分析し、効果的な渉外活動のあり方を高い精度で抽出することも可能になると考えています」(経営企画本部 DX戦略室 波多野昇 次長)
kintoneの活用については、定型業務を中心とする省力化やペーパーレス化といった効果に目が行きがちですが、波多野次長の指摘のように、業務がデジタル化されデジタルデータの蓄積・活用が容易になることの利点もまた大きいと見られます。