地域の元気を生み出すJA
人と地域をつなぐ手書き広報
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
広報はJAの基盤になり得るか
JAにおける広報活動は、これまで「情報を伝える仕事」や「イメージづくり」として、事業運営の周辺に位置づけられてきた。金融や営農といった“本業”が優先される中で、広報は人手や時間に余裕がある場合に取り組む業務と受け止められがちであった。しかし、組合員の減少や高齢化、地域との関係希薄化が進む現在、JAにとって問われているのは、情報発信そのものよりも、「誰と、どのような関係を保ち続けるのか」という点ではないだろうか。
本稿で取り上げるJA鹿本の広報活動は、この問いに対して実践的な示唆を与えている。JA鹿本では、各支所が主体となって手書きの地区だよりを作成し、それを全職員が一斉訪問日に組合員へ手配りしている。この取り組みは、特定の担当者に委ねられたものではなく、職員一人ひとりが関わる日常業務として、長年にわたり継続されてきた。
その特徴は、見た目の工夫や話題性のみにあるわけではない。手書きであること、顔を合わせて手渡すこと、そして毎月欠かさず続けることによって、組合員との関係をつなぎ、同時に職員自身が地域を知り、学ぶ機会を生み出している点にある。JA鹿本の広報は、単なる情報発信ではなく、人と人との関係、職員の学習、組織としての行動を支える基盤として機能しているのである。
本稿では、この事例を通じて、地域密着型広報がいかにしてJAの組織の足腰を支えているのかを示し、広報の位置づけをあらためて考えてみたい。
JA鹿本の地域・事業基盤と広報の前提
JA鹿本は、熊本県北部に位置し、山鹿市および熊本市北区植木町を管内とするJAである。管内は東西約20km、南北約35km、総面積は約3万6,500haに及ぶ。生産地帯は大きく2つに分かれ、南部の山鹿地区、鹿本町地区、鹿央地区、植木町などの平坦地帯では、施設園芸や野菜生産を中心とした集約的農業が展開されている。一方、北部の鹿北地区、菊鹿地区は中山間地帯に位置し、果樹や畜産など、地域条件を生かした農業が営まれている。このようにJA鹿本は、地形や生産条件の異なる地域を併せ持つ管内構造のもとで、多様な農業を支えている。
令和6事業年度末時点の正組合員数は6,166人、准組合員数は5,164人であり、支所は6か所に配置されている。事業規模は、貯金残高956億円、貸出金220億円、購買品供給高73億円、販売品販売高98億円、長期共済保有契約高3,141億円と、地域JAとして一定の基盤を有している。役職員数は役員37人、職員355人である。
営農面では、スイカやメロンなどのウリ類を中心とした園芸産地として全国的に知られ、とりわけ植木地区のスイカは、日本有数の生産団地を形成してきた。一株一果栽培に代表される高品質生産の積み重ねに加え、セロリや大長ナス、栗、ミカン、ホオズキ、菊、水稲、「やまが和牛」など、多様な品目が地域農業を支えている。
他方で、JA鹿本も例外なく、組合員の高齢化や担い手不足という構造的課題に直面している。作付面積や生産者数の減少は、販売事業にとどまらず、組合員組織基盤そのものに影響を及ぼしかねない。このため、担い手育成センターによる新規就農者支援や、離農者の施設を活用した営農継承など、地域農業をつなぐ取り組みが進められてきた。
このようにJA鹿本は、地域の広がりや行政区分の複雑さ、担い手問題といった制約のもとで、組合員や地域住民との関係をいかに維持・再構築するかを常に問われてきた。その対応として形成されてきたのが、少人数体制のもとでも機能する分散型の広報体制であり、手書き地区だよりと全職員参加型の手配り広報である。
「1人に任せない」広報体制
JA鹿本の広報体制は、決して潤沢な人員に支えられているわけではない。広報業務を所管するのは総務部総務課で、担当者は1人、しかも専任ではなく他業務との兼務である。それにもかかわらず、組合員向け広報誌、地域住民向けコミュニティー誌、地区だより、ホームページやSNS、さらにはメディア対応まで、広範な広報活動が継続されている。これを可能にしているのが、特定の個人に負荷を集中させない「分散型」の広報設計である。
その中核に位置づけられているのが、平成25年に設置された広報編集委員会である。委員会のトップは代表理事組合長が務め、参事や担当部課長が構成員として加わる。年度内に複数回開催されるこの委員会では、組合員向け・地域住民向け各媒体の内容検討に加え、地区だよりの編集方針やウェブ媒体の方向性、日本農業新聞への送稿などについて意見交換が行われる。広報の位置づけや方向性が組織の中枢で共有されている点は、少人数体制を下支えする重要な要素となっている。
また、JA鹿本の広報は、総務課だけで完結する業務ではない。営農指導課や販売課からは、農畜産物の初出荷や旬の話題が日常的に共有され、青年部や女性部の事務局とも、地域行事や活動の取材を通じて連携が図られている。こうした情報の循環により、広報担当者は情報収集に奔走するのではなく、集まってきた情報を整理し、編集・発信する役割に専念することができる。
JA鹿本の広報は、1人の担当者に業務を集中させるのではなく、組合長を含む広報編集委員会による方向づけと、各部門・組織間の情報共有によって支えられている。この運営構造により、限られた人員でも広報活動が日常業務として継続可能となっている。
SNS(Instagram)での発信を担当する総務課の小原さん(写真:筆者撮影)
総務課の原課長(左)と広報担当の田中係長(右)(写真:筆者撮影)
「手書き地区だより」という教育装置
JA鹿本の広報を語る上で欠かせないのが、各地区で発行されている「手書き地区だより」である。地区だよりはA3判1枚のシンプルな構成で、地域の行事や営農の話題、職員紹介などを掲載し、毎月の手配り広報とあわせて組合員に届けられている。この地区だよりは、情報を伝える媒体であると同時に、職員を育てる仕組みとして機能している点に特徴がある。
手書きという形式は、効率だけを考えれば合理的とは言えない。しかし、文字の癖やイラスト、余白の使い方から書き手の存在が伝わり、「誰が、どんな思いで書いているのか」が自然と読み取れる。地区だよりは単なる掲示板的な情報媒体ではなく、JAと組合員をつなぐ“顔のある紙面”として位置づけられている。
同時に、この地区だよりは職員にとっての学習の場でもある。何を載せるかを考える過程で、地域の出来事に目を向け、関係部署に話を聞き、限られた紙面で分かりやすく伝える工夫が求められる。これは特別な研修ではないが、地域理解や対話力、情報整理力を自然に鍛える実践の機会となっている。
この点が最も端的に表れているのが、植木支所の取り組みである。植木地区は全国的にも知られるブランドスイカの産地であり、営農の現場と支所業務が密接に結びついている。同支所の地区だよりは、支所職員だけで完結させるのではなく、営農指導員と支所職員が日程を調整し、協働で内容を作り上げている。生産現場の写真や作業の様子を盛り込みながら、生産者や職員の人となりや季節感を伝える紙面は、産地の営みを具体的に可視化している。
ここで重要なのは、地区だよりづくりが「書く人のセンス」に依存した作業になっていない点である。営農と支所が一緒に紙面をつくる過程そのものが、職員同士の理解を深め、情報を共有する機会となっている。地区だよりは結果として残る成果物だが、その背後には、部署を超えた協働と学習のプロセスが組み込まれている。
このように、手書き地区だよりは、情報発信の手段であると同時に、職員が地域を知り、関係を編み直していくための教育装置として機能している。
地区だよりを協働で制作する植木地区の職員(写真:JA提供)